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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§5 この惑星の職場環境を調査しました。 main routine ラスティ
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第147話 新人歓迎③



「優先させるべきは築城作業とこの城の死守ですね」


「まあ、そうなるな。巡回や非常時に備えての待機班の割り当ても重要だが、肝心の城が完成しないと話にならない」


「優先順位を決定するのが重要ということですね」


「そういうことだ。旅をするのに荷物や名所のことばかり気にしていても意味がないだろう。肝心なのはどこへどう行くか、時間が足りなくなった場合に諦める名所や、重い荷物を切り捨てる勇気も必要ってことだ」


「なるほど、臨機応変に状況に即した指針を打ち出す必要性があると」


「その通り、人手には限りがある、なんでもかんでもはできないからな」


 宇宙ツアーなんかがそうだ。突発的な磁気嵐で旅程に大幅に変更を求められるときがある。ガイドの付いていない格安のツアーならば、自分で計画を立て直さねばならない。秒刻みのシャトルに乗り遅れると別途運賃がかかるので、宇宙の旅だと計画変更は最優先事項になってくる。

 ツアー以外でも宇宙の生活は決断の連続だ。


「一度や二度の失敗で落ち込むな。ここで命を失うことはない。何事も経験だ、失敗できるうちに失敗しておけ」


「はいッ!」


 レクチャーしながら書類作業のなんたるかを教える。それが終わると、今度は帳簿をつけ終わったジェイクの番だ。

「閣下、ご確認願います!」


「ジェイク、帳簿の見直しをしている間に、トベラにソロバンのつかい方を教えてやってくれ」


「それにはおよびません、宰相閣下よりソロバンのあつかいを叩き込まれていますので」

 トベラは丁重に断り、俺がするべき見直し作業をすると言い出した。

「自信があります」


「では任せよう。一応、俺も確認するから楽にやってくれ」


「はい」


 計算資料とソロバンを手渡す。

 それらを机に広げるなり、トベラの目は輝いた。

 凄まじい速さでソロバンの珠を弾いていく。まるで演奏だ。とまることのない音色を奏で、見ている間に計算資料の山が右から左へと移動していく。

 開発者の俺より速いぞ!


 ものの五分としない間に計算を終えると、ご確認願います、と訂正された帳簿が突き返される。


【フェムト、計算の見直し頼む】


――……時間をかけますか?――


【トベラと同じくらいで】


 いつもならば了解の返事が送られてくるのだが、今回はちがった。


――…………器がちいさいですね――


 言い返せない。


――まあ、いいでしょう。いつでもどうぞ――


 いろいろと言い訳したいことはあったが、ここは素直に敗北を認めよう。フェムト様お願いします。

 思念通信にのらないように念じたのだが、どうやら聞き取られてしまったようだ。


――安心してください。第七世代に間違いはありません――


 頼もしい御言葉である。


 相棒の活躍で、俺の名誉は守られたが、こいつには一生頭があがらないことが判明した。といっても、ティーレのことだけでも頭があがらないのだが。


「さすがはスレイド伯ッ! 暗算だけで間違いを見つけるとはッ!」


 たった一カ所のミスを指摘しただけなのに、トベラから絶賛された。


【ありがとうフェムト、おまえは最高のAIだ】


――当然です――


【おまえ以上のAIは考えられない。今後とも頼むぞ】


――了解しました。全力でサポートします――


 フェムトを褒めちぎったところで書類仕事は終了。


 昼食まで時間もあることだし、休憩も兼ねて散歩と洒落込もう。

「よし見まわりだ。ついて来い」


 二人の教え子を伴って部屋を出る。


 その足で、アドンとソドムのいる鍛冶場へ直行する。

 聞き慣れたリズミカルなつちの音を聞きながら、鍛冶場に入る。


 マリンが出迎えてくれた。

「ラスティ様、二人に何を造らせているのですか?」

 どうやら彼女もいま来たばかりらしい。


「バリスタ用の板バネだ」


「「ばりすた? いたばね?」」

 興味を持ったのか、マリンとトベラが説明を復唱する。


「槍よりも太くて長い矢を飛ばす兵器だよ」


 気になるのだろう。トベラが質問してきた。

「そんな巨大な弓、どうやってつるを引くのですか?」


「専用の巻上機で弦を引く。模型があるはずだから、それをつかって説明しよう」


 部屋の片隅に置いてあった模型を持ってきて実演。ハンドルをクルクル回して、弦を引き、そこへ矢を設置。離れた場所にある木の板目がけて矢を放つ。


 ゴッ、という鈍い響きとともに、矢が板に突き立った。


「すごい! 模型でその威力だと実物はもっと……」

 驚きを口にするも、トベラは実物の威力を予想できないようだ。


「距離にもよるけど、全身鎧の騎士三~五人は確実にぶち抜くだろうな」


「「そんなに!」」


 マリンとトベラが驚く横で、知っているはずのジェイクも驚いていた。さてはこいつ、説明を聞き流していたな。まあいい、ジェイクもまだまだ子供だし、あまりキツく言ってもね。


 金属を打ち鳴らしている兄弟のそばで、仕事が一段落するのを待つ。気を利かせた鍛冶担当の兵が飲み物を出してくれた。俺の好きなコーヒーだ。


 ジェイクたちにも勧める。

「よろしいのですか?」


「休憩だから問題ない」


 マリン、ジェイク、トベラがカップに注がれたコーヒーを手にする。

 マリンとジェイクは、ミルクと砂糖をたっぷり入れている。意外なことにトベラはミルクのみ。女の子なのに甘いのが苦手なのだろうか? いや、そういった先入観をもっては駄目だ。セクハラに繋がる。かつての鬼教官がそれだった。女性だから、女性なのに、は禁句。これ大事。

 とはいえ、トベラが甘い物が苦手なのか知っておきたい。


 俺なりに知恵を絞って遠回しに聞いた。

「エレナ閣下は甘い物が苦手なのか?」


「閣下は大の甘党です。酒もタバコも(たしな)んでいます」


「ちなみにトベラは?」


「私ですか?」


「タバコを嗜むのなら、部屋に臭いが籠もらないようにしたいからね。空気の入れ換えの利く窓付きの部屋のほうがいいかなって」


「タバコは吸いません。酒は付き合い程度です。あと私も甘党です。ああ、コーヒーは別ですけど」


「もしかしてエレナ閣下はコーヒーに何も入れないとか?」


「いえ、閣下もミルクだけです」


 俺もミルク派だ。疲れているときは砂糖をちょい足しするが、概ねエレナ事務官と同じ好みらしい。


「スレイド卿は酒やタバコを嗜まれるのですか?」


「酒は飲むけど、タバコはやらない。口のなかがひどく苦くなるから嫌いだ。一度、ツェリ元帥に勧めれたけど、一回吸っただけで頭がクラクラしてね。それっきりさ」


 個人的な感想を述べると、なぜかトベラは食い付いてきた。

「そうですよねッ! 私もタバコは嫌いです。あの苦さと臭いがもう駄目で、咳もゴホゴホ出るし、なんであんな煙をありがたがって吸うのか理解に苦しみます」


「でも、エレナ閣下はあれが大好物だろう」


「……そうなんです。あれさえなければ最高なのに」


「わかるよ、その気持ち。一緒にいても臭いが服に移るし、咳も出るからなぁ」


「閣下も換気には気をつかってくれているんですけど、臭いまでは……」


 どうでもいい会話だったが、トベラとはうまくやっていけそうな気がした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 今こそあの空気清浄魔道具を作るのよ
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