また。
ボスを襲った敵襲を生け捕りにして尋問した際、吐いた言葉―
「手引したのはソニン=ストック」。
組織の上層部はほぼ全員信じなかった。彼女の組織への忠誠心は誰より大きく、
ボスを裏切るなんてこと決してするはずがなかったから。
しかしソニンの名前を知るものなんて組織内でも数少ないので
彼女でないなら他の内部犯がいることになる。
誰がボスを狙ったのか?
疑心暗鬼となるなか構成員の間に「ボスを狙ったのはボスが寵愛している護衛だ」という噂が流れ始める。まだソニンが目覚めていない頃の話だ。
内部犯が噂を流したであろうことは明白だが人の口に戸は立てられない。
組織全体にソニン排斥の雰囲気が漂い始め、やがてあることないことが噂になっていく。
彼女が無口であり態度が悪いとも取られやすいことも災いし、加速していくソニンへの不信感は止まることを知らなかった。
ある者はもはや止められないと判断し、彼女を一度組織から切り離すことを提言する。
とはいえソニンの能力は貴重だ。会議が紛糾するなか秘密裏に進んでいる計画があった。
それを察知できたのは普段回診も行っているセイ、彼女ただ一人である。
偶然耳にしてしまったのだ。
ソニンにボス殺しの汚名を着せて殺す計画を。
それからセイはずっと友人を守るため動いてきた。
彼女が目覚めるまで誰も近づけないようにし、謹慎という形で守られるようにもした。
毒で殺されることがないよう、無断で毎日ボスにギフトを使用していた。
疲労はたまる一方だったがひどく充実してもいる。
自分を救ってくれた彼女、そしてボスのためなのだから。
ソニンはそろそろ普通に動けるようになっている。
これならここから逃げてもらうことも可能だ。
彼女がずっと組織にとどまれば確実に殺されてしまうだろう、奴ならば絶対に実行する。
やっと、やっと彼女が逃げられるだけの準備は整った。あとはこの倉庫の隠し通路から―。
「お別れは悲しいがいずれまた会えるさ。ソニン、何も聞くな。
…すまない。これを持って、行くんだ」
まとめた荷物をソニンに放り投げる。
何もわからなくて不安だろうに、私の言葉に頷いてくれるとはね。
寂しさに心が埋め尽くされるが仕方ない。生きていればきっとまた会える。
「…。またね、セイ」
「…っ…ああ。こっちだ」
暗い昏い通路に吸い込まれていくソニンが見えなくなるまでずっと見送った。
曲がり角に差し掛かる一瞬に手を振ったのを、セイは見逃さなかった。
つ、と。
何年ぶりかもわからない涙が伝う。
またね、ソニン。
ボスが目覚めたという知らせが組織内を駆け巡ったのはその日の夜のことだった。