友達-2
「やぁ」
「おっソニン!会いに行こうと思ってたんだよ!元気かい?」
医務室のドアをノックするとすぐに返事があって、満面の笑みで迎えられた。
長い髪を無造作に下ろして男らしい口調で話す彼女はソニンが見た中で一番美人だ。
それなのに男に一切の興味も持たずに日々研究に励んでいた。
研究が恋人だよ、なんて真顔で言われたときはちょっと引いた記憶がある。
「包帯、変えてもらいたくて」
「はいはい。ほら見せてごらん」
足を向け、そこで手のひらの痛みも思い出して手も差し出した。
くるくると手際よく包帯が外され幹部があらわになる。
まだまだ痛いそれを無感情で見つめるソニンと
どこか輝いた目で見つめる彼女ははたから見ればあまりに異様な光景だろう。
ソニンの反応はおかしくない。
これのせいで彼を、ボスを助けられなかったのだから。
しかし医者たる彼女の反応はやや常軌を逸している。
「…セイ」
消毒しながら恍惚の表情で傷口を眺める彼女を見かね、ソニンは声をかけるも反応がない。
…ああ、また始まった。
彼女は傷が、いや傷が治っていく過程が大好きだ。だからより効果のある薬を開発し続けている。
セイ自身の持つギフトは軽い病や傷を癒やすものだからこそ更によく効くものを探し求めているのだろう。
あまりに傷が見たくなると自ら傷つけるから厄介だが、
医者としての有能さと外部への流出を恐れて組織は彼女を囲っている。
豊富な研究費と設備によってセイの研究はどんどん過激に、そしてより効果の高いものへと
昇華していっていた。
「セイ!」
「あぁごめんごめん。ほら終わったよ、絆創膏も塗っておいた」
綺麗に処置されて新しい包帯が手と足に巻かれている。
ありがたいけれど傷を舐めるように見るのはやめてほしい。
「ありがとう、それじゃ―」
「待て待て待てもう行くっていうのかい」
邪魔になってもいけないし良い息抜きにもなったからそろそろ戻ろうとお礼を言うと、
慌てた表情で引き止められた。
もう少しいてほしい、別に医務室にいるのはおかしくないから命令違反でもないだろう。
そう懇願されては断れず留まることにする。
「どうしたのセイ」
「友人とちょっとしたお茶ぐらい楽しませてくれよ〜」
鼻歌とともにお茶を用意し始めた。
木漏れ日が差し込む暖かな医務室に香り豊かなハーブティーの匂いが広がる。
優しい香りにソニンの顔もほころんだ。
「ああ、やっと笑ったね」
言われてさっきまで彼女の前であまり笑っていなかったことに気づく。
と、すきを突いてほっぺをむにむにといじられてしまった。
表情筋を鍛えろ、とのことだがただセイが触りたいだけのような気もする。
セイ特製のハーブティーと秘蔵のお菓子を振舞われ、席へ着くよう促された。
大雑把な性格の彼女だが部屋は何故かいつも綺麗だし料理の上手だ。
ちょっと不思議だし怖いけれど大事な友達。
小洒落たカップを手に取る。
組織で唯一といっていい友達の優しさが、冷えた体に染み込んでいった。