旅立ち-1
ご無沙汰しております
はぁっ、はぁっ…。
上気した息が響く。
怪我でなまった身体は酷く重いけれど、私は走らなければならない。
セイに報いるために。
今は組織のためじゃなく、セイのため走るのをどうか許してほしい。
少しの間さよなら、お父さん。
無断で組織から抜ける、逃げるなんて初めてのことだった。
命令を聞かないなんて考えたこともなかった。
未だ体中に自身への嫌悪感が巡っている。本当にいいのか、と。
ソニンにはセイの言うことが嘘だとは思えなかった。
「私を狙ってる人がいる。騒動になる前に国外へ逃げて」
わざわざ経路も物資も確保してくれて、高価な夜光石―暗いところで光る石―を準備してまで手紙を書いて。きっと口頭だとまずかったんだと思う。それほどまでに大変だとはまだ自覚がないけれど。
あのまま組織にいてみんなに迷惑をかけてしまうなら逃げたほうがいい。
殺されたくもない。
どれだけかかったってかまわないから再び父に、友に逢いたい。
暗く細い通路を駆け抜けると前方に白い光が見えた。出口だ。
明るい光を抜けた先―いつもと変わらぬ喧騒に出る。
騒がしいけれど活気のあるこの場所に立ち尽くすソニンに注意を向けるものはいない。
人混みに紛れソニンは歩き出す、どこへとも知れない遠いところへと。
人混みを縫うようにぐるぐると進む。
組織が命を狙うなら足取りなんて簡単に掴まれてしまうけれど今回は幸い物資の補給は必要ない。
ただ街を出て国境を越えるのは一筋縄では行かないだろう。
ソニンが選べる選択肢は二つ。
①正面突破。正規ルートの関所や役所を通る
②山越え。見つかる可能性は多少低くなる
人脈もないソニンに取れる行動など殆ど無いに等しく検討するのも無駄なレベルだ。
彼女が持っているのは「技術」だけ。
どんな状況でも生き残れるよう叩き込まれた生存術のみなのである。
ならばソニンが選ぶのは②、山越え。険しい山脈を越えて国境を跨ぐ。
(ま、そもそも山に辿り着くまでが長いんだけど…)
さっさと街をでないと手遅れになる。いずれ追手がかかるだろうし―。
(ほらやっぱり)
人混みを逸れ小道に入ったやいなや僅かな殺気を感じた。