無力
軽い流血表現があります。ご注意ください。
パンッ。
ボスの体に吸い込まれる銃弾がやけにゆっくり動いて見えた。
なぜ。なぜ私の体は動かない。
こんなにも願っているのに、伸ばした手は届かない。
ソニンがボスに触れられたのは彼が地面に倒れる直前だった。
細身とはいえ自分よりずっと大柄なボスを支えるには力が足りずにガクッと膝が崩れる。
激痛にこみ上げる悲鳴を必死に噛み殺してボスを抱きしめた。
とくとくと流れゆく血を止めたくても何も出来ない自分が歯がゆい。
赤黒いものが地面に広がっていくのを見つめながらうつむいていた彼女の耳に小さな声が届く。
「…ソニン。敵は?」
はっと顔を上げるとボスと目があった。
撃たれたにもかかわらず強い光を抱いたその瞳に射抜かれる。
光に少しだけ冷静さを取り戻しつつ、普段とは比べ物にならないほどか細い声に震えながらそっと答えた。
「敵は処理済みです。みんなが片付けてくれました」
「捕縛はどうだ」
「数名確保したみたいです」
そうか、と短く答えてボスは起き上がろうとする。
傷に障ったのか小さくうめき声を上げる彼を必死に止めた。
「もうすぐ医療班が到着しますから!大人しくしててください…!」
話している間にも彼が逝ってしまうんじゃないか。
嫌な想像ばかり頭に浮かんでどうしようもない。
お願い、いかないで。
懸命に言葉を紡ぐソニンは目に浮かぶ涙に気づかない。
あと少しで流れ出すそれを見てボスはほんの少し顔色を変える。
「泣くな」
優しく告げられ、頭まで撫でられてもうソニンの涙腺は限界だった。
痛みと恐ろしさが相まったぐちゃぐちゃの感情が滲み出るように
涙が流れていく。
ボスは少し困った顔をして目元を拭い、もう一度頭を撫でた。
そのまま手を下に滑らせぐっと自らに寄せる。
驚く彼女の耳元に数言つぶやくと、小さく微笑んで目をつむった。
「ボス!?ボス、…お父さん!しっかりして!」
叫ぶソニンの声が薄れていく。
やがて医療班が彼らのもとに辿り着き、ボスとソニンを保護する。
ふたりともぐったりとして連れられていた。
自らの無力さとボスの言葉が体中に巡っていて動けない。
体が石になってしまったようだ。
お父さんが無事でありますように、と強く願いながら意識を手放した。