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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§2 この惑星の経済事情を調査しました。 main routine ラスティ
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第49話 特許の売り込み①



 魔道具づくりの書籍を買ってから、工房の一室にこもった。


 わからない単語が出てくるたびにローランに教えてもらい、錬金術師の知識を外部野にガンガン保存していく。

 この作業だけで実に三日を費やし、簡単な魔道具づくりの実習にまた三日費やした。それから三週間、あれこれ試行錯誤しこうさくごを繰り返して試作品第一号が完成した。


 トイレだ。


 本当は洗濯機を先に造りたかったが、トイレを優先させた。穴にまたがって気張る姿勢は好ましくない。最大の理由は臭いがキツいので耐えられなくなったからだ。衛生は大事、これ宇宙の常識。


 俺の開発したトイレは宇宙仕様にも負けない最高級品だ。便座は宇宙標準の金属でなく、帝国の好む陶器にした。いくつかボタンを設け、水洗、ウォシュレット、便座暖房、温風、消臭などギミックは豊富だ。加えて、排水から異物を分離する優れもの。隔離された異物は圧縮乾燥させて肥料へリサイクルするエコ仕様。排水・汚水は綺麗に浄化処理されて、飲めるレベルまで綺麗になっている。

 まあ、俺は飲まないけど。

 惑星に優しいクリーンな商品に仕上がった。


 非の打ち所がない大作を引っさげてホランド商会へ売り込みに行ったのだが、コストが高いとダメ出しをいただいた。もちろん特許契約は結べなかった。商業ギルドも同様の結果で、特許契約は見送り。

 どうやらこの惑星の人々は衛生問題には無関心らしい。時代を先取りしすぎたか?


 仕方なく工房に設置して、新商品を開発することにした。


 次こそはと、意気込んで売り込み行った洗濯機だが、これもさっぱりだった。

 売れ筋がわからない。


 とりあえず、この惑星で必要になりそうな物を開発していこう。しかし、失敗が続いて気が滅入る。ここまでトントン拍子で来ただけに、立て続けの(つまず)きはキツい。


 腹黒元帥――ツェリと約束した期日まで残り半分……。原始的な馬での伝令だから誤差が大きい。予定よりも速く到着するかも知れない。余裕をもって考えると、あとひと月半。


 まだ焦る時期ではない。しかし、だからといってのんびりもできない。特許契約が結べないときのことも考えておこう。


 気持ちを入れ替え、当初の予定、紙造りに戻ることにした。


 ここで思わぬハプニングが発生した。

 職務に忠実と思っていたアドンとソドムが試験運転と称して、酒ばっかり飲んでいた。それも蒸留酒をだ。


「あの、ローラーは……」


「おう、完成してるぞ!」

「五台ある。試運転もばっちりだ」


「紙をつくる試運転は?」


「ワシ、そんな難しいのつくれんし。そもそも紙のつくり方知らんし」

「俺も、そういう繊細な作業に向かんし」


 ジョッキをぶつけて、酒をあおる兄弟。完全にできあがっている。

 紙のつくり方を教えていなかった俺にも非はある。しかし、いい大人が白昼堂々と酒を飲むのもどうかと思った。

 腹いせに、書きためていた設計図を全部出す。


「蒸留釜は完成したようですね。次はこちらをお願いします」


「「……えっ!」」


「図面は出来上がっているので、簡単な物から順次製作していってください。期間はひと月半でお願いします」


「「う゛えぇっ!!!」」


 大人げない気もしたが、真面目なフェルール少年の手前、甘やかしてはいけない。鍛冶士兄弟はプロ職人だ。だったら、なおさら仕事には厳しくせねば! そう、これは教育だ。腹いせではない! 自分に言い聞かせ、今度はフェルール少年の部屋へ向かう。


 純真な少年は優秀だった。

 ソロバンをつくるだけでなく、新たな商品を開発していたのだ。それも休憩時間をつかって。


 開発したのは折りたたみ式の机と椅子だ。

 なんでもソロバンの珠を通す軸から発想を得たらしく、コンパクトにたためる椅子を開発していたのだ。あの飲んだくれ兄弟とは大違いだ。


「すみません。つい調子にのってつくっちゃいました」


「いや、別にかまわないよ。それより、これ特許契約を結んだほうがよくないか?」


「そんな、特許だなんて、ただ思いつきでつくっただけですから」


 商業ギルドに持っていくと、小銀貨一枚の特許料と、五分の売り上げ配当を勝ちとった。


「いいんですか、僕の特許にして!」


「いいよ、君が開発した商品だ。君の特許だろう」


「ありがとうございます」


 満面の笑みで言うと、フェルール少年は「まだ仕事が残っていますので先に工房に戻ります」と商業ギルドをあとにした。


「ほんと、あの兄弟も見習ってほしいもんだよ」


――そうですね――

 俺の意見にフェムトも賛同してくれた。なかなか空気の読めるAIだ。


――商業ギルドに来たのですから、個人特許について質問してみてはどうでしょうか?――


【個人特許?】


――ええ、ギルド登録の試験のときに問題文にありました。試験問題と直接関係はありませんでしたが、試験に出てくるくらいですから意味があるのでしょう――


 いいことを聞いた。

 さっそく職員に尋ねてみる。


「個人特許ですか? それは特許契約を結ぶ前の状態で、開発者が特許権を有したい場合に取得する権利です。商業ギルドの特許公認が必要なので手数料はかかりますが……」


「手数料ってどれくらいですか?」


「大金貨一枚です」


 高い。ざっと平民の年収三年分だ。個人で支払うにはあまりにも高すぎる。研究開発をしていては、そのような資金まで手元に残らないだろう。どうりで特許契約を勧めてくるはずだ。

 まあ、いまの俺なら問題ない。独占方法も発見できたし、収穫有りだな。


 外に出たついでに、ロイ邸に寄った。


 一応、特許用のグッズも持参している。

 手の空いているときにつくった娯楽ごらく品だ。ルールの簡単なリバーシ、需要じゅようのありそうなチェス、トランプにビリヤード、それに双六すごろく。ゴルフ用品やダーツもある。数打ちゃ当たる作戦だ。

 それらの娯楽品を実演したところ、リバーシと双六が特許契約につながった。


 ほかの娯楽品はすでに似たような物があるという。チェスの類似品が戦盤、トランプはアートカード。ダーツは似たような投げナイフの的が酒場にあるらしい。


 採用されなかったビリヤードとゴルフは受けが悪かった。貴族用にと思って開発したのだが、貴族には戦盤やアートカード、狩猟といった遊びが浸透しているそうだ。残念。




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