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(異世界)名探偵 金田一耕一  作者: 真喜兎
金田一耕一の帰還
10/10

10.魔王が来たりて笛を吹く

 ピーヒョロロー、ピーヒョロー。


「この曲は『魔王(・・)が来りて笛を吹く』と言う。この曲を奏でれば、英霊達はこの笛の音に誘われて同じ場所に姿を現すだろう」


 ……ちょっと危ないタイトルだが、まあよしとしよう!


 とにかくぼくはユリちゃんと話し合った作戦を、ユーシャさん達にも話した。






 そして翌夜、ぼく達は町の時計塔がある広場に向かった。ここでユーシャさん達には亡霊達を迎え撃ってもらう。


「ぼくは時計塔の上から笛を吹く。そうすれば遠くまで音が響くから、亡霊達も確実に集まってくるはずだ」


 そう言っていたユリちゃんを迎えるため、ぼくは時計塔の上に上った。時計の仕掛けのある両隣はちょっと広めのバルコニーになっている。


 そこに既にユリちゃんは待っていた。ユリちゃんはユーシャさん達が配置についているのを確認し、ぼくの顔を今一度見て頷くと、笛を吹き始めた。


 ピーヒョロロー、ピーヒョロー。


 静かな街中に響く音。高い時計塔の上からでも、ユーシャさん達に緊張感が走ったのがわかる。


 そして現れた! 亡霊だ! 思ったより姿ははっきりしてる! 1,2,3,4……ああ、乱戦になっちゃって数が数えきれない!


 ユーシャさん、ゼンジさんは聖水で清めた武器で攻撃しながら、英霊達に訴える。


「八人の英霊達よ! おれが君達を呼び覚ました勇者だ! あなた達がおれの呼びかけに応えた事には感謝している! だが今はその時ではない! その御霊を鎮めたまえ!」


 心なしか亡霊達の攻撃に迷いが出てきた気がする! そこですかさずエイドリアンさんが鎮魂の呪文を唱える。マリナさんもエイドリアンさんが攻撃されないよう、魔法シールドを張っている。


 ピーヒョロロー、ピーヒョロー。


 ユリちゃんの笛の音も途切れず続いている。


「オオオウ」


 亡霊達は咆哮し、一人、また一人と消えていく。


 これは、成功しているのか!? 確実な事は明日以降また様子を見なければ分からないかもしれないが、ユリちゃんが言っていた作戦だ! たぶん成功に決まっている!


「コーイチ、危ない!」


 広場の観戦に夢中になっていたぼくの背中に、ユリちゃんの声が響く。とっさに振り向くと、亡霊が一体ぼくの後ろに現れていて、その体と同じように少し透けた剣を振り下ろそうとしている所だった。


 嘘でしょ、とか、ぎゃああとか、考えている暇もない内に、ぼくの前にユリちゃんが割り込んできた。亡霊の攻撃がユリちゃんの腕に当たる。


「くっ!」


 ぼくから見えるのはユリちゃんの後姿だけだが、痛みに顔を歪めたのがわかる。その時、ぼくの心にとてつもなく激しい感情が沸き起こってきた。


 ぼくはとっさに用心のためと貰っていた聖水を頭からかぶる。


「うおおおおおおお!」


 自分でも信じられないくらい大きな声が出て、ぼくは亡霊に抱きついた。


 よし! 触れる! このまま下に落としてやる!


 ……と、そこまではよかったんだけど、悲しいかな、ぼくの非力では亡霊にしがみつくのが精いっぱい。実体はなさそうなのに、どうにも重い!


「ありがとう、コーイチ! 一、二の三で離れて!」


 ぼくは言われた通り三つ数えて、亡霊を突き飛ばすように離れる。


「ホーリーアロー!」


 ユリちゃんの声が響くと同時、ユリちゃんの腕から大きな光の矢が出てきて亡霊に突き刺さる。


 え、ユリちゃんすごい。マリナさんやエイドリアンさんの魔法も見た事のあるぼくだが、好きな女の子が特大の魔法の力を使った事に今さら感動を覚える。


「亡霊達よ! もうおまえ達の時代は終わったのだ! 大人しく永遠の眠りにつくがいい!」


 ユリちゃんがまるで男の子のような低い声で叫ぶ。


「そ、そうだ! 魔王だって話せばわかってくれる人かもしれないんだ! 暴力で全てを解決しようなんて時代遅れだよ!」


 ぼくが横から叫ぶと、ユリちゃんがきょとんとした顔をしてぼくを見つめた。いや、ぼくは巨大な光の矢に押されていく亡霊を目を細めながら見ていたので、ユリちゃんの驚いた顔に気づかなかったのだが、やがて笑い声が聞こえてぼくはようやくユリちゃんの方を見た。


「ハハハ、ハハハ、コーイチ! 君は本当に面白い奴だよ! 暴力しか知らないぼくらに、何かを教えてくれるのかもしれない!」


 光の矢の光はますます強くなり、亡霊は「オオオオ」と雄叫びを上げながら光と共に消えていった。


「コーイチー、大丈夫かー!」


 しばらくぼーっとしていたぼくの耳に、ようやく下の広場の声が届く。ぼくは時計塔のバルコニーから手を振って無事を知らせる。どうやら全ての亡霊がもう霊廟に還っていったようだ。


「コーイチ」


 ユリちゃんの声に呼ばれて振り返る。ユリちゃんは手を差し出していた。


「よくやってくれた。この国の王として、君に、いや、君達に礼を言う」

「そ、そんな、今さら改まらなくたって」


 ぼくはついそう言ったが、でもこれだけ大きな戦いを終えたんだ。それがなんだか誇らしい事に思えてくる。ぼくはぐっとユリちゃんの手を握り返した。


 女の子の手にしてはちょっと大きい気がするな~。まあそんな所もかわい……


「コーイチ、ぼくと君の友情は永遠だ。またきっと会おう。男と男の約束だ」


 もちろん、約束……え? 男?


「え? 男? え? 男?」


 思わず三回くらい繰り返してしまった。え? 男?|(四回目)


 ぼくはなんだか全身の力が抜ける気がした。ふらふら~と後ずさりしてしまう。いや、別にいいんだけどね? でも、ショックが、抜けない~……


「コーイチ!?」


 日本の建築基準法では、バルコニーなどに設置する手すりは110cm以上の高さがないとダメらしい。だがここは異世界。手すりではなく壁のレンガを積み重ねた壁だが、これがギザギザになってて低い所は低い!


 ぼくが最後に目にしたのは、ぼくに手を伸ばすユリちゃんの銀色の髪の毛が空に広がっていく光景だった。






 はっ! ここはあの時の交差点!


 大きな風呂敷を持った腰の曲がったおばあさんに、因縁つけようとしている不良三人組! 早くぼくが行って、おばあさんを庇わなければ!


「ばーちゃん。どこまで行くんだ? おれ達が荷物持ってやるよ。ほら、信号に気をつけてな」


 あ、おばあさん、にこにこ顔でお礼言ってる……


 イヤ、日本ッテ平和デイイナー。ふっ、ちょっとだけ異世界が恋しくなっちゃったぜ。


原題は「魔王」→「悪魔」でございます。


とりあえずここまででございます。耕一が再び異世界に行く時はあるのか!? 期待しないで待っててね!

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