第557話 subroutine カマロ_陰の薄い男
登場人物
●カマロ
連邦の一等兵。いまどきの20代。
ある惑星人の血を引いていて、特殊な力を持っている。
ランズベリー王国最後の王族、マルタの護衛任務に就いている。
●マルタ
十代。前髪で目を隠している。
ランズベリー王国最後の王族。内気で声がちいさい。
●メイルズフィード
大陸屈指の賢者の一人、序列四位、影法師。
悪魔族。金髪赤眼、ポニテ、眼鏡、お胸おっきい。
男装の謎多き女性。 ラスティから距離を置かれている。
●モルガナ
大陸屈指の賢者、序列二位、叡智の魔女
亜麻色の髪の乙女。八〇〇歳。胸は大きい。
アル中。
●エアフリーデ
純潔騎士の女性。序列三位。武器は連接剣。
ギリ十代。灰髪赤眼のお嬢様ヘアー。
ラスティにはキツい。密かに聖下を狙っている。
●ディアナ
純潔騎士の女性。序列十位。武器はライフル。
青い三つ編みの眼鏡っ娘。一七歳。
あからさまに聖下を狙っている。
●サギリ
元天狗の長。ラスティには雑に扱われている。
誰が見てもラスティを狙っているが、本人にその気は無い。
●シズク
現天狗の長。眼鏡、ショートポニーの出来るOL風。
●リブラスルス(リブ)
そろそろ二十歳の連邦の精兵。サバイバルが得意。
年下の奥さんより背が低い。一応、魔法がつかえる。
●ルセリア
ベルーガの第三王女。金髪緑髪。
一応、18歳。姉二人で目立たないが優秀。
★★★ 水晶連峰の魔族 ★★★
●カミラ
夜鬼族の女王。JKくらいの体格。
ラスティではなく、その血液に惚れ込む。
●ペルチェリーダ
カミラママ。小柄なピンク髪。
JCくらいの体格。
★★★★★★
★★★ 遺臣団 ★★★
ランズベリー法国の前、王国時代の貴族たち。
●ホレス・レッドファン侯爵
ランズベリー王国の貴族。50代
髭とモミアゲの繋がった悪人面の貴族様。
かつて王位簒奪を企てていた、自称悪人。
●アンク伯爵
小柄で猫背の貴族。ホレスの取り巻き。
●グレック伯爵
ひょろひょろの長身。真横に伸ばした髭を摘まむ癖がある。
剣の達人。ホレスの取り巻き。
●ロナルド・リットンゴア子爵
小柄な初老。身なりはイマイチ。
某人物の評価では、分をわきまえた真面目な貴族。
遺臣団の騎士や兵士からの信頼は厚い
★★★★★★
◇◇◇ カマロ視点 ◇◇◇
俺の名はカマロ。連邦に所属する軍人だ。
部隊は……いまとなってはどうでもいいことだな。
兵科は斥候。階級は一等兵。
自分で言うのもなんだが、俺は優秀だ。
なんせ、希有な惑星人の血を受け継いでるからな。異様に存在感の薄い幻とされる惑星人を祖先に持つ俺は、先祖帰りなのか、惑星人固有の能力に目覚めてしまった。
そういう特徴のある惑星人だからなのか、ココイール星人という、くっそダサい名称で登録されている。
聞いた話によると、クソダサネームにしたのはココイール星人自身だという。
ネーミングセンスが最低な惑星人だが、その能力は凄まじく存在を消すことができる。
消すといっても物理的にではない。精神的というか、霊的というか、スピリチュアルな感じに消えることができる。いわゆる認識阻害というやつだ。
理屈はわからないが、能力をつかうと他者に認識されない。
能力の扱いに慣れていなかった子供の頃、俺は無意識で存在を薄めていたらしく友達がいない。そういえば、数少ない友達――近所の子と一緒に公園で遊んでいたとき、よく俺だけ忘れられていたな……。
そんな幼少期だったせいか、大人になったいまも友達はいない。
能力を制御できるようになったのは、能力のせいで欠席扱いになりまくってハイスクールを三回も留年したあとだった。意識すれば能力を弱めたり強めたりできる。これをつかえば、街を全裸で闊歩しても誰にも気づかれない。
いままでの遅れを取り戻そうとカンニングを繰り返した。そこそこの大学を卒業して、まあまあの企業に就職できた。
入社してからは、この能力をフル活用してぼっち生活を送っていた。朝礼では誰からも見向きもされず、昼食も一人で黙食。定時退社は嬉しかったが、家に帰っても喋る相手がいなので泣いた。
気を抜くと、クローンペットのネコにすら存在を忘れられる始末。
寂しかったが、不自由なく暮らしていた。
元々軍人になるつもりはなかったのだが、ある事件がきっかけで軍に入らざるを得なくなった。
その事件というのがマイホーム(単身者用アパート)の焼失である。
戸籍カードごと焼失したので再発行の申請手続きをしたのだが、役所にある大元のデータベースの情報も消えていた。
そんなわけで、軍に入って戸籍を手に入れたわけだ。
普通社会ではまったく目立たなかった俺だが、軍ではそこそこ重宝された。
ココイール星人の存在を消せる能力のおかげで、戦場で死ぬことなく斥候のスペシャリストになれた。
自信とヤル気に満ちていたある日のこと、運命を決定づける異動命令が届く。
退官予定者や軍の鼻つまみ者ばかりがあつめられた、惑星調査任務だ。
安全で楽な任務だと教えてもらい、喜んで引き受けたのが運の尽き。
当初の予定になかった未知の惑星で第二の人生を送る羽目になってしまった。
それも人遣いの荒い帝室令嬢の下で……。
◇
さまざまな任務をやらされ、その結果、隠密行動に長けた人材と思われたらしい。
エレナ事務官から初の個人行動――特別任務を命じられる。
旧ランズベリー王国、最後の王族マルタという小娘の捜索と保護だ。なんでも、ランズベリー法国の連中に命を狙われているとか。
ここまでならば普通の任務だが、行き先は北の寒冷地。
なんでもドローンでマルタらしき存在を確認したのが、そちらへ向かう一行だという。
蛮族がうようよいる地域で、おまけに寒い。年中、雪で閉ざされている大雪山という難所でもある。
マルタって小娘には悪いが、死んでいる気がした。
「お言葉ですが、エレナ事務官。その少女が雪に埋もれて死んでいたらどうするんですか」
「見つける前に死んでたら任務終了。見つからないからって、独断で任務を放棄しないように。渡したデータに、進行ルートの情報もあるから。それを参考にひと月ほど捜索してみて」
雪山でひと月も捜索かよ……。
「見つかったら?」
「彼女がランズベリーの国王として擁立されるまで護ってあげなさい」
カンニング頼みの人生なので学は無いが、馬鹿ではない。帝室令嬢の考えていることくらい予想はつく。
「……ランズベリーを傀儡国家にするおつもりですか?」
「言い訳はしないわ。見方によってはそう受け取れるでしょうから。ま、そこら辺は自身の目で確かめてきて。私の考えが正しいか、いまのランズベリー法国が正しいか」
「自分に判断を任せると」
「そういうことになるわね」
帝室令嬢は、人当たりは良いが、善意だけで人助けをするような女性には思えない。一見するとにこやかだが、そこがくせ者だ。稀に悪人の面を覗かせている。
「実際のところはどうなんですか?」
「先を見越しての先行投資ってとこね。ランズベリーが王国から法国に変わって三〇年。保護対象の王族は帝王学なんて学んでいないでしょうから、後付けの教育が必要。まだ一〇代だから、本人にやる気があればなんとかなるでしょう」
「……他人事ですね」
「事実、他人事よ。だって一度も会ったことのない赤の他人なんだし。でも、やりがいのある任務だと思うわ。未来のランズベリー国王は海のものとも山のものともつかない。考えてみて、もし保護した王族が歴史に残す名君になったら、あなたにどんなメリットをもたらしてくれるのかしら?」
「自慢できますね」
「私たちは宇宙軍の軍人だけど、この惑星――閉じられた宇宙において、軍の規約に縛られない。自由な生き方を選択できるわ。ならば、軍人として身につけた力で世のなかを良いほうへ変えてみたい、って思わない」
「それはエレナ事務官の主観でしょう」
「そうね。だから、あなたの判断に任せるの。カマロ一等兵が正しいと思える未来を創るために」
「…………」
この惑星の未来。話を聞いている間は、なんだかとてつもない仕事を任された気持ちになっていた。子供の頃に見たアニメの影響か、正義の味方に自身を重ねたくらいだ。
しかし、あとになって考えてみれば、体よく煙に巻かれた気がする。
帝室令嬢は実に口が上手い。スレイド大尉が毎回任務を押しつけられるはずだ。




