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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§5 この惑星の職場環境を調査しました。 main routine ラスティ
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第149話 subroutine カーラ_ねじれた女


◇◇◇ カーラ視点 ◇◇◇


 ああ、ますますもって気に入らない。


 ラスティ・スレイドなる男は、次々と手柄を立てていく。

 妹の護衛、魔山(デビルマウンテン)のトンネル、魔族との同盟、そして最前線に城を築き、マキナ聖王国の侵攻を食い止める長城にまで着手している。


 このままでは王族と釣り合う侯爵になるのは時間の問題だ。


 エレナは友人なので弟との結婚は許せる。だが、あの男だけは駄目だ。エレナのように宮廷作法を心得ていない。どこの馬の骨とも知れぬ成り上がり、なんとしても妹との婚姻を阻止せねばッ!


 焦燥(しょうそう)感をつのらせるオレに、密偵の一人が報告にやってきた。ロビン・スレイドだ。

 ラスティなる男も、密偵と同じ家名なのでスレイド一族かと勘繰ったが、あてが外れた。


 部下の報告で知ったことなのだが、驚くことにラスティはエレナの同僚だという。


 なるほど、エレナの同僚ならばあの機転も頷ける。


 手放すには惜しい才能だが、飼い殺しは難しい。オレという美女を目の前にしておきながら、興味がなさそうな顔をしていた。別にそれが原因というわけではないが、やけに妹に馴れ馴れしいのが気に食わない。


 人を疑うことを躊躇ためらう妹。その心優しい妹を(たぶら)かしているのだろう。あれほどオレをしたっていた妹が、いまではあの男にべったりだ。どんな甘言かんげんろうしたのだ。絶対に許せない!


 暗殺という手も考えたが、聡明な妹はオレの仕業だと勘づくだろう。それに、ラスティに付き従っている魔族の小娘も(あなど)れない。


 密偵からの報告によれば、暗殺するどころか近づくこともままならないとのこと。いくら気配を消して近づいても、あの魔族の少女に発見されるらしい。


 やりづらい相手だ。

 いっそのこと最前線に飛ばそうか? 威力偵察と称して王都近郊の危険地域に送り込むのも手だ。いや、そんな余分な兵は持ち合わせていない。


 なんとかして、危険な任務に就かせたいのだが妹が目を光らせている。

 難題だ。


 どこかに潜んでいるという聖王国からの暗殺者、破滅の星(メギド)や闇ギルドの手練れも、オレよりアイツを狙えばいいのに……。闇ギルドッ! そうだ、オレから依頼を出そう。闇ギルド経由なら妹にもバレない。口止め料は高いが、あの連中は仕事に誇りを持っている。それを利用して……。


 闇ギルドへの依頼を書面にして、依頼料の金貨と一緒に密偵に手渡した。ロビンの遠戚にあたるジャック・スレイドだ。ロビンが護衛と情報収集を兼ねた密偵なら、ジャックは汚れ仕事専門だ。裏社会との連絡係で暗殺も担当している。信頼できる密偵だ。


「これを預かっておいてくれ。指示は後日出す。状況を見定めてから依頼を出すことにする」


「依頼? スレイド家への指示ではないのですか?」


「表沙汰にできない仕事を依頼する。オレへの繋がりは絶対にバレてはならない。そのための措置だ」


「畏まりました。それで届ける相手は……」


「闇ギルド」


()()()()()()()()()()()()は、いかがいたしましょう」


 専属にしただけはある、頭の回転が速い。標的が()()()()()()ではないと見抜いている。


「追加は認めない。別の暗殺者を探すよう匂わせろ、それで釣れる。釣れなければそこで交渉は終了だ」


「かしこまりました」


 闇ギルドに暗殺依頼を出す前に、まずは妹に疑われないよう演技をせねば。


「カリンドゥラ王女殿下、晩餐ばんさんの仕度がととのっています」


 ちょうど良いところに侍女が来てくれた。いつもならば断るが、今回は素直に従おう。


「ティレシミールは?」


 数瞬の間をおいて、侍女は感情を揺らすことなくいつもと変わらぬ声音で返す。

「ティレシミール王女殿下も晩餐の席におられます」


「すぐに行くと伝えておいてくれ」


「かしこまりました」


 優秀な侍女だ。声音も足音も普段と変わらない。だが、ほんの数瞬返事が遅れた。どうやらオレが晩餐の場にあらわれないと踏んでいたらしい。


 まあいい、しばらくは茶番に付き合ってやろう。そのほうが妹も喜ぶだろう。二、三日経ってからラスティを侯爵にしてやるのも悪くないな。それから闇ギルドに依頼を出して……。

 完璧な計画だ。


 より完璧にするために迫真の演技をしよう。妹に怪しまれないために……。なぁに、あの男と仲良くしてやるのは死ぬまでの間だけ。長い人生のわずかな一時を、好意的に振る舞えばいいだけのこと。

 あの男を始末したら、優しい妹のことだ悲しみに暮れるだろう。そのときはオレが慰めてやらねば。可愛い妹、オレだけの家族。虫けらごときに愛する家族を好きにはさせない。




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[気になる点] 追い詰められてる勢力のくせに築城外交内政個人戦できる人間排除しようとしてるあたり姉上の無能ムーブがすぎる 政治力で華麗に排除するならともかく、暗殺みたいなバレたら終わりの下策を使うこ…
[一言] 姉上には少し痛い目見てほしい
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