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第2章 プリパレーション 4

 「ミサト様、田宮さんがご主人様からのご伝言をお持ちですので、ご朝食の前ですが一階の方にわたくしと一緒に降りて下さいませんか?」

 「スグルさんからあたしに伝言?」

 昨夜は、エリカがあたしのヨダレを拭いて呉れた辺りまでは薄っすらと覚えていたが、折角、スグルと二人切りで過ごせる夜だったのに、あたしは不覚にもそれから熟睡してしまったのだ。

 あたしは洗面を後回しにして、セバちゃんの話を聞く為にエリカと一緒にゲストルームを出た。

 「お早うございます、ミサト様!ご気分の方は如何ですか?」

 「ええ、昨夜も熟睡出来たので、体調は良いです」

 あたしは、そのとても諦め切れない悲し過ぎる事実を、セバちゃんに伝えた。

 「それは何よりです!所で、私めはご主人様からミサト様へのご伝言を預かっておりまして、それは今週末まで会社をお休みして戴きたい!との内容でございます」

 「えっ、今週末まで?」

 やりーっ!!!

 あたしは昨夜のチャンスは逃してしまったけど、今週末までこのやかたに居残れる権利は獲得したのだ。

 「ミサト様、如何でございましょうか?」

 セバちゃん、詰まり田宮甚八朗はそう言うと、あたしの顔色を伺った。

 「爺やさん、大丈夫ですよ。自慢じゃ無いけど、あたしは会社で役に立たない存在ですし、有給休暇も沢山残って居るので・・・」

 あたしはひとつの真実を語り、そしてひとつの嘘を付いた。

 真実は、あたしが会社で役に立たない存在で有る事、嘘の方は有給休暇が沢山残っている事だった。

 あたしの有休は今日2日分を使ってしまったから、後、1日分しか残っていない。

 この有休を水曜日の為に使って、木曜日の未明に愛媛の叔父を成仏させれば、有給の忌服休暇が2日分貰えるので金曜日まで休めるわ。

 そして来週の月曜日は会社の創立記念日で休みだから、週末を合わせるとあたしは今日から8連休をゲットする事に成る。

 チャ~ンス、再び到来!!!

 ヒッ、ヒヒヒ!


 「ミサト様、如何されましたか?何か良い事を思い付かれたのですか?」

 「え?まあそんな所ね。余り気にしないで」

 「かしこまりました。何れにしましてもミサト様が今週末まで当家に留まれる事は、ご主人様はきっと喜ばれる筈でございます。ミサト様に折り入ってお願いが有ると仰せでしたから」

 「あたしにお願いが?う~ん、所でスグルさんは、朝早くから何処に行ったの?」

 あたしはずっと気に成っていた事を田宮に尋ねた。

 「ご主人様の今日のご出張は、どうしてもリモートでは無理な案件でして、先方がこちらに出向くと申したのをご主人様が、何かの拍子で先方がミサト様を見てしまう事を嫌がられて、ご自分からお出掛けに成られたのです」

 「あたしを先方に会わせたく無かったと?一体何故?」

 「さあ?それは私めの様な凡人には分かりませんが、今は未だ早過ぎてマズいかな?とおっしゃっていましたから、ご主人様成りの何か深いお考えがお有りなのでしょう」

 「う~ん・・・」

 あたしを今週末までこの館に留めると言う事は、スグルの折り入ってのお願いは、簡単にはOKが出せない頼み事の筈だった。

 「僕と結婚して下さい!」は流石に15歳じゃ無理か?

 でも婚約だったら可能かも知れない。

 ギャ、ヒ、ヒ!

 スグルは米国籍も持っているから、州によって法律が異なるかも知れないし、念の為、後でグーグルで調べてみよう!

 困った時は、やはり「グー様」が一番頼りに成るよね。

 取り敢えず、スグルの最上位のお願いを「僕と結婚して下さい!」に設定するとすれば、最下位のお願いは?

 「僕と一緒に、琉球イノシシのうり坊を見に行って下さい」辺りかな?

 スグルのお願いは、きっとこの2つのお願いのゾーンの中に入っている筈!

 スグル!貴方は安心してあたしに何でもお願いして良いんだよ。

 このゾーンの中に入っているお願いだったら、何だってストライクと叫ぶ、あたしは超が付く程スグルには大甘の主審だから!

 痛かったり、飢え死にする様な頼みで無い限り、あたしは絶対にどんな頼みでも引き受けようと強く心に決めた。

 だって少なく共、その頼み事が成就するまでは、あたしはスグルと一緒にいる事が出来る筈だったから。 


 「ご主人様はご自身の身辺警備上の必要性から、関西圏へはアメリカ大統領専用車も顔負けの特殊防弾ガラスと分厚い装甲で仕様されたキャデラックに乗られてお出掛けされます。そして今夜は大阪にご宿泊の予定です。恐らくこの館へのお戻りは明日の午後3時頃かと」

 そうか、スグルは大阪に出張したのか?だったらきっと、カジノ法案関連ね!

 普段からこれだけ厳重な警備を受けて外出するスグルを、知らなかったとは言え、あたしが勝手に「庶民生活体験デート」と称してあちこち街中を連れ回したので、スグルをガードするジェファーのメンバーはさぞや肝を冷やした事だろう!

 だけど何故、黒メガネ達はあたしとスグルが、あの居酒屋にいる事を知り得たのだろうか?

 スグルを取り巻く内部の者に敵のスパイが?

 まさかね!

 「所でセバちゃん、何故、スグルさんは便利で早い新幹線や飛行機を利用しないの?」

 「確かに新幹線や飛行機を利用すれば便利ですが、駅や空港での待ち時間、それから目的地までの移動等で、警備にすきが生じるリスクが有るのです。それよりも恐らくですが、ご主人様はご自分のブレーンと遣り取りをする時間を節約されたいのでしょう」

 「時間を節約?」

 「ええ、新幹線や飛行機の利用では通信のセキュリティ面からブレーンと遣り取りを行う事は無理ですから」

 「スグルさんのキャデラックなら、それが出来ると?」

 「その通りです。あのキャデラックは、動く作戦司令室なのです」

 「成る程・・・」

 

 「あっ、それからもうひとつ」

 「何でしょう?」

 「ミサト様の折角の休日を僕が拘束してしまったから、せめて僕がが出張中くらいは何処か好きな場所で過ごして欲しいとご主人様が仰せです」

 「ほう?ほう?それで?」

 「その間はミサト様を護衛する者を2名、ご自身でジェファーメンバーから既に選ばれております」

 「わたくしを護衛して呉れる人が2人も?」

 「ええ、ミサト様には怖い思いをさせてしまったからだと」

 あたしの人生で民間とはいえSPに護衛される日が来るとは!

 スグルに出会ってからはまさか、まさかの連続だね。

 「仮にミサト様がこの館でお過ごしに成られるとしても、その2名は必ず紹介しておく様にと申し付けられておりますので、午後1時には両名共こちらに参ります」

 「そこまで手配をされているのならお断りするのも失礼ですから、喜んでご好意をお受けします」

 あたしはジェファーメンバーがどんなやからなのかも興味が有った。

 所でその外出の件ですが、セバちゃん、エリカちゃんも一緒に連れて行っても良いかな?」

 あたしは外出が出来ると知って、普段の口調に戻った。

 これまでのあたしの人生で最も美しい姿を、あたしは外で誰かに見せびらかしたかったのだ!

 これぞ渡りに船! 

 「勿論ですとも!エリカさんもきっと大喜びでしょう」

 「じゃあ、決まりね!」

 「どちらかご希望の外出先がお有りですか?」

 「そうねぇ・・・」

 あたしには、桂川家から貰った20万円から使ったのが、今と成っては悔やまれるエルメスのバッグが11万円、居酒屋1回分、本一冊、そして水族館入場料とタクシー代だけだから、未だ7万円強は残っているよね。

 それに昨日、あたしが財布に新たに入れたお小遣こづかいの3万円を加えると、全部で10万円か?

 それだけ有れば、高級SPAでも二人分位だったら何とか足りるだろう。

 あたしは一度で良いから、高級SPAで資格を持ったエステシャンのアロママッサージを受けて見たかったのよね。


 「あたしは、SPAに行きたいの」

 「SPAですか?それはブランド物衣料の直営店の事でしょうか?」

 「ええ~!セバちゃんはスパを知らないの?」

 「恥ずかしながら、私めは世事には疎いもので・・・」

 そう言うと、田宮はうつむいた。

 「あっ、気にしないで。主に女性が利用する施設だから」

 「そ、そうでしたか?」

 「スパとは、リゾートホテルとかで良く見掛ける、エスティシャンからアロママッサージとかを受ける贅沢な施設の事よ」

 「左様で?それならさぞお疲れが癒される事でしょう。ですが、それでは折角のメイクが落ちてしまうのでは?」

 「折角のメイク?」


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