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アスイェ•Asyeh  作者: 新城凪
その三:成長は痛みを伴う
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第十八話:アスイェの昼休み

屋敷がいちばん静かになるのは――アスイェの休み時間だった。

風はまるで見えない蛇のように椅子の脚を回り、彼の袖をなぞり、そのまま彼のそばを通り抜けて消えた。

アスイェは庭に置かれた長椅子にもたれて、目を閉じている。

元々腰を下ろしているだけだったが、静かになると、アスイェは瞼を閉じ、呼吸もゆっくりになり、眠りに落ちそうになった。

彼は眠りに落ちそうになった。

だが、その静けさは簡単に破れた。

かすかな音が、途切れ途切れに屋敷の中へ広がってくる。

最初は足音だった。ばたばたと慌ただしく、何か小さなものが落ちた気配がして、

すぐに幼子の声が続いた。

「あ……」

彼は誰だかをわかっていたから目を開かなかった。

――セラフィナは最近、やたらと元気がある。

走り回らないときでも、何かを探して屋敷を歩き回っている。

時々アスイェを連れて、いわゆる「アスイェが見たことのないもの」を見せていた。

「ほら!ねこ!」

「風がうるさい!」

そうして、セラフィナは問いかけてきた。

「たべないの?」

「なぜセラじゃいけないの?」

「コウモリにへんしんできるの?」

アスイェは答える時があれば、答えない時もある。

そしていつも騒いだあと、セラフィナは彼の腕の中に入り、「疲れているの?」と聞く。

時々彼は確かに、「疲れ」を感じる。

それは変な感覚だった。

まるで体の内側に、ふわふわとした何かを閉じ込められ、このまま横になっているしかないような感覚。

アスイェは忘れたと思ったが、彼はこの感覚を昔から知っていた。

かつて――やまいを越えたあとの子どもも、セラフィナのように騒ぎ、笑い、走り回った。

子供が元気になるほど、彼は疲れていった。

「アスイェは、ゆめを見てるの?どんなゆめ?」

アスイェは目を開けなかった。

セラフィナは彼の指をつかまえて、自分の話を始めた。

「セラはね、ゆめをみたの、大きなつばさがあったの。セラは空に飛んでる。アスイェは下にセラをまっていた!」

「……アスイェ……きいてるの?」

アスイェは本当に深い眠りに落ちているらしく、返事がなかった。

しかし、セラフィナは彼の指を離した瞬間、セラフィナの手首はもう掴まれていた。

セラフィナが何か言う前に、アスイェはその子を自分の腕の中に閉じ込めた。

「セラ、うるさい……このまま静かにしていろ……」

アスイェは目を閉じたまま、また休みに沈んだ。

セラフィナはこっそりと笑って、おとなしくしていた。

***

アスイェが目を開ける時、風はまだ吹いていた。

花はゆっくりと揺れている。

彼の知る風にしては、やさしすぎる。

だが、それはアスイェの感じた違和感ではなかった。

肩が暖かい。

だが、それは毛布からのものでも、日の光からでもなかった。

それは子供の体からのものだった。

セラフィナは彼のそばに寄り添って座り、身を傾けながら、指先で彼の手を静かに触れていた。

セラフィナはまだ、アスイェが目を覚ましたことに気づいていなかった。

幼子の体は正直だった。

彼女のお腹が大きく鳴った。

顔を上げるとアスイェと目があった。

「いいの?」

アスイェはすぐには答えなかった

でもセラフィナの次の言葉がアスイェの表情を変えた。

「アスイェ、いたの?」

セラフィナは、デコピンをくらった。

幼子は「あーいたい!」と叫び、うるんだ目で彼を見た。

「食べるか?」アスイェは淡々と聞いた。

セラフィナが口を開けると、アスイェは指をその口の中へ伸ばし、幼い牙に軽く触れた。

血が出た。

アスイェはその血を幼子の舌に塗った。

子の目がひかった。

「おいしい!」

セラフィナはそのまま彼の手を掴んで、少しだけ食べた。

アスイェはセラフィナの食べる様子を見た。

幼子はほんとに変わった。

以前は血を吸う本能を抑えていたのに、今は「食べる」ことを楽しんでいる。

アスイェは一瞬だけ考えて、静かに言った。

「お前は俺が老いてほしいのか?」

「え?」セラフィナは止まって、口の中にはまだ飲み込めていない血が残っている。

「さっき、老いたかかと聞いたが……」

「セラが聞きたかった……」

「なんだ?」

「……なんでもない」

セラフィナはアスイェの視線を避け、静かになった。

アスイェは片手で幼子の頭を撫で、なぜか小さく笑った。

「歳をとるのも、悪くない。お前が成長しているということだ」

幼子はもう彼の血を飲んでいないが、彼の手を掴んでいるままだ。

やがて子は安心して、彼の腕の中で午後を過ごした。

時間は、まだたくさんある。

この子が大人になるまで――それは、きっと続いていく。

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