第七章 第九話 輝水刀
ミズキと首領ジェノスの因縁については、第六章 エピソード ミズキ②「後悔」をご参照下さい。
※ 上記の話は残虐性が高い話となっている為、苦手な方は閲覧を控えて下さい。
side:ミズキ
ジェノス「押し潰されろぉっ!!」
ミズキ「くっ……(体勢が悪い……受け流せない……)」
私はかつて仲間を殺された因縁がある、ジェノスとの戦闘に入った。途中まで有利に戦闘を進めていた私であったが、奴の突如の反撃で窮地に立たされる。
私は奴の大剣を何とか受け止めたが、不意を突かれ体勢が整わず、受け流す事が出来なかった。
ジェノス「オラアアァァァッッ!!!」
ズウウゥゥンンンッッッ!!
ミズキ「……!!」
ジェノスが更に力を加え、私の足が地面にめり込む程となった。
ミズキ「くっ……(だけど奴は必ず……)」
一時は鎖魔法を囮として使う場面はあったが、奴は何度も鎖魔法を繰り出していた。私が鎖魔法を解除した時、激昂する場面も見受けられた。
直感ではあったが、奴は鎖魔法に確固たる自信がある……あるいは執着している様に見受けられた。
このまま力で押し切る戦法も考えられたが、今のタイミングで奴は鎖魔法を使って、私を縛りつけようとするのではないかと予測した。
ジェノス「フハハハハ……(……そろそろ頃合いだなぁ。)」
ミズキ「……!」
私の予測通り、奴は大剣から左手を離し、鎖魔法を繰り出そうとした。
ミズキ「……(奴が片手になった!……今だ!)」
私は輝水刀の水の力を増幅させ、その水圧を利用して力強く、奴の大剣を押し上げていった。
ミズキ「はぁっ!!」
ジェノス「なにぃ!?」
私は精一杯の力で、奴の大剣を押し返した。奴の大剣は大きく後上方へ押し上げられる形となる。
ミズキ「(……よし!押し返した!……このまま追撃を……)」
ジェノス「(鎖魔法は拘束するまでに時間が掛かる……ならば……)……大した力だぜ!……だがな……」
奴は空いていた左手で、左腰に取り付けていた細い剣を左手で取り出す。
ジェノス「体の防御がお留守だぜぇっ!!」
ミズキ「……!!(しまった……!)」
ザシュゥゥッッ!!
ミズキ「……ぐぅっっ!!」
奴は冷静だった。奴は細い剣を左手で持ち、空いた私の右脇腹に向かって突きを放った。
私は体を回転させ致命傷は避けたが、私は右脇腹に斬撃を受けてしまった。
ジェノス「更に……これでも喰らっとけぇっ!!」
ミズキ「……!!」
ガアアアァァァンッッ!!!
ミズキ「ぐうぅっ!!」
ズサアアァァッッ!!
奴は更に右手で持っていた大剣を振り翳し、私に追撃を見舞ってきた。
私は何とか輝水刀で防御するが、手傷を負った直後で体勢も整わず、大きく後方へ吹っ飛ばされてしまった。受け身もままならず、私は地面に倒れてしまう。
ジェノス「ハーハッハッハッハッハッ!!どうだぁ!?効いただろぉ!……だが一体なぜ鎖魔法を破れるんだぁ?
あれは初見じゃ絶対に破れねぇ筈なんだが……それに、俺の事を知っているかの様な口振りだったしなぁ…………うん?……女の侍……?」
奴は思い出したかの様に言葉を発する。
ジェノス「そうだあぁぁ!!思い出したぞぉっ!!
……数年前……白竜のヤツと一緒にいた女かぁ!白竜の奴は凄惨な最期だったよなぁ!!……まぁ俺が殺ったんだがなぁ……ハハハハハハハハハハハハ!!
折角だぁ!!あの白竜の時と同じ様に両腕を斬り落とし、目玉をくり抜き、地獄の苦しみを与えるとしよう!!
目玉や腕は変態どもに売っ払えば、少しは金になるかぁっ!?ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
ミズキ「…………!!!……貴様ぁっっ!!!」
白竜……数年前、ハンターの後輩として……そしてかけがえのない仲間だった、プチホワイトドラゴンのヒースちゃん。彼は闇に染まっていた私の心を……救ってくれた。
そんな彼を、酷い殺し方をした奴が目の前にいる……だがここまでは何とか私は冷静を保っていた。
……私自身はいくら蔑まれようとも構わない。しかしあの時の……凄惨な光景が、奴の言葉によって鮮明に浮かび上がってしまった。そして奴がヒースちゃんを侮辱した…………
…………私はもう冷静ではいられなかった。
ミズキ「うわぁぁっっ!!貴様は……殺すうぅぅっっ!!!殺してやるううぅっっ!!!!」
私は力を振り絞り立ち上がる。直後奴に向かって直進した。……先程と違うのは、私は狂った様に涙を流しながら、冷静さを欠いた特攻をしていた点であった。
ジェノス「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャァァッッ!!!堪んねぇなぁっ!!殺してみろよぉ!!返り討ちにして白竜と同じ所に送ってやるからよぉ!!」
ミズキ「貴様ああぁぁっっ!!!」
ガキイイイィィィンンッッ!!!
私が繰り出した斬撃は、奴の大剣に防がれる。そこから私は怒涛の連撃を見舞っていく。
ミズキ「殺すぅっっ!!!貴様を殺してやるぅっ!!!」
私は数度の連撃を放つが、いずれも奴の大剣に防がれてしまう。
ジェノス「ヒャヒャヒャヒャ!!(殺意マンマンだなぁ!!……そろそろ頃合いかぁ!)」
ミズキ「殺すうぅぅっっ!!ころ……」
ガキイイイィィィンンッッ!!!
ミズキ「……!!」
ジェノス「ようやく捕らえたぜぇっ!!」
私は……鎖魔法に捕えられてしまった。
鎖魔法は私の腕ごと力強く締め付け、私は輝水刀を手放してしまった上、脚も縛られ地面に倒れてしまう。
ミズキ「ぐうっっ!!……離せ……離せえぇっっ!!!」
ジェノス「だぁれが離すかよぉっ!……美女が縛られて倒れている……こぉんな絶好の機会を逃すのは漢じゃねぇよぉ!ヒャヒャヒャヒャヒャヒャァァッッ!!
堪らねぇっ!!激ってくるぜえぇぇっっ!!」
大声で聞き苦しい笑い声を上げていたが……奴はここでも冷静だった。
冷静さが欠如した私は幾度となく連撃を見舞っていたが……奴が鎖魔法を発動した事に気が付かなかった。
……私は奴の掌の上で転がされていただけであった。
ミズキ「くそおぉぉっ!!(早く……どうにかしないと……!) ……!!(身体が……痺れて……!)」
ジェノス「おっとぉ!毒が効いてきた様だなぁ!この剣に塗っておいたのさぁ!……速攻性はそこまでないが、確実に効く痺れ毒だぜぇ!
まぁ効く前に鎖魔法で縛っちまったけどなぁ!ハハハハハハ!!」
ジェノスは用意周到な男だった。……痺れ毒の剣で斬られた私が勝つには、確実に且つ速攻で奴を倒す……それしかなかったのだ……
ジェノス「さぁぁてえぇぇ!!何処からやっちまおうかなぁ!?……あの白竜を殺した時と一緒に……右腕から斬り落とすとしよおぉぉかぁぁぁ!!!」
ミズキ「……!!!」
ジェノスは大剣を大きく振り上げる。
ジェノス「いっちゃうぜえぇぇっっ!!!チェストォォォッッ!!!!」
ミズキ「…………!!!」
ジェノスは大剣を私の右腕に向かって、勢い良く振り翳してきた。
ミズキ「…………!!!(……もう……ここまでなの……?)」
私はなす術がなく、涙を流すしかなかった。
……時が止まった感覚であった。
……死を感じたのであろう。今までの事が走馬灯の様に、私の頭の中から蘇ってくる。
老師やハンスさんと再会し、守さんとイースちゃんと出会った事。ガーサル領で奮闘し、老師と永遠の別れをした事。ハンター試験でイースちゃんと戦って……一時だったけど、ヒースちゃんと再会出来た事……
ヒースちゃんとの思い出も…………
「(……ハンスさん……守さん……申し訳ありません……
……イースちゃん……ごめんね……)」
私は生きる事をあきらめた。……なす術もなく、これから自分の身に起こるであろう激痛に恐怖を抱きながら、絶望に打ちひしがれて………………
「ミズキさん!!まだあきらめるのは早いっすよぉ!!」
ミズキ「……!!」
私が絶望の淵に落とされた……その時。もうこの世にはいない筈の、ヒースちゃんの声が聞こえた。声がした方には……持ち主を呼び掛ける様に、輝水刀が青く光輝いていた。
「そうじゃ!お主はここで終わる侍ではない!!
……お主の底力を……見せるんじゃぁっ!!」
ミズキ「……!!(老師……!)」
ヒースちゃんの声に続き、今生の別れとなったゲンジ老師の声まで聞こえてくる。
「ミズキさん!!」
「ミズキ!!」
ここに居ない筈の守さん、ハンスさんの声も聞こえてくる。
「ミズキさん!必ずまた後で会いましょう!!」
ミズキ「……(……そうだ……私はイースちゃんと……また後で……必ず会う約束をした……
……皆……私を信じてくれている……
………………このままじゃ…………終われない!!!)」
私の心に呼応する様に、輝水刀の輝きが更に増していく。
ジェノス「……!!(なんだ!?刀が光ってる?………そんなのに構ってられるかぁ!このまま振り切る!!)
奴が構わず大剣を振り翳したが……大剣の先に私は居なかった。
ジェノス「…………!!」
ミズキ「はぁっ!!」
私は全力で輝水刀の方まで回転し、右手で輝水刀を手にした。
ジェノス「それが……どうしたぁ!!縛られてるままだろうがぁぁっっ!!」
ジェノスは再び大剣を、私の方に向けて振り翳す。
ミズキ「…………(この状況……一か八か……あの技しかない!……輝水刀が呼応してる…………いける!!)」
ジェノス「オラアアァァァッッ!!!」
ミズキ「……水車輪(ミズシャリン!!)」
私は輝水刀に水の力を纏わせ、回転を試みた。忽ち私の周りにも水の力が纏い、水圧で私の身体は宙に浮き出した。
ジェノス「ぐおおぉっっ!!」
縦回転を加えた水の斬撃は、奴の右胸と右脇腹に深手を負わせた。奴はその威力に後方へ大きく飛ばされた。
……以前、臨時村で行ったイースちゃんとの模擬戦で失敗した技であったが、輝水刀が私と呼応している今……土壇場で技を成功する事が出来た。
……そして……
パリイィィィンッッ!!!
ジェノス「なっ!?……そんな……そんなバカなぁぁっっ!!!」
私を縛っていた鎖も両断された。
直後纏っていた水の力を解除し、私はしゃがみながら着地した。追撃体勢を既に整えた上で。
ジェノス「捕縛が完了した俺の鎖魔法を……!!こんな事は……あってはならねえぇぇっっ!!!
ふざけるなぁ!!……ふざけんじゃねえぇっっ!!!」
先程と打って変わり、奴は激昂していた。明らかに冷静さを欠いており、気が動転していた。
捕縛が完了していた鎖魔法が破られた事実を……奴は受け入れられなかった。奴の確固たる自信……そして執着していたものは音を立てて崩れ去った。
ジェノス「黙って……縛られろぉっっ!!!」
奴は連続で鎖魔法を展開する。
ミズキ「……はっ!」
パリパリパリイィィィンッッ!!!
ジェノス「……!!……くそったれえぇぇっっ!!!」
奴の鎖魔法達を私は瞬く間に両断した。
ミズキ「……。」
ジェノス「……!!」
直後私は一気に奴との距離を詰める。
ジェノス「テメェは……死んどけええぇぇっっ!!!」
距離を詰めた私に対し、ジェノスは大剣を振り翳してきた。
……奴の冷静な立ち回りや戦術に私は追い込まれ、一時は死を覚悟するにまで追い詰められた。
身体の痺れは強くなっていた……それでも私は奴よりも、剣術と速度は上回っている。更に輝水刀も光輝き呼応し、更なる力を得ている。
……冷静さを欠いた奴には、もう負ける要素はなかった。
ミズキ「……これで終わりだ。
………水連斬・三連!!」
ザシュザシュザシュゥゥッ!!!
ジェノス「ぐおおおぉっっっ!!!」
私は水の斬撃を三連撃として奴に見舞っていった。
大量の鮮血を流し完全に深手を負った奴は、脱力した様に後方へ倒れ込んだ。
ジェノス「がはぁっっ……(そんな……バカな……この俺が…………この…………俺がぁぁっ!!!)」
バタアアァァァンッッ!!
奴は地面に仰向けで倒れ込み、奴との勝負は決した。
ミズキ「……急所は外してある。だが、その傷ではもはや動く事も出来ないだろう。……貴様を拘束し、ハンター協会本部に引き渡す。」
ジェノス「はは……さっきまで殺意マンマンだった癖によぉ……テメェはあめぇ……甘ちゃん過ぎるぜぇ!!
ハンターはみぃんな、こんな甘ちゃんばっかの腰抜けばっかりなのかよぉ!!」
確かに途中まで奴を殺そうと思った……しかし、私は既に落ち着きを取り戻し、奴に対する殺意を抑えていた。
ミズキ「少なくとも貴様みたいな殺戮者ではない。然るべき場所で、然るべき処遇を受けるのだな。」
ジェノス「くっ……!」
奴の戯言を私は何食わぬ顔で返し、奴は苦虫を噛む様な表情となる。
私は奴を気絶させ拘束しようと、奴の方に歩み寄った。
ミズキ「…………っ!!(胸が……)」
しかし私は突如、激しい胸の痛みに襲われる。
ジェノス「心臓の方にも影響が出たか……そんな状態で良くあれだけ動けたな……大した精神力だぜ……
……だがなぁ!!テメェが受けた痺れ毒はなぁ、心臓にも作用すんだよぉ!……いずれは完全な心臓麻痺を引き起こし……テメェは御陀仏になるって寸法さぁ!!」
ミズキ「……!!」
ジェノスは声を大にして、私に死の宣告を告げた。
ジェノス「最後の攻撃は……らしくなかったなぁ。漢はクールじゃねぇといけねぇぜぇ……。
……御縄についたら終わりの闇商売だ。……トンズラさせてもらうぜぇ。……テメェが死ぬのを見れないのは残念だけどよぉ。」
そう言うと、奴は漆黒の宝石を取り出した。
ミズキ「くっ……逃すか……!!(奴を気絶させないと……!)」
私は最後の力を振り絞り奴に向かっていき、輝水刀の峰打ちを奴の頭に見舞おうとする。
ジェノス「あばよ……もう会う事はねぇだろぉ……くたばりやがれ……」
奴は笑いながら捨て台詞を吐いた。
ミズキ「逃げるなぁ!!」
輝水刀の峰打ちが奴に届く寸前で……忽ち黒い渦が巻き起こり、奴は消えていった。
カアアァァンッッ!!
輝水刀は虚しく地面を叩くだけに終わった。
ミズキ「くっ…………」
バタンッ!!
私は気力を振り絞り奴の拘束を試みたが、逃げられてしまった。全身に痺れが回った私は、うつ伏せで地面に伏してしまう。
ミズキ「…………(逃げられた……胸が痛む……それに……力が入らない…………今度こそ…………私は………もう…………。
……みんな……どうか……無事で…………いて…………
………………ごめん……なさ……い……………………)」
満身創痍となった私は目の前が真っ暗になり、私の意識は完全に闇へと落ちてしまうのであった…………
…… 第七章 第十話へ続く




