第十六話:不眠
子供が眠った後は彼の時間だ。
アスイェは本を手に、「本を読む」のは彼の数少ない「興味」の一つだった。
夜が来た。
窓の外は深淵のように暗い、書斎にはアスイェがページをめぐる音すら吸い込まれるような静けさ
――その静けさは、ふいに破られた。
いつまにか幼い子は彼の椅子の下に来ていた。
セラフィナは、アスイェが与えたぬいぐるみを抱いたまま、迷いなく彼の足元へと寄ってくる。
しばらくアスイェの手を見つめ、そのままとすん、とカーペットの上に小さく腰を下ろし、そっと体を寄せた。
吸血鬼は体温がない、でも若い子供が彼の足元にいるのか好きだった。
アスイェはその瞬間に視線が本から外さない。ただ――ページがめくる手が一瞬止まっただけだった。
「……どうした?」
セラフィナは答えない、ただ近づこうとしただけなのに、アスイェの肘に触れた瞬間、小さく驚いて手を引っ込めた。
アスイェはやっと視線を落とす。
椅子の下に身を隠すように座り込み、まるで「ここなら追い出されない」とでも言うような幼い姿だった。
彼は小さくため息をついて、本を閉じ、セラフィナを抱き上げた。
もしアスイェが何をしないならこの子はほんとにそのまま動けず寝落ちする。
そして、朝になたらアスイェに今ようにビッタリする。
膝に乗せられたセラフィナは満足そうに身をアスイェに預けた。
「眠れないのか?」
「……」
あかりが消してくれたはずだ」
「……」
アスイェの声は決して怒りがないが、若い子は何も話さない。
「黙ってるとわからない」
それでもセラフィナは何も話さないかった。ただ彼の首に手を回し、しっかりと抱き寄せた。
この動きで彼は読書を諦めた。
「……きつい……セラ……」彼がゆっくりと若い子の呼ぶと、セラフィナはやっとその呼びを答えた。
「……うん……さむいからここにいるの」
「なら部屋に帰ろう」
セラフィナは嫌がる。
「アスイェが、ここにいる。アスイェのそばがいい」
アスイェはもう問わない。ただ少し前のように毛布を子供に被らせた。
「なら、ここにもう少し寝ろ」
「アスイェは?」
「俺は本を読む」
「あ……」セラフィナは何かを思い出したようにアスイェから離れようと身じろぎした。
「動くな……」
「……セラ、アスイェの邪魔」
「床になるな、ここが嫌なら、部屋に戻れ」
セラフィナは動きが止まって、頭だけ横に振った。
「セラ、いい子にする」
「うん」アスイェはもう一度本を手に、しばらくして幼子は寝息が聞こえた。
彼がゆっくりとこの子の背中に撫でると、セラフィナは小さく、気持ちよさそうな息をもらした。
アスイェはまるで、膝に一匹の猫でも抱いているかのようだった。
彼は長く生き、時間も温度もとうに曖昧になっている。
暗闇が怖がり、安心できるところをずっといたい。
アスイェには好き嫌いがほとんどない。だから、拒む理由もない。
この子が望むなら、朝にはまた朝の挨拶を返すだけだ。
書斎の中にはページをめぐる音と、幼い寝息だけが聞こえる。
セラフィナは夢の中に暗闇に越え、やがて、夜明けに目を開け、日の光を迎える。




