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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§3 この惑星のインフラ事情を調査しました。 main routine ラスティ
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第54話 待機時間



 結果待ちの状態なので、以前ロイさんに頼んだ新しい工房――貧民街へ足を運ぶことにした。


 途中、多くの浮浪者を目にした。

 この都市は発展してるんだよな。なんでこんなに浮浪者が多いんだ? 不景気なのか?


 事の真相を知るべく、道端で座り込んでいる浮浪者に銅貨を握らせる。

「旦那、ありがとうごぜぇます」


「聞きたいことがあるんだけど、いいか?」


「へい、アッシにわかることでしたらなんでも」


「なんでガンダラクシャには浮浪者が多いんだ。ここは交易都市だろう? もっと栄えているはずだと思ってたんだけど」


「マキナ聖王国の連中が悪いんでさぁ」

 浮浪者はボロ布で隠していた右腕を見せる。肘から先が無い。ちょっと前のティーレを見ているみたいで胸がチクリと痛んだ。


「聖王国の連中にやられちまってこの様でさぁ。おかげで軍隊を追い出されちまった。故郷のカカァも生きているかどうか……」

 それだけ言うと、浮浪者は鼻を鳴らして涙ぐんだ。


 傷痍軍人か……。軍属の俺にもありえる未来だ。とても他人事(ひとごと)とは思えない。

 詳しく事情を聞いてみると、ベルーガ王国の兵士だったと言う。マキナ聖王国に敗れてガンダラクシャに落ち延びたまではよかったが、職にありつけず浮浪者になったらしい。


 浮浪者のほとんどが、ガンダラクシャに逃げてきた者だと知らされた。


 国のために命をかけて戦った末がこれなのだ。なんともやるせない気持ちになった。避難民にしてもそうだ。聖王国が勝手に起こした戦争のせいで平和と住む家と家族を失った。

 本来ならば、こういった者のために受け皿を用意するのが国の仕事なのだが、いまはその国すら危うい状況。


 助ける道理はないが、見捨てるのもどうかと思った。見捨てれば、いずれそのことを後悔するだろう。俺はそういう人生を歩みたくない。


 幸い手元には大金貨が六〇枚もある。結婚適性試験も終わったあとだ。五枚、一〇枚くらい減ってもいいだろう。偽善だと知りつつも、俺は浮浪者たちを助けることにした。


「名前は」


「アッシはロッコっていうもんでさぁ、旦那」


「ロッコ、この都市にはどれくらい傷痍軍人がいるんだ」


「顔見知りだけでも五〇はいますぜ。貴族様の下で働いていた連中も数えると、二〇〇、三〇〇は超えるんじゃねぇかと思いやすが」


「近々この近くに工房ができる。スレイド工房って店だ。そこへ来れば飯くらいは出してやれるぞ」


「ホントですかい!」


「ああ、本当だ。俺も軍人だ。ロッコたちの気持ちはわかる。うまくいけば仕事を紹介できるかもしれない。ほかの仲間にも教えてやってくれ」


 小銀貨を指で弾くと、ロッコは左手でキャッチした。


「旦那、ありがとうごぜぇやす!」

 服で銀貨をゴシゴシ拭くと、ロッコは満面の笑みで路地裏へ消えていった。


 貧民街を進む。


 奥へ行くほど浮浪者は多くなっていった。特に子供が目立つ。

 聖王国がどんな国かは知らない。しかし、これまで聞いてきた話からするとまともな国でないのはたしかだ。現に、ティーレと出会った砦では女子供を容赦なく殺していた。

 惑星の問題に介入するのは禁じられている。しかし、人としての心が彼らを助けろと叫んでいる気がした。


「俺がしようとしていることって、軍法会議ものだよな。いや、もう軍法会議確実か……」


 ここまで来たら引き返しても結果は同じだ。自分のやりたいことをすることに決めた。


 新しい工房に着くとジョドーがいた。工事をしている監督さんに何やら話しているようだ。

 話が終わるのを見計らって、

「こんにちはジョドーさん」


「これはラスティさん、ご無沙汰しております。辺境伯に叙せられたそうですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「ちょうど家同士を繋ぐ作業が終わったところです。これから内装をやり替えて、それがすんだら引き渡しです」


「あのう……実はお願いがありまして」


「なんでしょう? 私でよけれがお聞きしますが」

 考えている慈善事業について打ち明けた。

「なるほど、それで家を数軒手に入れたいと」


「はい」


「ご予算はいかほどですか?」


「大金貨五枚です。雨風を凌げるように補修も込みだと何軒くらい手に入るでしょうか?」


「最低限の補修ならば、三〇軒は購入できるかと」


 えっ! 俺の時は四軒で大金貨一枚だったぞ! もしかして騙されたのか?


「ラスティさんのような状態の良い空き家は少ないので、前回よりもお安く購入できます。工房のような特殊な造りではないので、最低限の修繕ですみそうですから」


 俺の心を読んだかのように情報を出してきた。これが商人のやり方か、それとも偶々(たまたま)? やり手商人の執事だけあって、真意が読めない。


 前回よりも安いので、購入を決定した。


「ではそれでお願いします」

 代金を先払いする。


 偽善だとわかっているが、なんというか心の荷が下りた気がする。晴れ晴れとした気持ちになった。

 いまさらながら気づいたのだが、俺は金持ちには向いていないらしい。仮に金持ちになってもお金の使い道が思いつかない。無駄に貯め込むだけだろう。だったら世の中の経済を回すほうが、みんなのためになるってもんだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] スラムは都市のおこぼれにすがる貧民の集まりなので都市にあるのは当然な気がする スラムのある田舎って寡聞にして聞いたことないし、想像もできない
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