第七章 第三話 元凶
クレアから発せられた話は、幼き頃のシシオウとドグマとの出会いと……シシ族とベア族の永きに渡る因縁の歴史……そして、因縁の歴史に終止符が打たれた出来事についてであった。
クレアは昔を思い出すかの様に、話を続ける。
クレア「その後、数年の間……私はシシオウとドグマを始め、シシ族とベア族との交流を行ってきました。
……ですが……シシオウとドグマは次期族長となるべく、修行の旅に行ったきり……集落に戻る事はなかったのです……」
クレアの目から涙が溢れ出てくる。
クレア「修行の旅に出るのを見送った時が……最期の別れになるなんて……思っても…………うっ……うぅっ……」
イース「…………うっ……ひぐっ……」
守「…………」
イースは居た堪れなくなり、涙を流す。俺は涙を堪えながらも、どう声を掛けたら良いか分からなかった。
……俺がシシオウとドグマの生に、終止符を打った張本人なのだから。
暫くして、涙ながらに再びクレアが口を開く。
クレア「……申し訳ありません……お二人を困らせる為に、話をした訳じゃないんです…………」
シシオウとドグマ、そしてクレアの3名が2つの種族の架け橋になっていた。3名の内、2名が行方不明であったが、その2名が既に亡くなった事と、今回争いが起こってしまった事が関係してるのでないか……そんな推測であった。
クレア「ただどの様に関係しているか……あと息子が亡くなった事を族長達はどう知ったのか……分からない事は沢山ありますが……」
守「…………」
その件については、今回の黒幕と疑われる、ロングコートの男が怪しい。俺の初任務の時に会ったその男は、俺の事を「朱音」と言っていた。
……同一人物であれば、シシオウとドグマが亡くなった事も、もしかしたら知っているのではないだろうか。
守「……やはり、今回の黒幕候補の男が怪しいと思います。……明日来るハンターの方に聞いてみましょう。」
クレア「……分かりました。」
すると、村長……クレアの父であるアレクが部屋に入って来た。
アレク村長「失礼致します。明日協力して下さるハンター様が来るまで、お二人ともお休みになられて下さい。
クレア。お前も疲れてるだろう。ゆっくり休みなさい。」
クレア「お父さん……有難う。」
守「有難う御座います。そうさせて頂きます。」
アレク村長のご好意により、俺達は瞑想訓練を行った後、今日の所はゆっくりと休む事にした。
そして、翌日の朝……ハンスとミズキが到着した。
二人はアレク村長に挨拶をした後、クレアと俺達の所へとやって来た。
ハンス「初めまして。ハンターのハンスと申します。」
ミズキ「同じくハンターのミズキと申します。クレアさん。今回は宜しく御願い致します。」
クレア「はい。……宜しく御願い致します。」
ハンスとミズキはクレアに挨拶した。
直後、イースはすぐさまミズキの所へと駆け出していった。
イース「ミズキさん!遂に一緒に仕事が出来ますね!嬉しいです!」
ミズキ「イースちゃん……!……うん!宜しくね!」
ミズキは近くへと駆けていったイースを抱きしめ、頭を撫でた。イースは久しぶりの感覚に、御満悦な様子であった。そしてクレアは、暖かい目をしながら笑顔で、その様子を見ていた。
クレア「良い雰囲気の中、大変恐縮なのですが……まずお二人に聞いて頂きたい事があるんです……」
クレアは昨日俺達に話してくれた事を、ハンスとミズキに話した。
ハンス・ミズキ「…………」
二人ともシシオウとドグマの事は知っている。特にドグマに関しては、二人とも刃を交えている。まさか、2匹の魔物にその様な過去や絆があったとは予想だにしなかっただろう。
ハンス「私はガーサル領を奪還する事で頭がいっぱいで……クレアさんと深い絆があったとは思いもせず……大変申し訳ありませんでした……」
ミズキ「私もです……。……大変……申し訳ありませんでした……」
二人はクレアに頭を下げ、謝罪した。ハンスは苦い表情で、ミズキは目に涙を浮かべていた。
クレア「とんでもありません!(……守さんやイースさんと同じ様に謝罪を……)……謝らないで下さい……。
……イースさんが仰っていた通り……お二人ともお優しい方で良かった……」
クレアも目に涙を浮かべながらも、二人に優しく話しかけた。
そして落ち着いた頃、ハンスが話を切り出す。
ハンス「黒いロングコートの男……今回の一件の黒幕である事は、間違いないと思う。……更に今回だけでなく、先のガーサル領占領の件も……奴が企てた可能性があるんだ。」
守・イース「……!!」
ハンスの話を聞き、俺達は驚愕する。
守「……ワイドネスが……最期に言っていた……」
俺はワイドネスの最期の言葉を思い出す。
「私は……元は歪で醜いコウモリの悪魔だった。……名前は言えないが……あるお方から力を頂き……今の姿に変わる事が出来たのだ。この領地を襲撃し、占領したのは……そのお方からの指示だった。」
守「(あるお方……その様にワイドネスは言っていた。その人物こそ、今回の黒幕なのか……?)」
ハンス「おそらくワイドネスに力を与え、指示を出した人物こそ……今回の黒幕と同一人物だと、俺は踏んでいる。」
今回の件が、シシオウやドグマの事だけでなく、まさかガーサル領が占領される事になってしまった元凶と繋がるとは……
クレア「ワイドネスという者に指示した……つまり、シシオウとドグマを闇に落とした張本人は……今回の黒幕の人物……?」
ハンス「……そこまでは断定出来ません。ワイドネスが直に関わっていた可能性もあるので……。……しかし、その男も関わっていた可能性は高いと思います。」
クレア「………2つの種族に亀裂をもたらすばかりか、優しかったシシオウとドグマを奪ったなんて…………
…………許せない…………!!」
クレアの目に憎悪……そして復讐心が宿る。
守「…………!!クレアさん!落ち着いて下さい!!」
俺は危機感を抱いた。……憎悪と復讐心の心は、かつて俺を縛り付けていた忌わしいものだ。俺はここにいるハンター達と師匠のお陰で、払拭する事が出来たが……
そんな俺だからこそ、クレアには同じ道を辿っては欲しくないと思った。俺はクレアをなだめようと、クレアの肩に手を置こうとした。しかし……
クレア「……!!落ち着いて下さい……!?……そもそも、貴方がシシオウとドグマを直接殺したんじゃないか……!!何様のつもりだぁ!!」
守「!!」
クレアは大声を荒げ、俺の手を振り払った。
クレア「…………!!私……なんて事を……!……申し訳ありません……!!」
クレアは我に返る様に、涙を流しながら謝罪した。
直後、クレアは外に飛び出していってしまった。
アレク村長「娘が……大変無礼を……申し訳ありません……」
守「いえ……とんでもありません……。……事実ですので……」
辺りが静寂な雰囲気となる。そんな中、ハンスが口を開く。
ハンス「……これで確証が持てた。守さん、アレク村長。……今のクレアさんの言動や様子は……今回シシ族とベア族が再び対立している原因と関係しているんです。」
一同「関係している……?」
クレアが突然怒り出した事と、シシ族とベア族が対立している原因は繋がっている……この後ハンスから、今回の件についての核心部分を聞かされる事となる……
…… 第七章 第四話へ続く




