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エピソード クレア「架け橋」


side:クレア



 私の出身地であるオーズ村の近くには、シシ族とベア族の集落があった。私が生まれた頃は、その両者は対立していた。

 


 ……2つの種族の間には、遥か昔から因縁があった。


 

 私が生まれる遥か昔……爪牙王(そうがおう)という、獣の魔王がいた。その王はあらゆる獣の魔物を束ねており、その集団は、人間族や他の魔物とは一線を画していたという。


 私が生まれる頃には、爪牙王は既にこの世には存在しておらず、獣の魔物達は、力を失っていた。


 シシ族とベア族は、その爪牙王の子孫であると言い伝えられている。爪牙王の真の後継者、そして再び魔物の頂点に立つ種族は自分達の種族だと、両者互いに譲らなかった。その為、両者との間に何世代もの長い間、深い溝が出来てしまっていたのだ。








 そんな中……私がまだ小さい時であった。


クレア「お母さん!行ってきます!」


クレアの母親「行ってらっしゃい!気をつけるのよぉ!」


 母親は薬師であり、私も幼いながら薬草の勉強をしていた。私は母親の手伝いとして、たまに村の外へ出て薬草の採集をしていた。


 勿論薬草は採集していたが、1番の目的は……


クレア「シシオウ!ドグマ!遅くなってごめんね!」


シシオウ「おぉ!クレア!待ってたぞ!」


ドグマ「おぉん!待ちくたびれたぞぉ!先にメシを食べようとしちゃったぞぉ!」

 

クレア「ごめんごめん!それじゃぁ行こう!」


 私は薬草採集で村の外へ出る時に、「シシオウ」というシシ族の魔物と、「ドグマ」というベア族の魔物と密かに会っていた。私達は山を散策したり、一緒にご飯を食べたり、お互いの事を話したり……一緒にいる時間は、私にとってかけがえのない楽しい時間であった。





 



 始めに出会ったのは、村の外で薬草採集をしていた時、私は偶然にもシシオウとドグマが遊んでいたのを見掛けた。

 二匹は幼いながらも魔物……しかし、私は自然に声を掛けていた。



クレア「こんにちは!楽しそうだね!私も混ぜて!」


シシオウ「!!……人間……」


ドグマ「おぉん!……俺達が怖くないのかぁ?」


クレア「怖い……?こうやってお話出来るし、別に姿が違うだけで、怖くなんてないよぉ!」


シシオウ「……変わった奴だな。……でも悪い気はしないな。……良いぜ。一緒に遊ぶか。」


ドグマ「遊ぼうぜぇ!お前の名前は何て言うんだぁ?」


クレア「わたしはクレア!君たちは?」


シシオウ「俺はシシオウだ。宜しく。」


ドグマ「俺はドグマだぁ!宜しくなぁ!」


クレア「うん!宜しくね!」

 


 私の父親と叔父は、魔物と心を通わせる事が出来る能力を持っていた。父親はオーズ村の村長で、叔父は離れた土地で、魔物の保護活動や研究を行なっている。

 私にもその血が通っており、二匹の魔物とも自然と心を通わせる事が出来た。











 ……だが、2種の魔物族はお互いを忌み嫌っていた。今までは戦いに発展しなかったが、小競り合いは時折あった。しかし、私がシシオウとドグマに出会ってから1年程が経った頃、小競り合いは頻繁に起こる様になっていた。


 


 ……そんな中でのある日……



シシオウ「……ドグマ。……クレア。…………今日でお前達と会うのは……最後にしようと思う。」

 

ドグマ「…………シシオウ……。……俺も……そう思ってた……。」


クレア「……!!……どうして……?……なんで……?……私達……せっかく仲良くなれたのに……」


 シシオウとドグマは、各々の族長の子供であった。

 2匹の話では、遂に2つの種族が、もう片方の種族との雌雄を決する為、戦いを画作していると……

 私達が会っていたのは知られてなかったが……2匹は各々の族長から、集落から出るのを固く禁じられたという。





クレア「…………納得……いかない……」


ドグマ「おぉん……クレア……」


シシオウ「クレア……。……しかし俺達には、どうする事も……」


 こんな形で……友達と最後の別れになるなんて……私は納得いかなかった。幸い、2つの種族は人間族に対して敵意はなかった。そんな状況の中で、私はある事を思い付いた。


クレア「シシオウ、ドグマ。……私に考えがある。……こんなどうでもいい歴史とか、わだかまりなんて……私達が終わらせましょう。」


シシオウ「……。俺も正直納得なんてしていない。……クレアの考えを……聞かせてくれ。」


ドグマ「俺もこんな別れ方……嫌だよぉ。クレアぁ。聞かせて欲しいぞぉ。」


クレア「うん!まず私達は……」

 


 私はシシオウとドグマに、思い付いた事を話した。2匹は揃って私の提案を承諾してくれた。











 








 そして……私達は作戦を決行した。


 

 


「どこにも居ないぞぉ!」

「クレアぁぁ!!何処に行ったのぉ!?」


「我が息子は何処に行ったぁ!?」

「族長!まだ見つかりません!!」


「あのタワケがぁ!!何処に行ったぁ!?」

「族長!今も捜索中です!!」





 私達は村と集落から……姿を消した。

 外に出る時は、必ずその日の夕方には帰ってきていたが、夜にも帰らなかった為、大人達が総出で捜索していた。





「クレアぁぁ!!」

「何処だぁ!返事をしろぉっ!シシオウ!」

「ドグマぁ!何処に行ったぁ!」



クレア「……(大人達が近づいてる……)……シシオウ……ドグマ。あの場所に向かおう。」

シシオウ「分かった。」

ドグマ「了解だぞぉ。」

 



 私達は非常食を持ち込んで、村と集落から出ていき、大きく離れた所で一緒にいた。しかし私達が姿を消して、丸一日が経過し、遂に大人達が近くまでやって来た。

 そこで、物陰に隠れていた私達は、とある場所へと向かって行った。





クレア「シシオウ……ドグマ……。……私の御願いを聞いてくれて……ありがとう……」

シシオウ「クレア……。……俺の方こそ感謝している。こちらこそありがとな。」

ドグマ「俺もだぞぉ!!ありがとうなぁ!!」




 

 それから暫くして……大人達がやって来た。その中にオーズ村の村長である私の父アレク、母、2種族の族長であるシシオウとドグマの父親、そして母親達がいた。



シシ族族長「シシオウ!貴様、何をしているか分かっているのかぁ!!」

シシオウ「分かっています!父上!その上で今……この場所に立っているんです!!」

 


ベア族族長「ドグマぁ!!このタワケがぁぁ!!今すぐこっちに来い!!」

ドグマ「嫌だぁ!俺はシシオウとクレアと……一緒にいるんだぁ!!」

 

 

クレアの父アレク「クレア……お前……」

クレアの母親「御願い!こっちに来てぇ!クレアぁぁっ!!」


クレア「嫌だぁぁ!!私は……シシオウとドグマと……これからも一緒にいたいの!!シシ族とベア族が喧嘩を止めなかったら……ここから飛び降ります!!」


大人達「……!!!」


シシオウ「俺達は本気だ!!」

ドグマ「シシオウとクレアが一緒なら……怖くないぞぉっ!!」



 私達は……崖の前にいた。崖から下までは約30m程の高さがあり、落ちたら命はない。







 慌てふためく大人達の中、オーズ村の村長……私の父アレクが口を開いた。



クレアの父アレク「シシ族族長、ベア族族長。大変申し訳ありません。今回の件、おそらく我が娘が計画したものでしょう。」

クレア「…………」


 父は見透かしていた。魔物の気持ちが分かる者同士として……私の行動が理解出来たのかもしれない。


アレク「……昔……私達が、大人達に秘密で会っていた様に……。……やはり血は争えない様ですな。……クレア達と同じ位の頃……私達は種族の歴史を変えられず、友としての別れを誓いましたが……」


 そう言うと、父は2匹の族長に向かって土下座をした。


一同「……!!」


アレク「……此度の事……大変申し訳ありませんでした。……しかし……子供ながらに種族の争いに関して……疑問を感じていたのでしょう。とんでもない行いですが……幼いながらの……精一杯の勇気と覚悟で望んだ行動だと思います。

 …………3名の子供の……精一杯の勇気と覚悟に免じて……どうか……争いを止めて頂けないでしょうか……?」

 

クレア「……!!……御願いします!!」

シシオウ「御願いします!!」

ドグマ「御願いだぞおぉ!!」


 私達も土下座をして、2匹の族長に頼み込んだ。





 暫く沈黙が続いたが……

 遂に族長が口を開いた。


シシ族族長「……ベア族族長。我達は長い歴史の中で、歪み合い、恨み合ってきた。しかし……こんな幼い子供達が命を掛けてまで……」


ベア族族長「……シシ族族長。皆の想い……それまでの歴史がある故……時間は掛かると思いますが……かつての我らがそうであった様に……」


アレク「……手を取れる……理解し合える……皆がそうなる様に、手を取り合いましょう!

 ……歴史を……私達で変えましょう!!」


 シシ族とベア族族長の手を、私の父が掴み、握手の形を作る様に手を合わせた。




クレア「……お父さん……!!」

シシオウ・ドグマ「……!!」


 私達も急いで父親達の所に向かい、涙を流しながら手を合わせていった。


クレア「うっ……うぅっ…………」

 

アレク「クレア。これからは私達は手を取り合っていく。これからもシシオウ君とドグマ君に会って良いからね。……宜しい……ですよね?」


 私の父親は笑顔で族長達に問い掛けた。その問いに対し、族長達も大きく頷いた。周りの大人達もそれぞれ涙しながら、他の種族と握手を交わしていた。



クレア「うっ……うぅっ……ありがとう……お父さん……」

 











 






 そんな一件があってから数日が経った……

 シシ族とベア族の戦いは回避され、小競り合いもパッタリと無くなった。人間族も交えて……少しずつではあるが、交流も進められていった。

 


 私は今日も村の外に出て、シシオウとドグマに会いに行く。今日は家にあった、写真木(しゃしんき)をこっそりと持ち込んで。


クレア「シシオウ!ドグマ!お待たせ!」


シシオウ「クレア!待ちくたびれたぞ!」

ドグマ「おぉん?何持ってるんだぁ?」


クレア「これはね……」


 私は写真木について説明した。シシオウとドグマは驚くと同時に目を輝かせていた。





 そして、私達はあの時の……3つの種族が手を取り合う事になった、例の崖の場所にやって来た。



クレア「それじゃぁ……撮るね!」




 パシャッ!!





 私達は、その崖の前で……写真を撮った。

 写真の方は、私は笑顔で、シシオウは照れくさそうに、ドグマは大きく口を開けていた。


クレア「みんな表情が違うねぇ!」

シシオウ「何か照れくさいな。」

ドグマ「おぉん!俺こんな顔だっけ……?」

シシオウ「こんなマヌケ顔だよ。」

ドグマ「シシオウ!ひどいぞぉ!!」


 


 姿、そして表情が異なる3名が、仲良くしている様は……これから3つの種族が手を取り合っていけると……そんな未来を写し出しているかの様に見えた。



クレア「フフッ!喧嘩しないの!……これは私達の一生の宝物だよ……!…………シシオウ、ドグマ……これからも宜しくね!!」

シシオウ「あぁ!宜しくな!!」

ドグマ「これからも……ずっと一緒だぞぉ!!」









 この写真の様に…………これからも…………



 





 


クレア「うん!これからも……ずっと……一緒だよ!!」

 







 












             …… 第七章 第三話へ続く


 





 

 


次回から本編に戻ります。

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