生きゆく者
度々更新のマフィア風恋愛譚
恋愛シーン出てくるのは少々先ですのでご注意ください
あぁ?お話?はいはい、わかったよ。
今日はどんな話がいいんだ?
…ほう。かっこいい女の人ねぇ。
じゃあ、こんなのはどうだ?
恩人の言葉を胸に最後まで生き抜いた、ある女の話だ―。
その女は、ん?あーソニンとしようか。
ソニンはスラム生まれのガキだった。
親が誰かなんてわかったもんじゃない、助けてくれる大人もなし。
そんなわけでまだほんのガキの頃から盗みでもなんでもやったんだ。
生きていくためだからな、仕方ねぇさ。
食い物がなきゃどっかからかっぱらってくる、殺されかけりゃ殺し返す。
どんな手伝いだってやって小金をもらってなんとかしのいでたんだ。
金を得るために乞食のまねだっていくらでもしたろうな。
たまに恵んでくれる奇特なやつもいるのさ。
まぁそんなやつなんてほぼいないから毎日ギリギリのところで生きていた。
万一ヘマをしても自己責任なんだ、そりゃあ必死に生きてたんだぜ。
ある日ソニンは野菜なんかを売ってる店の前を通りかかった。
さっきまできっつい体力仕事をしていたからへとへとでな。
あんまり美味しそうだったから少しだけ立ち止まって品物を眺めてたんだ。
ただの野菜だろうって?毎日ほっとんど食べてないような子供にとっちゃ
どんなもんだって食えればごちそうなんだ。
まーとにかくほんのちょっと立ち止まっちまったんだ、不運なことにな。
店があるのは大通りの多少賑わってるとこだ。
少し脇にそれりゃきったねぇスラムが広がってるが。
人通りも多くて客だってけっこう来るし、招かれざる客―盗人のことだ、もよく来る。
だからそういう店のもんはぴりぴりしてんだ。特に小汚えガキ相手なんて酷いもんよ。
ガキに買えるような値段じゃねえからな、そこの野菜は。
冷やかしなんて御免だし盗まれるかもしれねぇとも思ったんだろ、店主は突然
ソニンに近づくと殴りかかったんだ。ちっこいガキなんて一瞬で吹っ飛ぶ威力でな。
殴られなれてて避けるのも上手くたって完全に油断してたらどうにもなんねぇ。
ソニンに取っちゃなんのことかさっぱりで、ただ怯えて店主を見上げるしかなかった。
あ!?野菜の値段だぁ?
そうかお前らにはわかんねえか…。
今は随分豊かになったがな、昔は生野菜は高級品だったんだぜ?
もちろん農村なんかに行きゃいくらでも手に入るだろうが、ソニンのいるスラムは
王都を囲んでるとこなんだ。遠くから来た野菜なんぞ庶民、それもスラムのガキには
手も届かねぇ。
ソニンみたいなやつはそういう売り物を盗むかなけなしの金で露店の食い物を買うか、
飯屋か店のゴミを漁るかくらいでしか食ってけなかったんだよ。
住むとこなんてそうそうねーよ。スラム街のガキだぜ?
ボロっちい隙間だらけの小屋があればいい方で、そこらへんの路地にざこ寝は当たり前。
縄張り争いも熾烈だから大変なんだよ。
んじゃ続きな。