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第2章 プリパレーション 8

 着替えを終えてエリカと一緒にラウンジに行くと、そこには如何いかにもセレブリティっぽい3人の中年女性と、お世辞にも品が良いとは言えない、若しかしたら風俗嬢かも知れない2人の若い女が寛いでいた。

 キキョウはそのラウンジの入り口で、鋭い眼光であたし達を見守っている。

 「あれ?失礼ですが、貴女のそのメイク、今、来日している、シンディ・マリー・エバンスが施しそうなメイクなんですけど・・・」

 1人のセレブ女が、目敏めざとくあたしのメイクを見抜いた。

 伊達に中年に成るまでセレブをしている訳では無さそうだった。

 「まあ、本当!何処どこのメイクサロンでして貰ったの?私達にも教えて欲しいわ」

 他の2人のセレブ女もあたしの近くのソファーに座った。

 直ぐにキキョウがあたし達に近寄り、あたし達に何かが有ったら手加減はしないよ!と言うオーラを全身から放った。

 「ああ、こちらの方のこのメイクは今朝、自宅の方でシンディさん本人から、直接、施して貰った物なんですよ!」

 「え~?うそ~!」

 3人のセレブ女が一斉に叫声きょうせいを上げた。

 「こちらが、今朝、わたくしが撮影した写真です」

 エリカがガウンの胸ポケットからスマホを取り出すと、30枚程の写真をその女達に見せた。

 「本当だ!信じらんない!」

 その声を聞き付けて、2人の風俗嬢もその写真をセレブ達の後ろから見詰めた。

 「だけど、これからのスパでその折角のメイクが落ちてしまうのでは?」

 一番年長者だと思われるセレブ女があたしに質問した。

 「別にあたしに取ってこのメイクは、落としても全く惜しくは無い物なので・・・」

 「スゴ~イ!」

 あたしの返答に、その最年長セレブは本気で驚いた様子だった。


 「お客様、こちらのお二人は超が付く要人の方でございます。今、店内の警護は私だけですが、店の外にが戦闘力が高いコマンダーが10名配備されています」

 キキョウがたまり兼ねてあたし達の会話に割って入った。

 「もし何かが有れば、私の指示で彼らは一斉に店内に突入しますので、どうかこのお二人からは離れて、私に面倒を掛けない様にお願いします」

 キキョウも嘘を付くのか?

 店の外には、セキレイが待機しているだけなのに!

 そんな法螺ほらを平気でブチかますキキョウの事が、あたしは少し好きに成った。

 「で、ですよねぇ、超が付く程の要人の方で無ければ、シンディ・マリー・エバンスが自宅に来たりしませんよねぇ」

 キキョウが然りげ無く、ガウンの裾を開いてガーターベルトに仕込まれたナイフや電子機器を見せたから、セレブと風俗の女達は、元々座っていた場所よりも更にあたし達からは遠い、隅っこの席に移って行った。

 「わたくし、何かやらかしましたでしょうか?」

 エリカは恐縮した表情で、キキョウの顔色を伺がった。

 「いいえ、エリカ様。そのお気持ちは分かりますし。只、ここは目白の館では有りませんので、見知らぬ人との会話は極力控えて戴くと、私共は助かります」

 「分かりました。ゴメンナサイ!以降は気を付けます!」 

 エリカの言葉にキキョウは笑顔を返すと、又、ラウンジの入り口の前に立った。


 「大丈夫よ、エリカちゃん!キキョウはプロだし、この位の事は当然、想定済みなの!あたしはジェファーメンバーの救出劇を目撃しているんだから!」

 「そうでしょうか?」

 「そうよ!それより、折角、スパに来たんだし、そしてここにはスーパー銭湯みたいな設備も有るみたいだから、マッサージの予約時間までだ50分以上も有るから、何処かに一緒に行こうか?」

 「ミサト様、わたくしはこんな場所に次に来れる事は滅多に無いと思いますので、ミストサウナと岩盤浴を体験してみたいです!」

 先刻さっきは少し落ち込んだ様に見えたエリカだったが、あたしの誘いに瞳を輝やかせて、そう自身の希望を述べた。

 「それとここでは無理ですが、日本の温泉に浸かってみたいと言う希望をわたくしは持っていまして・・・」

 「ああ、温泉ね!分かったわ。スグルさんが戻ったら、あたしから二人で一緒に行ける様に頼んであげる」

 「わぁ、ミサトさんって優しいんですね! わたくし、これからはミサト様に何処までも付いて行きます!」

 「エリカちゃんったら・・・」

 可愛い顔をしている癖に、可愛い事を言うのね。

 と思ったが、それは当然の事だった。 

 だって、可愛い顔をしているのだから。

 

 「そう言うお話で有れば、私もサウナと岩盤浴にお共を致します」

 キキョウが、それらの場所でのあたし達の警備を申し出た。

 「キキョウさん、実は一寸ちょっと、貴女にお願いが有るんだけど・・・」

 「キキョウはコードネームなので呼び捨てで結構です」

 「分かったわ。コードネームだから気を悪くしないでね」

 「いいえ、全く問題は有りません。それで私にお願いとは?」

 「今夜は、爺やさんが目白の館のシェフと、ゆっくり男同士のつもる話をするので、あたし達はこの後、外で食事をりたいの」

 「その件は田宮様から伺っております。そこでここから程近い場所に地中海のシーフード料理店が有りますので、そこでは如何かなと思って既に3名の予約も取っております」

 「まあ、流石の気配りを有難う!是非、そのお店で4人でお酒を飲み交わしましょう!」

 「4人?」

 キキョウは聞き返した。

 「そう、セキレイを仲間外れにするのは可哀そうでしょう?」

 「まあ、何とお優しい!ですが、セキレイは店外の警備担当ですから、店内に入れる訳には行きません」

 「良いの、良いの!あたしに秘策が有るから。予約は4名に変更して置いて頂戴ね」

 「ですが・・・」

 あたしはキキョウの言葉を無視して、エリカと共にミストサウナが有る浴室に入った。

 実はあたしには思惑が有ったのだ。

 あたしの直観力は生まれつき鋭い!

 あたしが唯一、誇れる能力だ。

 この直観力のお陰で、会社のダメ男は一瞬で見抜けたし、少しばかり紆余曲折は有ったものの、スグルがあたしに取って有益な少年で有る事もしっかりと見抜けた。

 そして、このセキレイと言う名の男も、間違い無くあたしの忠実な子分に成る男だと、あたしの直感は力強くあたしに告げていた。

 これからの長い戦いの事を考えると、あたしには忠実な部下は絶対に必要だった。

 セキレイって、セキレイインコの事?

 何だ、インコちゃんじゃん!

 オッケー、インコちゃん!あんたをあたしの子分にする為のウェルカムパーティを、今夜、催してあげるからね!


 「あのう、ミサト様のお顔のメイクが落ちかけている上に、そのお顔が何だかユルユルに成られています。それにわたくしも限界なので、そろそろ出ませんか?」

 「だね~」

 あたし達は、岩盤浴の部屋に入ってまだ20分も経っていなかったが、さっさとその部屋を出た。

 この岩盤浴のスペースに来る前にエリカは根性を発揮して、ミストサウナを15分近くも耐えた。

 「じゃあ、最後に高温サウナで仕上げだね」

 「高温サウナですか?」

 高温サウナに入って3分後、エリカは高温サウナの中であたしに車中で羽交い絞めをされた時以上に、ぐったりと成ってしまった。

 「あら、大変!キキョウ、エリカちゃんに警護・・・じゃなくて救護が必要よ!」

 「かしこまりました」

 キキョウは、その鍛え抜かれた筋肉質の腕でエリカを抱えるとシャワールームまで運んだ。


 「わたくし、こんなに気持ちが良いジャワーを浴びるのは初めてです」

 隣のシャワーブースからエリカのはしゃいだ声が聞こえたので、あたしはホッと胸をで降ろした。

 エリカは若いので体力が回復するスピードも速いようだ。

 あたしは、エリカのその若い肉体に対する羨ましい気持ちを抑えながら、メイクをしっかりと落とした。

 そこには今のヘアスタイルに全くマッチしていない生来のマヌケづらが露出していたが、シンディが「アンバランスな美しさを追求した」と言っていたのを思い出して、これもアンバランスな究極の美しさの筈!とあたしは勝手に自分自身を納得させた。

 それからラウンジに戻ると、施術まで5分前だとの館内放送が有って、あたしとエリカのロッカーキー番号がコールされた。

 「何かが有ったら、錠剤のボタンを押して下さいね!」

 キキョウの言葉に、あたしは「あいよ!」と答え、エリカは大きく頷いた。


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