第ニ章 第三話 光の力
……暗い。確か、トカゲの様な生き物の子に、暴力を振るっていた巨漢男と対峙して、危うく殺されそうになった所を、老人の男性が助けてくれたのだったか……。
そう思い返している時に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうやら無事な様ですね。光の者が治療をして下さったみたいです。ですが、身体の軋みはまだ消えず、貴方が習得した暗殺術は闇の力……もう使う事は叶いません。代わりに光の力を習得するのです。」
それは翔に敗れ、死んでしまったと思われた時に聞いた、気品のある落ち着いた女性の声だった。
守「暗殺術が使えない……確かに呪いが掛けられた様な感覚だったが……そもそも、ここは現実世界じゃないのか?あと光の力とは何だ……?」
女性の声が聞こえる。
「ここは貴方が以前いた世界とは違う……しかし生存者が言う死者が還る様ないわゆる、あの世とも違います。
文化は以前いた世界に近いですが、魔法であったり、その他様々な力が蔓延る世界です。そして魔となる者もいます。また言葉は全ての場所で共通する世界です。異世界という言葉がしっくりくるのではないかと思います。」
「あの世」とは違う「異世界」……。続けて女性が語りかける。
光の力とは、闇の力と相反する力の事。特に、憎悪が宿った者に強力な効果を発揮する。悪戯に皆を殺生する力でなく、邪悪を打ち払い、大切な者を守る力であると……
「丁度貴方を治療した者こそが、光の力を持つ者です。その者に光の力を伝授して貰うのです。貴方は闇の力を一時手にしましたが、光の力も手に入れる事が出来るでしょう。しかし貴方は今、憎悪の念を強く持っています。心を強く持ち、憎悪の念を打ち破り、克服しないと光の力は手に入りません。更に今ある全身の軋みが消えず、誰かを守る為に戦う事もままなりません……」
そう言うと、女性の声はまた聞こえなくなった。
光の力……憎悪の念……異世界……。色々話していたが、結局俺がいた世界には戻れないという事なのか……
何で俺なんかが、そんな事をしなければいけないのか。……どうでもいい。4年間、復讐の為だけ考えてきた。だがもうそれが出来ないのだから……
そんな事を考えていたら、翔と戦った後の時の様に、一点の小さな光が現れ、光は大きくなり俺を包み込んだ……
「あぁ!目を覚ましましたよ!」
甲高い少年の様な声が聞こえる。
「良かったです!老師、来てください!彼が目を覚ましましたよ!」
続いて女性の声が聞こえてきた。
甲高い少年は、巨漢男の強烈な一撃が来る手前で、俺が背後から聞いた声だ。
女性の声は……どこか聞き覚えのある声に似ていた。
「おぉ!目を覚ましたか!一時はどうなるかと思ったが、やはり生命力も凄いな。」
目を覚まして起き上がると、あの時助けてくれた老人が来て、俺の肩を叩いた。
ゲンジ「ワシの名前はゲンジと言うんじゃ。倒れてしまったオヌシを治療したんじゃ。回復して良かった。して、名前は何と言うんじゃ?」
守「有難う御座います。(朱音という名前は捨てた……)
……俺は守と言います。」
本心では死んでも良いと思っていた筈なのに、自然と感謝の言葉が出てきてしまった。冷静で落ち着きがありながら、暖かい雰囲気を持った人であった為だろうか。
「僕はイースと言います!人間でなくプチドラゴンである僕を助けて頂き本当に……本当に有難うございます!」
甲高い少年の様な声は、例のトカゲの様な生き物の子だった。イースと言う名前みたいで、プチドラゴンという種族みたいだ。会話が出来るのもだが、敬語であった事も不思議に感じた。
……ただ何となく、昔いじめられていた時の、自分自身を見ている様な気がした。
「私はミズキと言います。この子を助けて頂いたんですね。本当に有難う御座います。」
聞き覚えがある声に似ている声の女性は、ミズキと言う名前みたいだ。
……そうか。聞き覚えがある声というのは、俺が暗殺者組織に所属していた時の同僚、水音の声だ。
ミズキと名乗る者は、水音と瓜二つであった。色白の肌や淡麗な容姿はそっくりで、水音が亜麻色に対し、ミズキは黒髪であった。
……水音の事を思い出してしまった。悪い事はしてないと思っているが、無事に帰るという約束を破ってしまったのだ。……胸が締め付けられる。
ミズキ「(顔が険しい……何か思い詰めている……?)
ご飯にしましょう!沢山食べて頂いて元気になって、それからお話しましょう!」
水音より明るい印象であったが、今のはおそらく俺に気を使ったんだろう。周りに気を使う所も良く似ている……
昔の自分自身と、同僚を思い出しながら、俺はゆっくりと起き上がり、歩を進めた……
……第二章 第四話へ続く