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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§6.5 この惑星の戦争事情を調査しました。 main routine エスペランザ
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第184話 想定の範囲……外?!



 当初の予定では、秘策を授けてその結果を観測するだけの楽な任務のはずだった。

 この惑星の情報共有レベルは埒外らちがいであることを完全に見落としていた。魔法なる便利な技術が確立されているのだ、情報分野でも遺憾いかんなく発揮はっきされていると思っていたのだが……。


「魔法で通信? あんた馬鹿かい。そんなことしてみな、情報がダダ漏れだよ」


 通信傍受(つうしんぼうじゅ)の危険性は知っているのに、それを回避する暗号化について、まったくといってよいほど発展していない。

 そのくせセキュリティに関してはガッチガチで、木製の小箱を魔法で金属並に強化して、かつ魔法鍵なるものをかけている。

 ……理解できない。


 暗号通信の技術が確立されていてもよさそうなのだが……。この惑星の住人はどこか抜けている。


 この件については、そっと記憶の片隅に押しやった。


 いまやるべきことはエクタナビアの防衛だ。

 敵は、城門の外にかっている石橋の向こうにまで来ている。橋を守る砦は陥落かんらく寸前。このままでは三日ともたない。援軍を送ろうにも石橋の上は敵弓兵の射程内だ。

 戦況はかなり悪い。


 敵が攻城兵器で攻撃を仕掛けてくる前に策を実行したいのだが……。

 もどかしい。勝てる(いくさ)だというのに、カリエッテは何を躊躇ためらっている? 宇宙軍の肩書きばかりの無能たちを思い出す。ああ、この惑星の軍部にも無能がのさばっているのか……。


 なげかわしいとは思わなかった。無能はその代償(だいしょう)を自身の人生で支払えばいい。

 問題は末端の兵士だ。彼らは上官を信じて疑わない。……いや疑えない。そうするように訓練されている。

 従順な兵士が無能と人生をともにするのは馬鹿げている。

 まともな兵士がいればこちらで面倒を見てもいいのだが……。


 この場――会議室にあつまったカリエッテの部下を見渡す。

 誰も彼もが、この老女に心酔しているようだ。


 たまに常軌じょうきいっしたカリスマ性を発揮する将官がいる。カリエッテがそれなのだろう。士気が高いのはありがたい。

 しかし、秘策を成功させても、あとが続かないのでは意味がない。その後の行動が重要なのだ。被害を最小に留めて、最大の戦果が好ましい。兵力の優劣を度外視した勝利を求めてはいけない。


 一時的な勝利にいしれて、残存兵力で猛追撃もうついげきなどされた日には、目も当てられない結果になるだろう。

 弱ったところを叩くのは常道だが、敵も生きた兵士、死に物狂ものぐるいで応戦する。

 冷静ならば、そのようなおかさないはずだが……。


「みんなよくお聞き、今夜この男が用意した秘策とやらを実行する。成功したらそのまま追撃戦に移るよ」


「本気かね? 失敗は許されないぞ」


「どのみち、あんたの策で砦はおじゃんだ。あの攻城兵器が出てくる前に、敵を叩きつぶさなきゃいけない」


「敵にそこまでの余裕はないと思うがね。想定外の事態で、立て直しは難しいはずだ。攻城戦どころではないだろう。最悪、退却という展開も見込める」


「だからかこそ徹底的に叩くのさ。裏切り者のバルコフはくさっても元帥。この程度でへこたれる男じゃないよ。アイツは諦めが悪いんだ」


「攻めてくると?」


「硬直状態が解けて、敗戦が色濃い。となると優勢になったこっちに隙が生まれる、心の隙だ。アイツはそこを狙ってくるのさ」


 カリエッテの心配はごもっともだ。しかし、私の予想だと、敵はエクタナビアを諦めて退却するはずだ。まあいい、私の策を実際に目にしたら、カリエッテの考えも変わるだろう。アレは追撃戦などという生半可な考えを打ち砕いてくれるからな。


 カリエッテ主導の下、軍議は進む。


 リブラスルスは人質として城に残り、なぜか私に実行部隊の指揮が回ってきた。子飼いの一人、メイドのフローラをあてがわれた。このことから捨て駒でないことは判明している。しかし、なぜリブラスルス曹長が人質になるのか? 人質にするのならば私だろう。まったくもって理解できん。


「今夜は新月だ。谷風がやんだら行動開始だよ」


 風の有無か、音の出ない便利な合図だが不確定要素が強いな。信頼できるのか?


「魔法で谷風を消せるのか?」


「いくら魔法でも無理ってもんだよ。この山――双城(ツインキャッスル)はね、新月の()()()()()()()()()()()不思議な地形なんだよ。アタシたちはその時間を利用することによって、エクタナビアを守ってきた。地の利はこちらにある、万に一つも負けることはない」


「大した自信だが、風の有無を読めるだけでそこまで優位に立てるものだろうか?」


「優位に立てるよ。そうなるように訓練は積ませてきた」


 訓練? 引っかかる言葉だ。まるで、風が無いときだけ動かせる部隊があるみたいな口ぶりだな。どうせ洋凧(カイト)滑空機(グライダー)の類だろう。となると片道切符(かたみちきっぷ)の決死隊か……。ああ、ゾッとする。


「頼むから、決死隊には組み込まないでくれ」


「何寝言を言ってるんだい。あんたには秘策を実行する役目があるだろう。生憎とアンタの持ってきた魔道具は扱いが難しくてね、勝手に死なれちゃ困るのさ」


「それを聞いて安心した。ところで部下のリブラスルスはどうなる?」


「あの目つきの悪いクソガキかい? あれなら殿下の玩具さ。こんな岩城で不憫ふびんを強いているからね、玩具くらいは奮発ふんぱつしないと可哀想かわいそうだろう」


「……深くは聞かない。生命の危険がないのならば、好きにつかってくれ」


「言われなくてもそうするよ」


 玩具の意味はよくわからなかったが、命に別状がないのであれば問題ないだろう。部下には悪いが、留守番を頼もう。


 それにしても面倒だ。まさか実戦部隊を率いる羽目になるとは……。信用していないのなら、ただの一兵卒として扱ってくれれば気が楽なのに。


 ぼやいても仕方ない。エクタナビアでの権限はカリエッテにある。私は単なる雇われ、粛々と任務をこなすのみ。


 会議は問題なく終わったものの、に落ちない。

 仮にも私は軍事顧問だ。それなのに冷遇れいぐうされている。まったくもってナンセンスだ。

 この戦いが終わったら、慰謝いしゃ料を請求しよう。そして片田舎に引きこもり悠々自適(ゆうゆうじてき)の暮らしをする。

 国難を除いてやるのだ、それくらいの請求は受け入れてくれるだろう。



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