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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§3 この惑星のインフラ事情を調査しました。 main routine ラスティ
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第58話 中間報告②



「ところで、遣いの者は北から戻りましたか?」


「カーラ殿下のもとへ送った伝令か? あれならヘマをしたらしい。マキナ聖王国の兵に捕まったと報告が来た」


「そんな報告どこから……」


「密偵を送り込んでいる。情報はそこからだ」


「その密偵は、北へ報告に行かないんですか?」


「そうしたいのは山々だが、聖王国の連中がいたるところに関所を設けて、北との連絡を阻害そがいしているらしい。密偵はここぞという時にだけ動かす。無闇に貴重な密偵を失いたくはないからな」


「大丈夫なんですか? 北には新王がいるんでしょう。攻め落とされたら国が滅ぶんじゃ……」


「安心しろ。北には魔導遺産(レガシー)がある。聖王国もおいそれと手出しはできん」


 ちょくちょく聞くけど魔導遺産ってのはどんな代物なんだろう?

 レーザーガンのことを魔導器や魔導遺産なんて呼ぶくらいだから、きっと攻撃兵器だと思うけど……。軍隊をどうにかできる力があるのか?!


「ツェリさん、国の一大事にこんなところにいていいんですか?」


「……貴様、私が何もしていないとでも思っているのか?」


「いやでも、ガンダラクシャにもっていても敵は倒せないでしょう。それに国軍と合流しないと、国から敵を追い出せないじゃないですか」


「だからこそガンダラクシャを離れないのだ」


 元帥の言うことなので、きっと意味はあるのだろう。だけど俺には理解できない。俺は軍人だが、軍略や戦略はからっきしなのだ。


 相棒に説明を仰ぐ。


――あえて無傷の兵を残しているということは、聖王国への牽制ですね。ガンダラクシャが睨みを利かせているので、聖王国は兵力を北へ集中できないのでしょう。なかなか賢いやり方です――


 なるほど威圧しているわけだな。


「敵を釘付けにしているんですか?」


「そうだ。それにいまは攻めるべき時ではない」


――なるほど! その手がありますね――


【なんだよフェムト、勿体ぶらずに教えてくれよ】


――兵站の崩壊を狙っているのでしょう。現状、聖王国は王国の南部と中央、それに東西を部分的に占領下に置いています。戦争が長引けば長引くほど聖王国軍は不利になってくるでしょう――


【なんでそうなるんだよ】


――聖王国は王国の中央まで兵を進めています。当然、兵の食糧は別の場所から運ばれてくるわけです。それにかかる軍費は莫大ばくだいなものになるでしょう。ですから現地調達を行うはず。そうすれば迷惑を被るのは民衆です。敵国を占領下において治安は乱れています。占領地域の経済は破綻し、食料事情も怪しくなるでしょう。それに勝利しているにもかかわらず、長期にわたる軍事侵攻で兵の士気はかなり落ちているはず。いわゆる望郷の念です。そこへ不満の溜まった民衆が蜂起する。鎮圧の成否にかかわらず士気はだだ落ち。さらに聖王国の兵は弱体化するでしょう。下手な侵略のよい見本です――


【そうなんだ】


 フェムトの説明でなんとなくわかった気がする。


「婿殿、わからないのであれば私が説明してやろうか、んん?」


 ドヤる腹黒元帥。この人にだけは馬鹿にされたくない。


「兵站の崩壊、もしくは群衆の蜂起、或いはその両方を待っているんですね」


「ん、んん、そうだ」

 どうやらフェムトの考えは正解らしい。ツェリは非常に渋い顔をしている。


「さすがは、あなた様。慧眼です。ツェリ元帥もこれにりて、私の夫に嫌がらせをせぬように願います」


「ん? あ、ああ。わかった、ところで婿殿、兵站の崩壊は合っているが、民衆の蜂起とはなんだ?」


 さすがはフェムト。腹黒元帥の上をいっていた。


 この際だ、この腹黒元帥にお(きゅう)を据えてやろう。俺はフェムトから教わったことをほとんどそのまま説明した。


「なるほど。そこまで読んでいたのか……。いや、さすがだ。私の完敗だ。婿殿には将帥(しょうすい)の才能もあるらしい」


 あの腹黒元帥をやり込める日が来るとは……なんとも気分がいい。


【フェムト、おまえは最高のAIだ】


――当然です。第九世代や第八世代よりも洗練されたモデルですから。現在も第七世代が多く利用されているのがその証拠です――


 それは単に、型落ちになってダブついているだけなんだけどな……。まあいい、おかげで腹黒元帥に仕返しができた。

 勝利の余韻よいんに浸っていると、後続の一団がやってきた。


 大量の資材と食料、それに騎士や城努めの職人たちがワラワラと増えていく。それが途切れると移住者だ。工房のみんなに見慣れた顔が続く。

 浮浪者をしていた傷痍軍人のロッコだ。


「旦那、人手が必要でしょう。仲間を連れてきやした。おーい、みんなこっちだ来てくれー」


 やってきたのは義足や義手の者ばかり、なかには隻眼や両足を失った者もいた。与えた義手や義足で生活するぶんには不自由無さそうだ。

 ちなみに、それらの義肢はフェルールが造った物だ。浮浪者をあつめた際、身体の不自由な彼らに与えるようフェルールに造り方を教えておいた。

 それが、このような結果を生み出すとは……。善行はやっておくもんだ。


 傷痍軍人たちは隊列を組み、代表らしき三人が前に出てきた。


 義足を履いた男がさらに前へ出る。立派な髭を生やした厳つい男だ。

「閣下、ワシは騎兵隊の隊長を務めていたマクベインという者です」


 続いて隻眼の男。こっちは剣ではなく斧を担いでいる。

「俺はヒックス、王軍では切り込み隊を率いていた」


 最後に馬に乗った、両足を失った痩身の男。

「オズマです。従軍書記をしていました」


 なるほど、領主として必要になる人材を連れてきたのか。マクベインとヒックスは武官、オズマは文官かな。うん、ありがたい。


「ロッコ」


「なんでしょうか」


 小金貨を一枚、指で弾く。

 初めて出会ったときのように、ロッコは残っている左手で器用に受けとめた。


「ガンダラクシャのみんなにご馳走を振る舞ってやれ、酒も忘れるなよ」


「へへっ、さすがは旦那だ。ゴチになりやす。それとコレはアッシから」


 ロッコは羊皮紙の束を俺に押しつけてきた。


「聖王国の密偵がガンダラクシャに潜り込んでいやす。どうやら奥さんを狙っているようですぜ。詳しいことは羊皮紙に書いてありやすんで、のちほど目を通してくだせぇ」


「ありがとう。助かる」


 口や態度に出さないが、ロッコは優秀な男だ。いつも欲しい情報を持ってくる。今回の情報がまさにそれだ。ドローンでは正確に割り出せない生きた情報。

 マキナ聖王国の密偵はティーレを狙っているのだろう。砦のときのように毒をつかわれる可能性がある。しばらくはこっちに居てもらおう。


「いまの話、ツェリ元帥にも報告してくれ」


 銀貨の詰まった革袋を握らせる。


「だ、旦那、こんな大金いいんですかいッ!」


「活動資金だ、必要だろう」


「ありがとうごぜぇやす」


 礼を言うと、ロッコは背中を丸めて去っていった。


 今度は工房のみんなだ。

「来てやったぜ工房長」

「やったぜ」

 パイルハンマーを担いだ髭もじゃ兄弟のアドンとソドム。鍛冶士がいなかったのでありがたい。


「工房長、お久しぶりです」

 工房生活で自信をつけたのだろう。フェルールにちょっと前まであった幼さが消えている。もう少年ではない、立派な大人だ。傷痍軍人の義肢をメンテする重要なポジションを与える。


「来ちゃった」

 相変わらずのインチキ眼鏡娘のローラン。これから魔道具をバンバンつくる予定だ。貴重な錬金術師のおかげでいろいろと捗るだろう。


 アシェさんは言うまでもないだろう。ティーレの護衛としてずっといる。

「騒がしくなりますね」

 いつものように渋い顔をしているアシェさん。料理のできる、ありがたい人材だ。俺の負担が減る。護衛任務からなんとしても引き離さないと。


 みんなには握手がてら小金貨を手渡した。臨時のボーナスだ。なんせ大金貨一〇〇枚以上稼いだんだから、当然の報酬だろう。


 挨拶もそこそこにツェリはガンダラクシャに帰っていった。


 新たな領地は建物もないのに、かなりの人があつまっていた。

 雇った冒険者三〇人と職人三〇人。ティーレの護衛を務める女性騎士一〇人。それにツェリが連れてきた職人が二〇人。アシェさん率いる騎士団が五〇人。俺の建てた福祉施設からは、傷痍軍人が五〇人、戦災孤児が三〇人。スレイド工房の職人四名。それに俺とティーレを加えると、総勢二二六名。


 あっという間に街ができあがった。


 はやく建築作業に取りかかりたいが、非戦闘員が八〇名もいるので、まずは安全を優先させた。

 スパイクが仕切る冒険者たちとマクベインたち軍人に警備を任せて、新たな宿営地を築く。

 未来の領主の館の土地、三〇〇メートル四方はすでに切り開いている。そこに魔物から身を守る柵を設ける。二メートルほどの高さの格子状の柵を三重に設けて、それらをさらに繋ぐ。これで強度はバッチリだ。走竜でも侵入は難しいだろう。


 人数が増えたおかげで日暮れまでに柵は完成した。時間があるので仮の領地完成に宴会を開こうとしたが、酒が足りないので見送りとなった。




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