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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§5 この惑星の職場環境を調査しました。 main routine ラスティ
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第132話 subroutine エレナ_ブラッドノアの惨劇①


◇◇◇ エレナ視点 ◇◇◇


 すべてはZOCの襲撃から始まった。


 次元跳躍(ワープ)で奴らから逃げ切れたと思っていたのに、ツギハギだらけの人間モドキときたら、次元潜行魚雷で特攻を仕掛けてきた。


 一度次元を越えたら戻ってこないレーザー兵器とちがって、次元潜行魚雷は別次元から撃ち出された次元に戻ってくる特徴がある。ゆえにシールドの硬い艦には有効な兵器だ。


 しかし問題もある。

 それなりの確率で、まったく異なる次元へ飛び出すギャンブル兵器なのだ。


 ZOCどもは、そのギャンブル兵器に乗って特攻を仕掛けてきたのである。人間にはできない大胆すぎる戦術だ。太古の戦術〝カミカゼ〟を彷彿とさせる。


 奇襲を許してしまい。おかげで跳躍先の座標設定は狂った。おまけに禁止事項とされているワームホール近辺での次元跳躍(ワープ)。結論からいうと次元跳躍は成功した。だけど、どの座標に到達したのかは不明。


 そんなイレギュラーな状況でも、ZOCどもは粛々(しゅくしゅく)と攻めてくる。

 次元潜行魚雷が着弾したのは四カ所。メインジェネレーターと疑似重力発生装置、生命維持装置、そしてコールドスリープ区画。

 奴らは的確にこちらの急所を狙っている。


 まっ先にメインジェネレーターが破壊された。

 艦が揺れる。


 メインシステムが、ラグも無く予備のジェネレーターに切り替え、事無きを得た。

 艦内の乗組員に戦闘態勢に移行することを通達したのち、すべての乗組員に災いが降りかかった。

 疑似重力装置が破壊されたのだ。


 疑似重力装置を失っても艦の能力はそれほど落ちない。しかし、艦内にいる乗組員からすれば話は別だ。かりそめの重力から、一気に無重力に変わる。メインジェネレーター破壊による衝撃が乗組員を襲った瞬間、それを狙っていたかのように疑似重力発生装置も破壊されたのだ。


 疑似重力下の慣性が残ったままでの無重力。慣性という暴力が乗組員を襲う。破壊による衝撃で飛ばされた多くの乗組員が、壁や床に叩きつけられ不運な最期を迎えた。かくいう私も、肩を強く打ちつけ関節が外れた。


 混乱のなか、ウィラー提督が指示を飛ばす。提督は白髪だらけのおじいちゃんだったけど優秀だった。


「武器庫のロックを解除、有線式の迎撃ボットを全機起動ッ! 無線式は動かすなZOCにハッキングされる。奴らの侵攻ルートを予測して、通路をパージしろ! 一匹でも多く船外に放り出せ」


「提督、私は何をすれば?」


「エレナ事務官はここに待機していてくれ。戦況いかんによっては艦を放棄ほうきせねばならん、この場を離れては小型艦に乗れなくなる」


「了解しました。では微力ながら艦橋(かんきょう)の防衛にあたります」


「そうならないことを祈っていてくれ」


「はっ!」


 提督は、いまだ混乱の渦中にいる艦橋の兵士たちに休むことなく命令を繰り出す。

「コールドスリープ区画……たしか新任のアマニがいたな。彼女からの報告は?」


「ありません」


「こちらからも呼びかけろ。あそこには多数の乗組員がいる。可能であれば即座にコールドスリープから蘇生させるように指示を出せ」


「…………応答ありません」


 問題ね。ZOCからのハッキング対策でコールドスリープエリアは手動でしか操作できなくなっている。操作権限を持つ者はわずかで、現状その権限を持っているのは、アマニと数人の士官だけ。その士官と連絡が取れない……。提督や副官のガストンも権限を持っているけど、艦橋を離れられない。最悪の事態だ。


「操作可能な者は近くにいるか?」


「いません。先の衝撃で気絶、もしくは叩きつけられて絶命した可能性があります」


「くぬぅ…………このままではZOCに皆殺しにされてしまう。やむを得ん、切り離せ。ZOCの存在が確認される区画は爆破。そうでない区画は……軍の救助隊の働きに賭けよう」


「よろしいのですか?」


「責任は私がとる。これ以上ZOCの侵入を許してはならん。奴らがコールドスリープ区画を出る前にパージしろ」


「はっ」


 ジェネレーターや装置は修理できる。しかし、人間は死んでしまっては生き返れない。苦渋くじゅうの決断だ。


 ウィラー提督は生き残る可能性を残してくれたけど、宇宙を漂う棺桶になるのもどうかと思う。いずれ生命維持に必要なエネルギーが枯渇こかつして……考えるのはよそう。


 ZOCの侵攻を考えれば、提督でなくともコールドスリープ区画を切り離すだろう。私だってそうする。

 乗組員には悪いけれど、眠っている間に死ねるほうが幸せかもしれない。死へと旅立つ者たちに、私は祈りを捧げた。


 艦橋が慌ただしくなる。


「十名。最寄りの武器庫へ急げ。武器庫への経路は外部野に送ってある。ありったけの高出力のレーザー兵器、マルチバレット式ライフルを用意しろ。最悪の事態を想定して爆薬も持ってくるように、メインシステムに仕掛ける」


「自立型セントリーガンは?」


「あれは遠隔操作が可能だ。ハッキングされる恐れがある。物理的ロックが成されているか確認しておいてくれ。くれぐれも起動させるなよ。それと大口径のバレット兵器は持ってくるな。無重力状態で撃つと反動で痛い目にあうからな」


「了解しました」


 兵士を送り出すと、ウィラー提督はバリケードを構築するよう命じた。


 戦闘員がバリケードになりそうな物をあつめてきて、エンジニアが手持ちのツールで溶接する。


 周辺エリアから逃げてきた乗組員もぞくぞくと合流する。いつの間にかBB級の広い艦橋は、武装した乗組員でごった返していた。


 防衛組は三〇〇を超えた。かなりの数だ。しかし安心はできない。


 問題はZOCの数。

 奴らはセンサーを無力化しながら進んでいるので正確な数を把握できていない。戦闘において未知の敵ほど恐ろしい存在はない。わからないがゆえに恐怖し、そして不安とあせりに駆られる。兵士たちは各々、身につけたお守りを取り出して恐怖を克服こくふくしようとしている。


「バリケード構築完了!」


「よろしい、それでは各自持ち場につけ。気を抜くな。ブラッドノアの次元跳躍は完了している、ZOCに後続はない。艦内にいる連中さえ排除すれば生き残れるぞ」


「おおっ!」

「やるぞッ、絶対に生き残ってやる!」

「俺は生きてコロニーに帰る」

「これだけの数がいれば、侵入してきたZOCくらいは倒せる!」


 後手に回っているが士気は高い。さすがはウィラー提督、兵士のあつかいを心得ている。


 とりあえずの防衛拠点はできあがったものの、ZOC相手ではハリボテに等しい。


 武器と予備の弾薬やエネルギーパックを手元に並べ、敵の襲来に備える。


 どれくらい時間が経っただろう。


 艦橋の外で戦っている戦闘員とボットの被害状況を知らせるカウンターがとまることなく回り続ける。


「各員戦闘準備! セーフティを外せ。誤って味方を撃つなよ!」


 ウィラー提督の命令を、副官のガストンが大声で復唱する。


「聞いたか、おまえたち! セーフティを外して、ZOCに備えろ! 慎重に狙え、間違っても誤射するなよ!」


 カウンターの動きが緩やかになってきた頃になって、艦橋の扉が破られた。



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