第六章 第十六話 再試験
守「………………」
ミズキの話を聞いた俺は……絶句した。
ミズキ「…………。以上が私が思い出した事になります……。………………」
ミズキは涙を浮かべながら、俺に向かって話を続ける。
ミズキ「イースちゃんの夢は分かっているつもりです。……ただ、ハンターになるという事は凶悪な人間達を相手にする事……。イースちゃんの様なプチドラゴン族は、凶悪な人間の格好の餌食にされます。……生き地獄を曝されるかもしれない……そして酷い殺され方をされるかもしれないんです……」
守「……ミズキさん……」
ミズキ「もう……あんな悲劇は起きちゃいけない……いや……起こしちゃいけない……。私はその悲劇を止められるのであれば、喜んで鬼になりましょう。」
ミズキは涙を流しながらも、その表情は並々ならぬ決意と覚悟を宿していた。
ミズキが話した過去は凄惨なものだった。……きっと、ヒースとイースを重ねていたんだろう。
……だが……俺はイースの決意と覚悟も知っている。
守「ミズキさん。お話して頂き、有難う御座います。貴方の決意と覚悟……聞かせて頂きました。
……ですが、イースの決意と覚悟も本物です。
俺はそんなイースの心は……他の誰かに止められるべきなんかじゃない……そう思っています。
……明日は、どちらの気持ちが強いか……そんな勝負になる事でしょう。」
ミズキ「………………。失礼します…………」
ミズキは儚くも決意に満ちた目で、俺を見た後……後ろを向き、静かに立ち去って行った…………
そして、朝が明けた。いよいよイースの再戦闘試験の日だ。
守「イース!修行の成果を……ミズキさんに見せよう!」
イース「はい!!今までの弱かった僕を……払拭します!ミズキさんの決意と覚悟……僕はそれを超えてみせます!!」
守「(やはりイースも感じていたか……)……あぁ!全力でぶつかってこいよ!!」
イース「はい!行ってきます!!」
イースは力強く言い、宿屋を後にした。
守「………………。」
side:イース
僕は力強く守さんに言葉を発し、宿屋を後にした。
空は……どんよりと雲模様であった。……あの時の……試験に落ちた日を思い出す。
……しかし、どんな天気だろうと……今は結果を出すだけだ。
イース「(絶対に、ミズキさんに認めて貰うんだ……そして必ず合格してみせる!!)」
僕はそんな想いを抱えながら、ハンターズギルドの中に入っていった。
マリーさんから簡単な説明を受けた後、ギルドを後にし、試験場であるサウスマウンテンの麓に到着した。
そこには……ドラゴさんとミズキさんが立っていた。
ドラゴ「懲りずにまた試験を受けに来たか!腰抜け!(……前回とは、雰囲気が違うな……だが、すぐにメッキは剥がれるだろう。)」
イース「僕は今日、ハンターになりに来ました!宜しくお願いします!」
圧を掛けてきたドラゴさんに対し、僕は力強く言葉を返した。
ミズキ「…………(前回とは……全く違う!……だけど、私は……どんなに嫌われようと……イースちゃんを止める!!)」
ミズキさんは無表情でありながらも……静かに僕の方に圧力をかけていた。
ドラゴ「今回は戦闘試験から入る!試験内容は前回と同じだ!!……とっとと始めるぞ!!」
イース「はい!宜しくお願いします!」
ミズキ「……はい。」
ドラゴ「……戦闘開始ぃっ!!」
ドラゴさんが戦闘開始の合図を行った。
イース「(前回、僕は全く戦えてなかった……今度は僕の方から行く!!)……ハァァァッッ!!」
僕は開始早々、白銀の息を吐く。
ミズキ「…………」
イース「……!!」
しかしミズキさんはサイドステップで息を躱し、即座に僕の懐へ飛び込んできた。
ミズキ「…………」
そこからミズキさんは持っていた無刃刀で、強烈な連撃を繰り出す。
イース「ハァァァッッ!!」
僕は既に剛体術を発動しており、ミズキさんの連撃を耐えていく。
イース「(防御一辺倒じゃダメだ!!……守さんが言ってた様に、多少強引になっても……この状況を打破する!!)」
僕は連撃を受けながらも、右腕による重撃を繰り出す。
ミズキ「……!!」
ミズキさんはバックステップで躱す。直後僕は、白銀の息をミズキさんへ向けて吐いていった。
ミズキ「(息を躱し、また連撃を繰り出す!)」
ミズキさんはまたサイドステップで、息を躱す。
イース「ハァァァッッ!!」
今度は、僕は白銀の息を地面に向けて吐き出す。
今度は横に大きく広がっていく分、ミズキさんはバックステップで躱していった。
イース「スウゥゥゥゥ!」
僕は大きく息を吸う。
ミズキ「(隙が多い!)……水月刃!!」
ミズキさんは水色の三日月型の刃を、僕に向けて飛ばしてきた。数々の刃達は僕に襲い掛かり、その刃を僕は次々に喰らってしまう。
イース「スウゥゥゥゥ!」
しかし僕はそれに耐えながら、更に大きく息を吸い込む。そして、特大の白銀の息をミズキさんへ向けて吐いていった。
ミズキ「……!!(範囲が広すぎる!避けきれない!……ならば……!)……水崩刃!!」
ミズキさんは大きな水の様な気を刀に纏わせ、壁を作る様に、一気に前方へ振り翳していく。白銀の息と水色の気が激しく衝突し、お互いに相殺された。
水煙を帯びていく中、僕は既に突進していた。水煙で目眩しになったのか、ミズキさんの反応が遅れる。
ミズキ「(避けれない……!)……ぐっ!!」
僕は両腕を固め、ミズキさんに突進した。
ミズキさんは刀で防いでいたが、後方へ大きく吹っ飛んだ。一部であるが衝撃を逃し切れず、ダメージを負っていた様に見受けられた。
ドラゴ「(Bランクのミズキと張り合っている……ここまでは及第点だな……だが……)……ミズキぃ!!もっと圧をかけろおぉっ!!」
イース「……(負けません……!)」
ミズキ「……了解しました。」
直後ミズキさんは目を大きく開き、更に強烈な圧力と殺気を、僕の方へ向けてきた。
同時に雲模様だった空に、黒い雲が更に覆い被さってきた。天候と同時に、この試験にも暗雲が立ち込める。
ミズキ「…………いくぞ……!」
イース「…………!!」
僕はこの試験……この戦いに強い覚悟で望んでいた。……だが、ミズキさんの強烈な圧力と冷徹な殺気に、僕の心は崩れそうになる。
距離は大きく空いていた筈だが、ミズキさんは鋭い踏み込みで、僕との距離をすぐに詰めてきた。そこから僕は怒涛の連撃を受けてしまう。
ミズキ「…………もう……諦めろ……」
イース「ぐぅ……!」
ミズキさんの圧力と殺気は……以前戦った時に、僕を戦意喪失させたものと同じ位に凄まじかった。
ミズキ「……貴様を……止める……」
イース「…………!!」
目の前にいるのは……ただ僕を倒そうとしている女の人……その瞬間だけ見たら、その様にしか見えなかった。
だけど……
イース「(ミズキさんは……無理をしている……今の僕には分かる……今、この瞬間でも優しいミズキさんのままだって事を!)」
ミズキさんは「貴様」なんて言葉……本来なら僕に使う筈なんてない。無理をしているのは明白だった。
イース「(……今こそ……僕の覚悟と決意を、見せる時だ!)……うおおぉぉっっ!!」
ミズキ「……!!」
この時、僕の右腕が光り輝いた。誰かが、僕の事を後押しをしてくれている……そんな感覚があった。
……おそらくミズキさんは、僕が反撃する事を想定していなかったのだろう。連撃を受けながらも、誰かの後押しを受けているかの様に、僕は光り輝く右腕の重撃を繰り出す。
ミズキさんは刀で受けるも、後方に大きく飛ばされた。
イース「うおおぉぉっっ!!」
ミズキ「……!!……水月刃!!」
僕はミズキさんに突撃する。ミズキさんは水色の刃を放ち、僕はその刃を喰らってしまうが、止まる事はなく再度、光り輝く右腕の重撃を繰り出した。
刀で受け止めたミズキさんは、再び大きく後退した。
ミズキ「…………くっ!」
ミズキさんはすぐさま立ち上がるが……
ドラゴ「…………。(…………潮時……だな。)
……ミズキ!!もういい!!充分だ!!」
ミズキ「…………!!……ドラゴさん!!……しかし……」
ドラゴ「もう、この戦闘を続ける意味はない!……それはお前も分かっているだろう!」
ミズキ「…………そんな…………でも……」
イース「…………!」
ミズキさんは突如涙を流す。そんなミズキさんに向けて、ドラゴさんは大声で叫んだ。
ドラゴ「イースは……お前の圧力と殺気に……勝ったんだ!!
……戦闘試験は終了し、最後の確認をするんだ!」
ミズキ「…………うっ……ううっ…………。」
ミズキさんは涙ながら、僕に向かって問い掛ける。
ミズキ「……貴方は何故……ハンターを志しているのですか……?……命の危険が伴う……過酷なものとなります……。その志しの理由を……聞かせて下さい……」
その問いに対し、僕は答えた。
イース「僕は弱いです。どうしようもない位に……
だけど一緒に戦ってきた人達に出会えて……僕は少しずつ強くなれました。まだまだ弱い僕ですが……その人達の様に色々な方達を助けられる……強くて優しい存在になりたいんです!!
それに……僕の大好きな師匠との……約束も果たしたい!!そして、こんな僕の事を信じてくれる人の為にも……ハンターになりたいんです!!」
ミズキ「…………!!……うっ……ううぅっ……!!」
僕の答えを聞くと、ミズキさんは更に大粒の涙を流し、顔を両手で覆った。
ドラゴ「お前の覚悟と決意……聞かせて貰った。
イース。前回のお前の課題は、すぐに気負いしてしまう弱い心だった……。だが、お前はその課題を克服した様だな。
…………よって、イース!!貴殿はハンター試験……………………合格とする!!」
イース「………………合格………………?」
その瞬間、黒い雲に覆われていた空が、一気に晴れ模様となった。
イース「…………合格………。………………!!……合格ですか!?…………やった…………やったぁぁっ!!!」
僕は両腕を上げて、喜びを爆発させた。
守「……イースううぅぅっっ!!!」
イース「……!!守さん!!」
直後、守さんが僕の元へ向かって走り出し、僕を抱き締めた。
イース「守さん!!来て頂いてたんですね!……気が付かなかったです……!」
守「それはな……」
ハンス「俺が隠れ身の術を使って、一緒に隠れて貰っていたんだ。守さんと、この方にもお願いをされていてね。」
シャイン「私も同席をお願いしたんだ!」
ハンスさんとシャインさんも、僕の前に来てくれた。
イース「ハンスさん!!シャインさん!!……そうだったんですか……!
守さん、ハンスさん、有難う御座います!!……僕……やっとハンターになれました…………!!」
守「良くやったぞぉ!!イースぅぅっ!!これからはハンター同士として、宜しくなぁぁ!!」
ハンス「おめでとう!イース君!ハンター同士として、これからも宜しくな!!」
シャイン「おめでとう!イース君!君は挫折を乗り越え、更に強くなった!一緒にこの世界を、守っていこう!!宜しく頼む!!」
イース「有難う御座います!これからはハンター同士として……改めて宜しくお願い致します!!」
僕は再試験の結果……見事合格を果たした。
ミズキさんの決意と覚悟は相当なものだったが……僕はそれを上回る程の気迫で、乗り越えた。
挫折を乗り越え、ようやく憧れていた人達に近づく事が出来る……その喜びを噛み締めていた。
一時期は曇天だった空も、あの時僕に冷たく降り注いだ雨はなく、今度は僕を祝福してくれるかの様に、眩い光を放っていた。
そして僕と守さん、ハンスさんやシャインさんが喜びに浸っている中……ミズキさんは独り、泣き崩れていたのであった…………
…… 第六章 第十七話へ続く




