第七章 第七話 伏兵
俺達は元凶の男に苦戦を強いられたが、ハンスの能力と戦術により、イースの攻撃が当たる寸前まで追い込んだ。しかし、人型の竜の魔物の出現により、攻撃は防がれてしまった。
魔物の名前はスコット……聞き覚えがある名前であった。
スコット「…………」
ハンス「まさか……ハンターのスコットなのか!?俺の事は覚えていないか!?」
ハンスが鬼気迫る表情で、人型の竜スコットに問いかける。
守「……!!(まさか……ガーサル領でサポートしてくれていたハンターの方なのか……!?)」
ミズキ「……!!スコットさん……!?貴方は……ガーサル領で私達と別行動をしていたハンターの方ですか!?」
ハンスに続いて、ミズキもスコットに問い掛ける。
スコット「……勿論覚えている。……私は影ながら任務に努め、挙げ句の果てに死んでいき、誰にも称賛される事なく存在が消える……。
…………いつもそんな役回りばかりで、惨めな思いをしてきた……。私がそんな目に遭っていたというのに……何も知らずにのうのうと生きている奴らは…………全員殺す!!!」
ハンス「……!!スコット……その様に思っていたのか……」
人型の竜スコットは吐き捨てる様に大声で叫んだ。
そんなスコットに対し、ハンスは哀れみの表情をしながら、言葉を絞り出した。
「ハハハッ!!……更に一体召喚するとしよう!」
そんな中フードの男は高らかに笑い、今度は右手から濃い紫の宝石の様な物が現れる。そこから濃い紫の渦が巻き起こり、今度は黒く紫色をした狼型の魔物を姿を現す。
「折角だから名前を名乗れ!!」
フードの男は狼型の魔物に、名前を名乗る様に指図した。
「……我……ケニー……。
……あぁ……人間だ……!……早く……早く喰いたい……!!」
ケニーと名乗る狼の魔物は、鋭い牙をした口から大量の涎を垂らしながら、言葉を発する。
ハンス「……!!……ケニー!!お前は俺の事を覚えているのか!?」
「ハハハハッ!!残念ながらコイツの方は記憶が殆ど飛んでしまっているよ!」
スコット「可哀想に……これも全て貴様ら含めて、のうのうと生きている人間の仕業だ……。せめてもの救いに、俺がそいつらを皆殺しにして、ケニーに喰わせてやろう……」
スコットとケニー……
……臨時村防衛戦、ガーサル領奪還作戦のどちらも、俺達と別行動でサポートしてくれていた2人のハンターだ。
奪還作戦の際に任務を遂行していたが、任務完了直後にワイドネスに捕えられ、俺達の前で無惨に殺されてしまった……
その魂は、シシオウとドグマの仮死状態を復活させる為にワイドネスが使用し、消滅したと思われたが……
ハンス「……(この男……!!……人の魂を弄ぶ真似を……人の魂を……何だと思っているんだ……!!)」
ミズキ「……!!(ハンスさん!!……ハンスさんがこんな顔をするなんて……!)」
ハンスは今までに見た事がない様な、鬼気迫る表情をしていた。しかしミズキが不安な表情で自分を見ていた事に気が付き、深呼吸をして自らを落ち着かせた。
ハンス「……すまないミズキ。……もう大丈夫だ。心配をかけてしまったね。……有難う。」
ミズキ「いえ……とんでもありません!(ハンスさん……良かった……!)」
ハンスの言葉を聞き、ミズキは安堵した。
ハンスからは、とてつもない怒りを感じたが、すぐに気持ちを立て直せるのは流石であった。
「……ちっ!(忍者崩れが……心を立て直しやがった。……だがな……)……召喚石はもう一つある。折角だからもう1人召喚といこうかぁ!!」
ハンス「(これ以上敵が増えるのは厄介だ!召喚はさせない!)」
ハンスは即座に男の方へ踏み込み、苦無で斬りかかろうとした。
スコット「……!!(速い……!)」
ケニー「……!!」
人型の竜スコットと狼型の魔物ケニーは反応してはいたが、想定出来ないタイミングであった為か、対応が遅れる。
しかし、黒フードの男は攻撃を想定していたかの様に、冷静であった。男は、ハンスの攻撃を残像を残して躱すと、瞬時に後方へ大きく距離を取った。
「(……想定済みだ。)命令だ!目の前の忍者崩れを捕えろ!」
ハンスが追撃をする為、男の元へと踏み込もうとした時、男の右手から漆黒の宝石の様が現れ、ドス黒い渦が巻き起こった。直後、ハンスの周りに鎖の様な物が展開された。
ハンス「……!!」
「スコット!ケニー!忍者崩れを殺せ!!」
スコットとケニーは、鎖に縛られる直前のハンスに襲い掛かる。
ミズキ「ハンスさん!(あれは……!)……今……鎖を断ち切ります!!」
俺とイースも走り出そうとするが、ミズキが俺達を凌駕する速度でハンスの元へ駆け付け、即座に輝水刀で鎖を両断した。
ハンス「すまないミズキ!……皆!下がってくれ!
……水遁・分身水爆破!!」
「……!!スコット!ケニー!下がれ!」
ハンスは前方に分身を出現させる。そしてハンスの掛け声に合わせてハンスと俺達、男の声に合わせてスコットとケニーは後方へ大きく下がり、互いの距離が大きく離れる。
直後ハンスの分身は水蒸気爆発を起こし、俺達と敵との間には白い大きな煙が渦巻いた。
ハンス「ミズキ……有難う。助かった。」
ミズキ「いえ……あの鎖は……覚えがあるんです。……嫌と言う程に。」
ハンス「ミズキ……?」
ハンスはミズキに礼を言ったが、ミズキの表情は物凄く険しかった。
煙が晴れた先には、新たに1人の人間の男が召喚されていた。
ミズキ「……(……やはり、あの鎖は……奴の魔法……!!)」
「召喚承りました。(私の鎖が破られた……?)……むっ?……あれは……?」
ミズキ「あの時の……盗賊団の首領!!」
「俺の事を知っているのか?(あの女侍が、私の鎖を破ったというのか……?……しかし……)
……女は奴隷として闇市場に送るばっかりで、いちいち覚えていないな。……お前中々良い顔だな?高く売れそうだ!!……それに、あれはプチアイスドラゴン……」
「ハハハッ!忍者崩れともう1人の男は殺すが、女とドラゴンは好きにして良いんだよぉ!!」
「誠でございますか!?……それならば女は奴隷として闇市場へ送りましょう!ドラゴンは生きたまま素材を剥ぎ取りましょう!!沢山の金が手に入りますよぉ!!ハハハハハハハハハッ!!!」
一同「…………!!!」
召喚された男は、大声で高らかに笑い声を上げた。
男は左眼に眼帯をしており、長髪の癖毛、そして顎髭を生やした、いかにも盗賊団の首領といった風貌であった。更に漆黒のナポレオンコートを着用しており、格好に関してもいかにも盗賊団の首領といった趣であった。
そして背中には大きな大剣を背負っており、左腰には細い剣を掛けていた。
ミズキ「…………!!」
ミズキは険しい表情で輝水刀を強く握り締め、手を振るわせながらも踏み留まっていた。
自身が特攻すれば、敵の格好の餌食にされる。そして戦況は限りなく不利となり、俺達にも危険が及んでしまう……そんな思いがミズキを踏み留まらせていた。
イース「ミズキさん……」
ミズキ「ふぅ……ふぅ……イースちゃん。……私は大丈夫よ。……心配してくれて有難う。」
ミズキは自身を心配してくれていたイースに、呼吸を整えながら優しく答えた。
「折角だから名を名乗ろう!我が名はジェノス!魔物を大量虐殺し、多大な富を得る者!
人間も邪魔をする男は殺し、女は何人奴隷として送ったかも分からない程だ!……まぁ奴隷といっても性奴隷としてだがな!男の奴隷よりも格段に高値がつくのでな!ハハハハハハハハッ!!」
「私も驚愕する程の、悪に染まった人間だよ!君達にとって最高の相手だよねぇ!!」
元凶の男はジェノスの事を「悪に染まった人間」だと紹介した。
「これで役者は揃ったねぇ!……あっ!そうそう!私が兵士団をけしかけて、早めに討伐へ行く様に仕向けておいたから!奴らは魔物を大層憎んでいるから、もうすぐ凄惨な光景が見られるよぉ!」
ハンス「……!!(おそらく憎悪の波紋を使ったな……!)」
「ジェノス!スコット!ケニー!私は兵士団の指揮を取る為に、ここを離脱する!お前達は……邪魔になる人間達を殺すんだ!……ついでに邪魔な人間の村も壊滅させろ。」
ジェノス「はい。主の仰せのままに。」
スコット「了解した。」
ケニー「……人間……食べれる……グフフッ……」
元凶の男は召喚した3名に対し、俺達の抹殺だけでなく、人間の村……おそらくオーズ村の壊滅も命じた。
守「そんな事は……絶対にさせない!!」
一時は元凶の男を追い詰める所まで来ていたが、俺達と縁のあった……そして因縁のある3名の伏兵により、状況は著しく変わってしまった。
そして事態はシシ族とベア族……更にはオーズ村壊滅の危機を迎えてしまうのであった……
…… 第七章 第八話へ続く




