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第七章 第五話 対峙


 元凶である男を捕える……そう決めた翌朝、俺達は準備を済ませ、村の出口まで来ていた。

 そこにはクレア、アレク村長を含め、村の住民が総出で出発前の見送りに来てくれていた。



アレク「皆様には、いくらお詫びしても足りません。……どうかご無事で……宜しく御願い致します。」


ハンス「とんでもありません。これが私達の生業(なりわい)ですから。……必ず成功させ……無事に帰還致します。」


 

 

 

守「それでは……行ってきます。」

クレア「……宜しくお願い致します。……ご無事を祈っています……」


 こんな風に無事を祈って見送られると……転移される前にいた世界で……暗殺者組織に所属していた頃の仲間であった「水音(みずね)」との約束を思い出す。

 そして、その約束を果たせなかった事も……。


 


 だけど今は……


 


守「はい!有難う御座います!必ず……戻ってきます!」



 あの時は素っ気なく返答し、挙句の果てに約束を破ってしまった。……後悔している。……本当に申し訳ないと思っている。……叶わない希望であるが、水音(みずね)にまた会えたら……約束を破ってしまった事を謝りたい。

 

 

守「(以前イースが見送ってくれた時……何とか約束を果たせた。……今回も……約束を果たすんだ!)」

 


 そして俺達は大勢の方達に見送られながら、村を出発した。








 



 待ち伏せをする場所は、村から半日と掛からない程の距離だ。その道中で、ハンスが今回の元凶の男について話す。

 


ハンス「守さん。元凶の男と対面した時……どんな印象だったかな?」

 

守「はい。……男の力はそこまで感じず、威圧的という訳ではありませんでしたが……何か得体の知れない……邪悪な雰囲気がありました。」


 それに俺が既に捨てた筈の名前……「朱音(しゅおん)」という名を知っていた。


ハンス「あのワイドネスを従えていた程だから、相当の実力者だと思う。……力を隠している可能性が高いだろうね。」


イース「…………。」


 イースの表情に不安が募る。イースは今回が初任務だ。防衛戦やガーサル領奪還作戦、ハンター試験でのミズキとの戦闘はあったが、実戦経験はまだ乏しい。

 今回の相手は恐らくワイドネス以上の強敵であり、相手にするには荷が重すぎる。しかし……


守「イース。奪還作戦の時から、更に俺達は強くなってる。それに心強い味方もいる。ハンスさんが立てた作戦通りにやれば、必ず成功するよ。」


 イースの頭を俺とミズキが撫でて、イースをなだめる。


イース「申し訳ありません……(自分が情けない……)」


 

ハンス「不安にさせてすまない。守さんの言う通り、奪還作戦で一緒に戦った時から、守さんとイース君は更に強くなった。……一緒に、種族の絆を取り戻そう!!」


一同「はい!!」






 


 



 そして俺達は待ち伏せ場所に到着した。



ハンス「ミズキ、守さん、イース君の近くにそれぞれ一体ずつ、俺の分身を配置させる。隠れ身の術を発動させるから、一緒に隠れて欲しい。」


 ターゲットが射程圏内に入ったら、まずミズキが飛び出していき、それに続きイース、そして俺が奇襲攻撃を仕掛ける。戦闘に入った直後、ハンスが死角から捕縛術を仕掛け、ターゲットを捕縛するという手筈だ。


ハンス「……危険な役回りをさせてしまって、すまない。」


守「いえ。捕縛する役は、ハンスさんが最も適任だと思います。俺達は役目を全うします。」

 

ハンス「……有難う。もうすぐでターゲットが来る頃だね。……皆の武運を祈る。」


 ハンスは右人差し指と中指を立て念じ、分身を3体出現させる。俺達はそれぞれ分身と共に配置につき、ハンスは隠れ身の術を発動させた。






 

 




 そして10分程が経ち……ターゲットの男がやって来た。男は例の漆黒のフード付きコートを着ており、禍々しい雰囲気を漂わせている。


 

 



 ……周囲に緊張が走る。


 




ハンス「(奴は……一人でやって来たか。……周りに部下らしき者の気配はない……)」


ミズキ「(話に聞いていた時はまさかと思ったけど……やっぱり奴はあの時の……!

 ……初撃が肝心……奴の隙を作る……)」


イース「(……大丈夫……皆さんがいる……僕は……出来る事を精一杯にやるだけ……!)

 

守「(……あの風貌と雰囲気……間違いなく西城さんを連れ去った例の男だ……。……必ず…………やり遂げる!)」




 



「…………。」

 

 男はゆっくりと歩を進める。一歩一歩と……


 



 


 そして射程圏内に入った……その瞬間。ミズキが飛び出していき、輝水刀(キスイトウ)による強烈な斬撃を見舞っていく。


ミズキ「……水月斬(スイゲツザン)!!」

 

「……!!おっとぉ!危ないねぇ!」


 男は残像を残しながら、その斬撃を躱していく。その残像は黒色で禍々しい様相であり、直後に霧となって消えてゆく。


 


守「……玄武連撃拳(ゲンブレンゲキケン)!!」

イース「はぁっ!!」

 

 男が斬撃を躱した直後、闘気を込めた拳を俺は連撃で、

イースは右腕の重撃として繰り出していく。


「(やはりここにいたか……)ハハハッ!朱音(しゅおん)!また会えたねぇ!でも速度が足りないなぁ!暗殺者だった時の方が、まだ速かったんじゃないのぉ?」


守「……っ!(また俺が捨てた筈の名前を……!)」


 男は数々の黒い残像を残しながら、俺達の拳撃を全て躱していく。


 

 


ミズキ「……水月斬(スイゲツザン)!!」

 

 すかさずミズキが先程繰り出した水月斬を、再び繰り出していく。


「随分と綺麗な斬撃じゃないか!ただ見た目だけで、大した事はないねぇ!」


ミズキ「……!」


 


守「……はぁっ!!」


 ミズキの斬撃を男が躱した刹那、俺は再度拳による連撃を見舞っていく。


「その程度の攻撃では当たらないよぉっ!ほらぁっ!ちゃんと狙いを定めてぇ!!」


 


ミズキ・イース「はぁっ!」


 俺の連撃に呼応するかの様に、ミズキの斬撃とイースの重撃も合わさり、3名の一斉攻撃として化していく。


「ハハハッ!更に賑やかになってきたねぇ!

 だけど、遅いなぁ!そんなんじゃ、いつまで経っても私には傷一つ付けられないよぉ!」


 3名の一斉攻撃を以てしても、残像を残しながら躱していくターゲットの男には、触れる事さえままならない。


守「(……だけど、このまま攻撃を続けていれば……)」


 俺達は何度も攻撃を躱されたが、諦めずに攻撃を続けていく。



 

 



 


「……(いい加減飽きてきたな。ウザったらしいったらありゃしない。…………北条守も含めて、そろそろ殺すか。

 コイツをもっと覚醒させたい所もあったが……別に替えは幾らでも利くし、魂さえ手に入ればやり直しは利くからねぇ。)」

 

 

 

 ターゲットの男が反撃に転じようと、右手を前に出した……その瞬間。

 男の周りに強烈な電撃が迸ったかと思うと、その電撃は取り囲む様に男を覆っていく。


「……なんだ、もう1匹いたのか。」


ハンス「……。」


「随分とコソ泥の様なやり方だねぇ。」


ハンス「何とでも言うが良い。……雷遁・追雷牢(ツイライロウ)!!」


 ハンスは右手を開いたまま前に出す。そして強く念じながら右手を握っていくと、男を覆っていた電撃は更なる電力が加わり、圧縮した。


「……そんなやり方は……嫌いじゃないけどねぇ!!」


 直後、男は黒い霧となり、電撃の牢屋の中から姿を消す。


ハンス「……!!」


「そんなやり方は……むしろ好きなんだよねぇ!

 ……如何に労力を割き、如何に効率的に殺すか……それが一番大事だよねぇ!」


 男は姿を消したかと思えば、今度はハンスの後方に姿を現していた。


ハンス「!!(全く気配を感じなかった!まずい!)

 ……皆!ここからは一緒に戦……」


「はい、遅いねぇ。」


 ハンスが俺達に声を掛けようとした瞬間、漆黒のオーラが瞬く間にハンスを取り囲み、激しい渦を巻いた。その漆黒のオーラは、先の奪還作戦で戦った、ワイドネスのオーラ以上の速度であった。


守・ミズキ・イース「……!!!」


 


 


「はい、まずは1匹目ぇ!!

 …………はぁ。……面倒だねぇ。(これは「殺戮のオーラ」なんだけどなぁ。)」

 

ハンス「……。」

 

 ハンスは変わり身の術を発動しており、本体はオーラの圏外へと既に移動していた。そして取り囲んでいたオーラの方は、男の体へと吸収されていった。

 漆黒のオーラは速度も異常だが、オーラを発していた場所にあった地面は黒く変色しており、渦状に抉れていた。


ハンス「(ワイドネスやダラスが使っていたオーラとは違う……?……やはり危険過ぎる相手だ。)」


守「(……桁違いの威力だ……。あと……オーラを吸収した……?)」




 俺達の表情を見て、男は声高らかに言葉を発する。


「私は今、如何に魔力を消費せずに殺すかを考えている!雑魚相手に、魔力を無駄にするなんて、馬鹿らしいからねぇ!」

 


ミズキ「……っ!(私達を見下して……癪にさわる!)」

ハンス「(ミズキ、抑えろ。……相手が俺達をナメてかかっている。付け入る隙は充分にある。)」


イース「(……この人……強い!…………)」

守「(……イース。大丈夫だ。ハンスさんの言う通り、隙は充分にある。)」


「何をコソコソと話してるのかなぁ?雑魚は何をしても結局雑魚なんだからさぁ……4匹とも……まとめて殺してあげるよぉっ!」





 片鱗は見せていたが、相手はまだ殆ど力を出していない様であった。

 俺達は4名掛かりで戦いに臨んでいたが、かつて無い強敵の前に、この先苦戦を強いられるのであった……





 






           …… 第七章 第六話へ続く




 


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