衝撃?!
航ーは村の外で寝ていた。
村長やらジータやらが村の中で寝たらいいと優しい言葉を言ってくれた。ジータは自分の家にくるか等言ってくれた、だが航ーは頑なに断った、信用できないのもあるし何より一人がよかったのだ。
(朝か、)
日差しが差す頃に航ーは目覚めた。一晩悶えて考えて眠りに着いていた、目が覚めて周りを見渡すも夢ではない事を実感する、ジータ等の誘いを断って眠っていた所は最初にいた岩棚だった。
(……皆どうなっただろうか?もしかたらこっちに来てるかも?)
航ーはなんで自分だけ逸れたのか、自分の運の悪さを呪っていた。その時、
「お主は何者じゃ、」
急に声が聞こえた。
(何処から?)
航ーは辺りを見渡すと海に立っている老人が見える。
「今、話かけたのは貴方ですか?」
「ここら辺では見ない力じゃの」
(何言ってるんだ?)
航ーは混乱していた、それもそうだろう海の上に立つ老人がいた、それに薄らと青色に透けて見えまるで幽霊の様に見えたからだ。その姿はどこか厳かな雰囲気を持ち航ーを睨みつけている。
「貴方はどちら様ですか?」
航ーは背筋に薄ら寒いものを感じながら問いかける。
「わしか?わしはヴァジャと申す者よ、お主は何者じゃ?」
(ヴァジャ?!)
航ーは聞き覚えのある名に戦慄を覚えた。
(まさかウォジァノーイ?!、水の精霊の一柱じゃね?ウィンディーネじゃないのかよ?)
「黙っとらんと答えんかっ!」
(何か理不尽?初対面でこれ?)
絶賛混乱中の航ーは少し失礼な事を考えていた、と、不意に圧力が強くなった、もちろんウォジァと名乗る老人からだ、とその時、
ドカアァァン!!
航ーの前に幅1メートル程の水柱が勢いよく噴き上がった、
「うぉいっ!!」
航ーは咄嗟の事に後ろへ下がり近くにあったスバルを手に取った。
「当てるつもりはないんじゃがのう」
ウォジァは宣うが航ーはそれどころじゃない、
「何してくれとんじゃっ!コラッ!!」
心臓をバクバクさせながらキレた航ーはスバルを手から1メートル程垂らした、まるで分銅を回す様にゆっくり回していく。ウォジァはその姿を見て嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「お主、その手のっ!」
ウォジァが何かを言うや否や航ーは勢いよくスバルを手から離した。スバルはそのままウォジァの顔面目掛けて飛んでいく、と、その時ウォジァの目の前に水柱が上がりスバルを弾いてしまった。
「人の話は聞く様に教わらんかったかの?」
「いきなり攻撃しとって何を聞くんじゃい!」
話するのは断固拒否する、という姿勢を貫き弾かれたスバルを一息で引っ張り戻ってくる勢いをそのままに砲丸投げの様に体を回転させてまたもウォジァに投げつける。
「あんた、何してんの?」
航ーとウォジァの戦闘の中、森の方から底冷えするする様な声が聞こえてきた。航ーは目を離せないままウォジァを見てると、みるみる顔が青褪めていくウォジァがいた。
「何でお主がここにいる……」
「質問を質問で返すな、こっちが質問してんの。」
そこには先程の喧嘩っ早い老人はおらず青褪めて体を縮こませた気の弱そうなお爺ちゃんがいた。
恐る恐る後ろを見てみるとニコニコとしている(但し目は笑っていない)美しい女性がいた、身長は航ーと同じ位(170cm)スタイルは程よくしまっていて水色の髪が腰の辺りまで伸びている、その手には水の槍が握られていて穂先をウォジァへと向けられていた。
「ウィンディーよ、まずはその槍を下ろしてもらえんじゃろか?…」
(ウィンディー?まさかのウィンディーネ??精霊かな?)
ウィンディーと呼ばれた精霊?は手から槍を霧散させて胡乱な目をしていた。
「まずはこの状況、そしてこの森の事を説明してよ、昨日からうちの子が騒がしいやら嬉しそうやら訳わかんないのよ」
(あっ、コレあかん奴やん……)
航ーは青褪めながら静かに手を上げた。
「…すいません、それやったの俺の連れです。」
言った瞬間2人の精霊が航ーを見る。
(誰かの所為にするのはちょっとなぁ)
「お主の連れが? 何処におるんじゃ?」
「あんたの連れ?つーかあんた誰?それに連れって何処におるん?」
航ーは困った顔をしながらウィンディーネの方を見て海を指差す。
「多分、ずっと向こうです……」
「っえ?連れってシーサーペント?!」
「???っえって、なんじゃありゃーっ!!?」
ウィンディーネが言った先に航ーが振り向いて見ると巨大な海蛇がこちらに向かってきていた。
(あんなのが連れだったら怖いわ…)
「かわいい!かっこいい!おっきいい!」
ウィンディーネが初めて見た様にめちゃくちゃはしゃいでいた、ウォジァは何が何だかという様に口をポカンと空けて惚けていた。それもそうだろう、シーサーペントと思われていたものの体半分下は子鯱達が咥えて見せつける様に岩肌に叩きつけたのだから、そして親鯱は大きな槍をつけた3mはあろうと思われるカジキマグロの様な物を咥えていた。
(カジキかな?何か微妙に槍の位置が違うんだけど)
鼻の方じゃなくおでこの辺りに槍?角?を生やしたカジキマグロに航ーは首を傾げていた。
「ウィンディーネ様、俺は航ーと言います。そして俺の連れがあの3頭の鯱達です、少し訳あって此処に着いたのですが俺が襲われる所を鯱達に助けて貰ってこの様な有様に……」
「あはっ、だからあの子達は鯱という名の周りに集まっているんだー♪」
(あっ、だからか!目に見えて鯱が暴れている?)
航ーは子鯱が3m位飛び跳ねたり回転しながら海に潜ったり尻尾で軽く波を打ちつけたりしているのを遠い目で眺めていた、まだまだ遊び盛りな子鯱、水精霊が見えているのだろうその顔はとても楽しそうに見えた。
そこにウィンディーネとウォジァが親鯱に接触していた、何やら話している様だ。2人ともうんうん頷いてる。
(何話してんだよ!っていうか通じるのかよ?!)
2人はこちらを見て危ない笑みを浮かべたのだった。
(何やってんの?!精霊様に攻撃するなんてイカれてるよ!)
ジータというエルフの女性が見ていた。
(しかも、何で張り合ってるの?!)
何か信じられない物を見たという様に心の中で絶叫していた。
(これ、森、終わったかも……)
最早、絶望に近い感情を宿していた。そこにウィンディーネまで……
(終わった……、皆に避難を…えっ?)
そこで、海からシーサーペントまで現れた。
シーサーペントは長さ8m位あり凶暴な海蛇だ、エルフなんて一口で飲み込んでしまう、だがその後ろに巨大な背鰭、近くには同じ様な小さなシルエットが2つ、小さいと言っても3m位はあるシルエットにジータは目を見開いた、それらが現れた瞬間水精霊が突っ込んでいったのだ。
(なに、あれ!何何何?それに航ーの連れ?馬鹿なの?馬鹿なんだよね?!何か精霊様とも仲良くなってるし意味分かんない)
(水精霊ってウィンディーネだけど違うやん!俺が話したの眷属やん!それにウォジァノーイ?!只の脳筋やん!俺しょっぱなから最強格と…どうしよう………)
航ーは本気で嘆いていた、その瞬間だけは船人仲間達の事を忘れていた。
とりあえず航ーは聞いてみる事に、
「あの〜、もしかして水の精霊様と海?(水?)の精霊様ですか?」
「そうじゃ」
「そうよ」
流石に先程の口の利き方はどうかと思ったのか確証もなかったので恐る恐る尋ねた。
2人は鯱の親子と戯れながら簡単に答えた。
そして疑問に思った事を尋ねようと航ーは話す。
「ウォジァノーイ様、何故、先程は俺に攻撃を?」
森を壊しておきながら、俺が何かしたのか?、と航ーは尋ねる、実際には壊したのは鯱達だが。
「ハッハッ、ワシは災害を起こすのが趣味なんじゃよ、後ウォジァでいいぞい、敬われるのは好きじゃないんじゃ」
なんて傍迷惑なんだ、航ーはそう思ったが次の一言が意外に思われた。
「只、船乗りは別じゃの、あの荒い気性がいいんじゃ、遊びがいがあるの〜、お主は船乗りじゃないのかの〜その武器は縄を引っ掛ける道具じゃないのかの〜」
(何かバレてら、まぁ敬われるのが好きじゃないらしいしいっか、それに一応聞いてみるかな、伝わるかどうか知らんけど)
「うん、まぁ船乗りだけど、そう言えば鉄の船ってみてね?50m位の?」
「いや〜、ここいらじゃ見ないのお〜」
「ちょっと待って、この子達が大きい船を遠い所で見たって」
話を聞いていたウィンディーネが眷属から聞いたのか話に入ってきた。
(ビンゴ!可能性大か?)
皆がいるかも、と航ーは喜んだが次の言葉で信じられない事を聞く。
「でも、誰も乗っていなかったみたいよ。それに……その船はこちらの世界の物じゃないみたいなの…航ー、貴方一体何者なの?」
訝しげな顔をしながらウィンディーネは航ーを見てウォジァノーイも目を細めながら見ている。
ため息を吐きながら、一縷の希望を持って2人に話始める事にした。その間も精霊達は鯱の親子と遊びながら。