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初めての惑星調査任務は剣と魔法の世界でした  作者: 赤燕
§5 この惑星の職場環境を調査しました。 main routine ラスティ
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第125話 新しい職場



 なんだかんだ言っても、俺は連合宇宙軍の士官らしい。


 この惑星の騎士がどれほど強いのか、気になって仕方ない。

 いまさらどうでもいいことなのだが、一度気になると頭から離れず、つい魔が差してしまった。

 兵の訓練という名目でこっそり身体能力を計測したのだ。

 フェムトが弾き出した結果は地球人のそれと似たような数値。

 予想はしていたが安直な調査結果にげんなりした。


 最近、歯ごたえのある調査結果を出していない。趣味で続けているが、惑星調査もそろそろ打ち止めか?


 そんなことをぼんやり考えていると、兵士の一人が駈け寄ってきた。

「ハァハァ…………スレイド閣下……ハァ、走り込み……終了しましたッ! ハァフゥ」


 人によって伯爵、はくきょう、隊長と呼ばれ方はさまざまだ。

 どうやら呼び方のルールがあるらしいが、どうでもいいことなので調査する気になれない。だから適当に流している。

 これが帝国貴族なら躍起やっきになって呼び方の法則性をしらべるだろうが、俺は連邦のコロニー育ち。はっきり言って興味がない。

 それに、あれこれ気にする男はモテないって聞くし……。ほどほどでいいんだよ。ほどほどで。


 まだ肩で息をしている兵士に返す。

「わかった、小休止をはさんでから稽古けいこをつけよう」


 なまじっかセモベンテを倒してしまったせいで、稽古をつけてほしいという兵があとを絶たない。部隊を掌握(しょうあく)するためとはいえ、悪目立ちしすぎたようだ。

 でもまあ、兵士たちにめられて、あれこれ文句を並べ立てられるよりはいい。優しくしてもいいが、つけあがってストライキを起こされてはたまらないからな。最初にビシッと決めておいて正解だ。


 つかい慣れた木剣を手に、稽古場へ向かう。


 俺の直属の部下は五〇〇。ほとんどが正規の騎士以外で構成されている。

 初対面でやりすぎたせいで、古参連中は俺のことを煙たがっているようだ。

 そんなわけで、預かることになった新兵たちを鍛えなければならない。

 中間管理職は辛い、楽ができると思っていたのに残念だ。


 木剣を振りながら歩く。


 ずらりと並んだ兵士たちが稽古場で待っている。稽古待ちの兵士は一〇〇人を優に超えていた。まともに相手をしていては時間がいくらあっても足りない。

 適当に、ここからここまで、と地面に線を引き、稽古する人員を選ぶ。


 闘技場を模した円のなかに入るなり、兵士が大声をあげた。

「騎士見習いジェイク、参ります!」

 正統派の剣と盾で武装した、若い兵が身構える。


「いいぞ、かかってこい」


「はいッ!」

 がむしゃらに突っ込んでくるジェイクを最小の動きでかわし、肩や腕を軽く木剣で叩く。


「動きが大雑把(おおざっぱ)だ。そんなんじゃ、すぐに息が上がるぞ。身体を動かすのは最小限にとどめろ、慎重に間合いを詰めることも忘れるな」


「ありがとうございました」


「よし、次だ」


 新兵を負かして、短いアドバイスをする。それだけの仕事だ。

 適度な運動で汗をかいて、ほどほどのデスクワーク。ぬるま湯につかっているような、だらけた日々を送っている。

 稽古に参加するのは騎士見習いが多いが、たまに元傭兵やら、元冒険者やら、腕に覚えのある兵も挑戦してくる。手応てごたえのある連中が多く、いい暇潰ひまつぶしになる。


 こうやって運動も兼ねた稽古をつけるのが日課になっている。

 最後に、腕試しで戦ったゴブリンっぽい小男を倒して今日の稽古は終了。


「なかなかいい動きだったぞラッキー」


「褒めてくださるのは嬉しいんですがね、一〇〇人目でそれはないでしょう」


 盗賊めいた凶悪な顔をしているものの、ゴブリンに似た小男――ラッキーは見込みのある兵士だ。得意の飛び道具とは別に、体格を生かしたナイフ術を教えている。飲み込みがはやく、将来有望だ。


「皮鎧を着込んだ相手ならまず負けないだろうが、全身鎧の騎士が相手だと手こずりそうだな」


「隊長の仰るとおりで。野盗や魔物の退治は得意なんですけどね。騎士様や正規の軍隊と戦った経験が無いんですよ。そういったガッチガチの奴らと渡り合える戦い方ってありますか?」


「鎧の隙間すきまを狙え。全身鎧でも必ず隙間がある。関節の可動部がそうだ。腰回りや顔を狙うのもアリだな」


「なるほど、そこならナイフでも十分致命傷になる。さすがは隊長!」


 元傭兵だと聞いていたのでもっと粗野な男だと思っていたが、ラッキーは真面目で素直に言うことを聞いてくれる。


 ちなみに、腕試しで戦った五人は俺の部下になった。

 大鎚のガンス、戦斧を振りまわしていたのは怪力に似合わず小心者のマウス。正統派の二人は、なんとロイさんところで働いていたシンとロンだった。

 なんで商会で働いていた二人がここにいるかというと、冒険者は金になると聞いて商人見習いから鞍替くらがえしたのだとか……。そこからいろいろあって、ベルーガの募兵ぼへい試験に合格し、現在にいたるわけだ。


「商人のほうがよかったんじゃないのか?」


「ワシら、それも考えましてん。せやけど冒険者のほうがもうかるって聞いて」

「さいです。俺ら商人の才能あらへんのですわ」


 変なしゃべり方の二人だが、戦闘の才能はあるらしく冒険者ランクは揃ってD。一般兵よりちょい強い程度だ。顔見知りだけに、先陣を切れと命令しづらい。なので、二人にはデスクワークと伝令を任せている。


 余談ではあるが、俺と戦った理由は魔法無しなら勝てると判断したかららしい。そういえばあの頃は魔術師を名乗っていたな……懐かしい思い出だ。

 まあ、剣を交えた間柄なので打ち解けるのも早かった。彼らがブイブイ言ってくれるおかげで、兵士たちとの会話の切っ掛けも増え、俺としては楽なのだが……。


「スレイド隊長、そろそろ会議の時間です」


「わかったすぐ行く」


 古参連中と顔を合わせる会議が苦手だ。

 セモベンテは几帳面な男らしく、毎日のように会議を開く。ほとんどがどうでもいい騎士道の話なのだが、たまに訓練内容や兵士の練度についてあれこれ尋ねてくる。宇宙軍にもいた典型的な嫌な上司のそれだ。

 箱の隅を突くような指摘が嫌で仕方ない。


 しかし、会議を欠席するのは部隊の長としては許されない。だから嫌々参加している。

 知らせに来てくれた見習い騎士のジェイクを(ともな)い、会議が開かれる天幕へ行く。


「ラスティ・スレイド入る」


 返事はなかったが、貴族の権限で天幕へ入る。


「これはスレイド閣下、こちらに」

 ラスコーが上座へ座るよう手で示す。普通に接してくれるのはラスコーだけだ。セモベンテとアレクは露骨に俺を避けている。


 遅れてセモベンテとアレクが天幕に入ってきた。

「これはこれはスレイド閣下。随分とおはやい到着ですな。兵の鍛錬に時間がかかるであろうと遅れてきたのですが、気遣いは無用だったようで」

「おいおい、新任の隊長がこんなにはやく来れるものなのか?」


 二人の騎士はあからさまだ。ほんと、嫌な奴らだ。


「まあ、それなりには」


「なるほど、たかが五〇〇の兵ではそれほど苦労されないと……であれば、マロッツェの森の探索にでも行っていただけませんか。我々は多忙なもので」


 いちいちとげのある言い方だ。俺は上官だぞ、こいつケンカを売っているのか? 殴り飛ばしてやりたい気持ちになったが、出世のことを考えると迂闊うかつなことはできない。組織人たる者、進んで問題を起こしてはいけない、これ大事。


 感情で先走っては駄目だ。怒りを堪えて応える。

「わかった。聖王国の兵が潜んでいないか調査してくればいいんだな」


「話がはやくて助かる。あの森はまだ手つかずでしてな。敵と出くわすとは思えませんが、魔物にはお気をつけください。なぁに楽な任務ですよ」


 どこが楽なんだよ。魔物とか危険ありまくりじゃないか!


 まんまと嵌められた気はするものの、口うるさいセモベンテと距離を置けるのだ。喜んで引き受けた。


「ほかに議題がないようであれば、ただちに向かうが?」


「左様ですな、取り立てて急用はありませんし、森へ向かわれるのであればそちらを優先してください」

 セモベンテとアレクがニヤニヤ笑う。


 退席の許可もいただいたことだし、ここは早々にマロッツェの森へ向かうとしよう。


「それじゃあ、調査に行ってくる」


 ラスコーは何か言いたそうだったが、二人に威圧されているようで右手を浮かした状態で固まっていた。

 なるほど、味方はラスコーだけか。今日の一件は査定に響くからな、二人とも覚悟しておけよ!



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