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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§3 この惑星のインフラ事情を調査しました。 main routine ラスティ
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第83話 トンネル開通  新たな旅立ち



 トンネル開発に着手してから五ヶ月。


 この惑星の十三番目の月を過ごし、厳しい冬を乗り越えて、魔山の北と南を結ぶトンネルがやっと開通した。


 俺は大事業を成し遂げた。ティーレが言うには、ここまで長いトンネルを掘ったのは俺が初めてだという。この惑星の住人として、最初にして最大の功績だ。まさに感無量。


 旅装をととのえ、トンネルへ入る。トンネルを出た先のことについての報告はあがってきている。だが、それらの書類には一切目を通していない。

 子供っぽい理屈になるが、こういった発見は自分の目で確かめたい。それまでのワクワクが俺はたまらなく好きなのだ。だからトンネルを出た先のことは詳しく知らない。


 トンネルを歩いていると、後ろから馬が走ってきた。


 ロッコだ。


 隻腕の傷痍軍人は俺のそばまで来ると、慣れた手つきで馬を下りる。


「よかった、間に合って。旦那、これはアッシらからのトンネル開通祝いです」


 そういって手渡してきたのは一枚の大きな羊皮紙だ。


 丸めてあるそれを開く。地図だ。それも北の地図。すでにドローンを飛ばして地図はつくっているんだよなぁ。でも、まあ、ありがたく受け取っておくか。


「ありがとう、助かるよ」


「祝いの品はもう一つありやす」


 周囲へ視線を飛ばしてから、ロッコは俺を手招きした。


「なんだい」


「雪国生まれの者を何人か北部に潜らせていやす。きっと役に立つはずでさぁ」


 これはありがたい。ドローンだと上空からの映像しか録画できない。低空飛行させればいろいろと情報を入手できるが、バレる危険がある。いくらステルス機能を搭載しているとはいえ、人のそばを通れば気づかれてしまう。


 唯一気がかりだった、現地の情報を仕入れてくれるわけだ。


 俺は皮袋から大金貨二枚を取り出して、ロッコに渡した。


「へへっ、ありがてぇ。いつものようにガンダラクシャのみんなに……ですね」


「半分はそうだけど、残り半分はロッコの分だ。独り占めするなり仲間と分けるなり、好きにしてくれ」


「さすがは旦那だ。ありがたくいただきやす」


 それからロッコは孤児からの祝いの品だと毛皮のコートをくれた。もうすぐ夏なのになぁ……。


「これが旦那の分で、こっちが奥様の分でさぁ。安心してくだせぇ。職人の指導のもとでつくった品物でさぁ」


 毛皮のコートだ。俺は灰色で、ティーレは純白。


「ありがとう、大事に着るよ」


「ありがとう。それと、ロッコこれを」


 ティーレが大粒の宝石を、ロッコに握らせる。


「奥様ッ、こんな、いただけませんぜッ!」


「いいのです。夫から、あなたたちのことは聞いています。これからも夫の手助けをお願いします」


「そんな、世話になってるのはアッシらですぜ。こんな、貴族様の持つようなお宝、恐れ多くて受け取れやせん」


「ロッコ、もらっておけよ。それだけの働きはしているだろう」


 事実、その褒美に見合う働きをしている。ロッコはただの傷痍軍人ではない。訓練を受けた密偵だ。聖王国の放った暗殺者の話を聞いて、俺は怪しい連中をドローンで監視していた。そのおりに、ロッコの裏の顔を見ている。

 ガンダラクシャに潜り込んだ暗殺者を、秘密裏に始末していたのはロッコたちだった。

 ツェリも騎士団を動員して、それなりに暗殺者を捕縛したが、ロッコたち本業の密偵に比べれば知れている。


「そうだ。ロッコ、俺の街が大きくなったら慰霊碑を建てようと思う」


「慰霊碑……ですかい」


「ああ、戦いで亡くなった人たちを弔うためにな。そのときが来たら慰霊碑に刻む者の名前を教えてくれ」


「そこにはアッシらみたいな連中も含まれやすかい」


「当然だ。()()()()()()()()。たとえ浮浪者に身をやつそうと、障碍者と呼ばれようと、その事実は変わらない」


「ありがとうごぜぇやす。それじゃあ、アッシはこれで」


「見送りありがとう」


 ロッコには珍しく静かに頭を下げた。馬に跨がるまで、なぜか鼻を鳴らす音が何度も聞こえた。空気が悪いのか? 急ピッチでトンネルを掘ったからな、粉塵ふんじんが残ってるのか。空気清浄機も開発しないとな。





 過去を振り返る。


 この惑星に来てから一年以上か、いろいろあったなぁ。

 惑星の原住民から言語データをサンプリングするのを切っ掛けに、ティーレと出会った。記念となる砦の名前を知りたかったが、かなり昔に打ち捨てられた砦らしく、その名を覚えている者はいないらしい。


 そこから彼女との旅が始まったんだっけ。ガンダラクシャにたどり着いて、そこから彼女にふさわしい男だと証明するために商売を始めた。あの腹黒元帥から認められたのはよかったけど、今度は王族の許可が必要だとか。そんなわけで、ティーレとは内縁の妻状態。不甲斐ない夫を許してくれ……。


 それからティーレの夫(仮)として恥ずかしくないよう貴族になって、いまこうして国家レベルの大事業を成し遂げた。

 重度のシスコンと噂されるティーレのお姉さんだろうと、俺たちの仲を認めてくれるはず。それだけの実績は積んだ! あとは王族に認められ正式にティーレと結婚するだけだ。


 こんなことばかり考えていると、軍のお偉いさんに怒られるかも知れないが、連合宇宙軍の惑星調査員としてもしっかり活動している。この惑星で採取したデータは膨大だ。

 外部野にはおよそ人間の一生分の記憶を三回保存できる容量がある。それがすでに六割も埋まっている。そのほとんどがサンプルデータだ。このままではいずれ予備の外部野も必要になってくるだろう。

 この惑星の居住権を認められること間違いなしの功績……のはずだ。


 念のため、惑星を周回している母艦――ブラッドノアにアクセスを試みたが、これまで通り拒否された。交信の中継につかっている降下艇にも変化はない。艦が敵に――ZOCに乗っ取られていないのは確かだ。


 状況はこの惑星に降り立ったときから変わっていない。

 もしかして艦に生存者は残っていないのだろうか? 艦のメインシステムにアクセスできれば、そういった状況を掴めるのだが……。


 それよりも、帝国娘のエレナ事務官を見つけないと帝国の爵位がもらえない。このままではティーレを救った〈貴族の務め〉の言い訳ができない。


 フェムトは、エレナ事務官がブラッドノアから脱出した可能性を示唆している。惑星降下中に取得した最後の記録ログを読む限りでは、生存は間違いない。

 俺が乗っていたオンボロ降下艇ではなく、頑丈で安心できる将官用の脱出用小型艦があったはずだ。

 脱出しているのならば、きっとそれに乗っているはず。よほどのことがあったとしても惑星降下に失敗しないだろう。


 生きてこの惑星に降り立っていればどこかで会える。一応、元軍人なのでエレナ事務官は死んではいないと思うが、救難信号を出していないので居場所すら掴めていない。


 はやくエレナ事務官を探さねば。それも保護したという実績のつく一番に。


 くよくよしても始まらない。

 さて、気を取り直して北の大地へ行きますか。



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