回る町々
切れる物は回せる。回せる物はひっくり返せる。まず回してみよ。ゆっくりとそして丁寧に。手のひらの上で。難しかったら湖の上ででも良い。別に砂漠の上でも、月のクレーター上でも構わない。やがて景色が次々と移ろい行くのが分かるだろう。取ってつけたようなしたり顔や判で押したような装束は川向こうに飛んでいった。河原の凧もザリガニも電線伝ってハイキング。切っても切っても元通り。ズボンの裾から鯨の尻尾にイワシの干物。変身は絶えずトランペットの音楽隊に様変わり。山の中腹で逆立ち歩き。寺社仏閣とは反りが合わない訳もなく。社に逆巻くうなぎの寝床となりぬ。機知に沸き立つ栗の木ひとつ。しなったハンノキ井戸から水汲み。ひねった柱に千切れたタイル、虹色のプリズムはようよう山道を抜け峠を越えた。帽子に吹雪くは桜の花びら。眠れる重箱起こすに忍びず。煙たなびく折に触れ空に少しの星を散りばめ、降り立つ天女には水色の靴に真紅のベールを届けよう。鐘と障子には茶器土器鉄器。畳に届くは冬の余韻。渡し舟は切符を運び、煤けた壁に坂道立てかけ、縮れた紐の片割れ結び、回るは時計の長針、雲の切れ端、雀飛び交う町の木陰。