第二章 第四話 暖かな食卓
2023/1/4 一部修正しました。
……俺が起き上がり歩を進めると、そこには懐かしい、和風な料理が机の上に並んでいた。
守「これは……米飯に味噌汁、卵焼きに焼き魚にお浸しに……」
あの時聞こえた女性の声の言う通りなら、ここは異世界という事なんだろう。しかし並んでいた料理は、俺がいた世界の、しかも俺が住んでいる国の料理であった。
ミズキ「この辺りだと今並んでいる料理の食材は手に入りませんが、特殊な入れ物に食材を入れて持ち運びをしているんです。お口に合うか分かりませんが……召し上がって下さい!」
イース「ミズキさんの料理美味しそうです!僕もちょこっと手伝いました!」
ゲンジ「沢山食べるんじゃよ!あんな大怪我をした後なんじゃからな。ワシもちょっと手伝ったんじゃよ!」
ミズキ「イースちゃんは沢山手伝ってくれたよね!ありがとう!……老師はちょこっとだけでしたけど。」
ゲンジ「はぅ!ミズキは手厳しいんじゃよな……イースと雲泥の差じゃ……」
そんな談笑が部屋の方に響いた。
ゲンジは冷静で落ち着いていた印象だったが、この時は剽軽で明るい老人、という印象だった。
ミズキは明るい優しいお姉さんという印象であり、イースも同じ様に明るく、礼儀正しい可愛い弟という印象であった。
老人、女性、プチドラゴンと異なった顔ぶれであるが、それは一家族で食事をする……そんな光景であった。
……何年振りだろうか。こんな風に食事をするのは。あの頃はそれが当たり前だと思っていた。けれど、それは決して当たり前ではなかったと、かけがえのない物だったんだと感じていた。
涙が出てきそうな所を堪え、食事に入る。
守「すみません。それではいただきます。」
ミズキの料理は絶品だった。卵焼きは少し甘めで優しい味で、味噌汁は出汁が効いてて旨みを感じた。他の料理も美味しく、米飯もあっという間に平らげてしまった。
守「あ……」
ミズキ「やはりお腹が空かれてたんですね。おかわりもあるので、沢山食べて下さいね!」
食事を終えて後片づけを済ました後、3人から話を聞いた。ゲンジとミズキは、「玄龍国」という国の出身との事だ。お互い其々が、他所の国で「ハンター」という職業に就き、色々な国に行ったとの事だ。
ハンターとは、魔物の討伐や犯罪者の捕縛、要人の護衛等の依頼を請け負う職業との事だ。依頼された物品や、素材を納品する依頼もあると言う。
今回はそのハンターを統括している「ハンターズギルド」という所から、今魔物に占領されている領地を奪還する任務を請け負ったと。そこで偶然、同じ出身者で知っている者同士が会う事となり、行動を共にしているのだと言う。
ゲンジ「驚きじゃよ。まさかミズキと会えるなんてな!」
ミズキ「私もです、老師。昔色々と教えて貰ったり、お世話になったので!嬉しかったです!」
ゲンジ「そんな事を言われると、ワシも嬉しいのぉ!こんな別嬪さんに言われるのだから、喜びが倍増じゃ!」
ミズキ「………………」
ゲンジ「おっほん!冗談じゃよ……いや冗談ではないか……本当じゃしな……」
というやり取りがあったが、2人は知り合いという事もあってか、息が合っている印象であった。
一方イースは、ここに来た理由は愚か、自分の名前とプチドラゴンという種族である事以外は記憶にないらしい。気付けば、今いる場所の近くに倒れていたみたいだ。そこに見回りで来ていたミズキに発見されたのだが……
イース「ミズキさんと歩いている途中で男の人達に襲われて……。その時に攫われて、あの大きな男の人に殴られていたんです……」
ミズキ「私が至らなかったばかりに……イースちゃん本当にごめんなさい。無事で良かった……。そして守さん、イースちゃんを守って頂き、本当に有難う御座いました。」
守「いえ。俺は何も出来ませんでした。助けたのはゲンジさんです。」
ゲンジ「そんな事はない!守が踏ん張っていなかったら、今頃イースはワシが到着する前に大変な目に遭っておった!」
ゲンジがそう言いながら、強い目で俺を見た。
ミズキ「そうです!守さんがいなかったら、イースちゃんを助けられませんでした!」
イース「守さんが助けてくれなかったら、僕は……本当に有難うございます!…………本当に守さんが無事で……良か……った…………」
守「……!」
イースは涙を流していた。ミズキはそんなイースを抱き締めていた。この子は俺を心配して案じてくれていたのか……。
……何だろうか。この人達と接していく内に、心の中にある暗くおぞましい部分が、少しずつではあるが剥がれていく……そんな感覚があった……。
……第二章 第五話へ続く