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Лилия -宵闇に咲く花-  作者: yi-ri
11/12

山中

しばらくほのぼのしてます。

薄暗い山々に足を踏み入れる。

ざわざわと不気味に揺れる木々に迎えられ、道なき道を突き進む。

幸いソニンは夜目が効くから平気だけれど、

この目がなければ暗い中を強行突破するなんて考えもしなかった。

こういうときばかりは「狼」に感謝しないといけない。

たまに木の根に足を引っかけつつ歩いていくとやがて大きな大きな楠に辿り着いた。

根本には人一人が寝転がれるほどの樹洞がある。


「…ふう、ついた」


今日はここで夜を過ごそう。

ずっと動き通しでさすがのソニンも疲れていた。

体力には自信がある方だが、近頃動いていなかったのと

全力疾走を続けていたのとで相当疲労が溜まっている。

このまま動いたところでいくばくかも行かないうちに疲れ果てるだろう。

ちゃっちゃと休むに限る。

とはいえ一人で眠るには少々寂しいところ。寒くはないけれど深い森の中孤独に眠るというのはスラムで一人眠るのとは違った恐ろしさもある。

ソニンは案外おばけといった怪異が苦手な少女だった。

冷静な仮面の下にも人らしい感情が隠れている…こともあるのだ。


荷物を置き、少しあたりを見渡してピュイっと短く口笛を吹いた。

静かなざわめきの中を鋭く響くそれは待人の耳にも届いて、やがて小走りにやってくる。

近くの草むらが震えたかと思うとぴょこんと可愛らしい耳が飛び出した。

微笑ましさに少女の顔もほころぶ。


「アフィ!久しぶりだね」


もふもふの毛玉、いやアフィはしっぽをゆらしてソニンに駆け寄った。

足に顔をこすりつけて懸命に親愛の情を示してくれる彼を思わず抱きしめる。

久しく感じていなかった暖かさを、抗議の鳴き声が聞こえるまで堪能した。

満足するまで撫で終えてやっと動き出す。

ちょっと名残惜しく感じつつ野宿の支度を始めた。


大小様々な薪を集め、拾ってきた太い薪二本の間に細いものを散らす。

枯れ葉も追加して着火すれば簡単な焚き火の完成だ。

ここの樹洞は度々使用しているから周辺の環境はだいたいわかっている。

焚き火を設置する場所も水場も全部父さんが教えてくれた。


(父さんはこうなることを予見していたのかな)


「…」


少し考え込んでしまったところでアフィに呼び戻される。

食事はまだかと催促され、苦笑して耳をかいてやった。


「キュイッ」

「わかったわかった。もうちょっとだから待っててね」


アフィの好物は川魚だ。今の時間帯ならぎりぎり狙える。

アフィに荷物番を任せて小川に向かった。


十数分後、数匹の魚を手にしたソニンは尻尾をこれでもかとふったアフィに出迎えられる。

すでに捌いてあとは焼くだけとなった魚に興味津々だ。

獣のくせに焼いてある魚の方がお好みの贅沢な彼のためにも急いで焼き始めた。

塩をふって棒に刺ししばらく置いておけば辺りに香ばしい香りが漂う。

傍目に見ても目を輝かせているとわかるアフィの背をなでながら、

ソニンは今後について思いを馳せていた。


国外へ逃げるといってもただ外国であればいいわけじゃない。

ソニンが紛れるなら働ける場所、資金を貯められる地が一番だ。

いくらものはあると言っても山越え後も野宿するには心もとない。

どこがいいか考えているうちに香ばしい、ともすれば焦げ臭い匂いが鼻腔をくすぐった。


「わっ危ない⋯焦げるところだった。お待たせアフィ、ほら魚だよ」


一心不乱に食らいつく彼を横目にしゃくしゃくと魚を食む。

暖まる身体を風が撫でていく。薄暗い森の中、少し肌寒い。


「⋯はは。しょっぱい」


塩をかけすぎたのか、こんがり焼けた魚は少ししょっぱかった。

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