第162話 subroutine ロレーヌ_善意の見返り
◇◇◇ ロレーヌ視点 ◇◇◇
ああ、神よ。
ラスティ・スレイド様との出会いに感謝します。
ラスティ伯は主神スキーマ様を奉る教会を建ててくれると約束してくれました。
それだけではなくスキーマ様の御姿を自ら造形されました。大聖堂にある立派な彫像と遜色ない……いえ、それ以上の像です。
造りこそ木彫りと質素ですが、薄くのばした金箔で装飾してくれました。神々しくも雄々しいスキーマ様に相応しい御姿です。
スキーマ様に失礼のないよう仮のお住まいにも心を砕いてくださり、立派な二階建ての教会を用意してくれています。
それだけでも素晴らしい行いなのですが、ラスティ様は病める人々、貧困にあえぐ人々に救いの手を差し伸べています。国家間の争いに加担しているものの、その本質は善です。その証拠に惜しげもなく富を分配しています。
かくいう私もラスティ様に助けられた者たちの一人です。名前すら知らない私のことを、いたく気にかけてくれていました。野盗たちに穢された私を軽蔑の眼差しで見ることなく、心配してくれました。慈愛に満ちた素晴らしい御方です。
私は、ラスティ様のような敬虔な信徒を見たことがありません。
まさに聖書に出てくる聖人、使徒のような御方。きっとスキーマ様が遣わしてくれたのでしょう。
本来であれば大々的にその貢献を称えるべきなのですが、ラスティ伯は魔族とも手を取り合う器の大きいお方。問題です。
いまの星方教会は軋轢が生じています。
信仰の在り方について、二層に分かれているのです。
主神スキーマ様の威光にひれ伏さぬ者を悪とする、人外排斥を掲げる主神派。
聖典に従い、すべての者を分け隔てなく守護すべきと唱える聖典派。
その軋轢は無視できぬほどに膨らんでいます。
マキナ聖王国がベルーガに攻め入ったのもその影響でしょう。
現に、あの国の大聖堂を任されている枢機卿は主神派ですから。
この先ラスティ様に試練が降りかかるでしょう。そのときは彼のために力になりたいと思います。
我らが神――主神スキーマ様、どうかお導きを……。