エピソード ミズキ②「後悔」
今回の話は、特に残虐性が高い話となっています。
苦手な方は閲覧を控えて下さい。
side:ミズキ
ヒースちゃんと再会して、半年が経った。
私達は一緒に、いつもの様にハンターズギルドへ入った。そこには先輩のハンター……ドラゴさんが立っていた。
ドラゴ「お前ら、いつも一緒だな!仲が良いってのは、羨ましいもんだ!」
ドラゴさんは新人ハンターの事も気に掛けてくれる、面倒見が良く優しい先輩だった。
ドラゴ「ヒース!修行もちゃんとやってるか?」
ヒース「ドラゴパイセン!やってますよぉ!俺はミズキさんに早く追いつきたいんで!」
ドラゴ「そのパイセンっての辞めろ!……まぁ目標があるってのは、良い事だな!」
ドラゴさんは笑いながら、ヒースちゃんにツッコミを入れた。直後、神妙な顔付きで、私達に向かって話す。
ドラゴ「実は、緊急依頼が入ってな。……依頼人はこのお方だ。」
「久し振りだな。ミズキさん。ヒース君。」
ミズキ「!!……お久し振りです!」
ヒース「恩人さん!!あの時は、世話になりましたッス!」
緊急依頼の依頼人は……3年前ヒースちゃんを一緒に送り届けた、魔物に精通している人物だった。
「……人に危害を加えない罪の無い魔物を……己の利益だけを目的に、素材を手にする為に……殺してしまう極悪非道な集団がいてね。……数えきれない程の魔物達が犠牲になった……。……その集団に所属している奴らを、全員捕まえて欲しいんだ。」
ミズキ「!!そいつら……許せない!!」
ヒース「罪の無い魔物にそんな事を……許せないッス!!」
そしてその方は話を続ける。
「ヒース君には辛い話になるが……そいつらは、3年前に君を襲い、両親を殺した盗賊団の……残党なんだ。」
ミズキ・ヒース「……!!」
3年前に私は、あの場にいた盗賊達を気絶させ、連行する様に、近くにいたハンターに頼んでおいた。
「連行された団員の他に……その場にいなかった団員と首領がいたんだ……」
今回の依頼は、その盗賊団の残党を捕まえる事だ。
人間達も奴らの犠牲になった話もあるが、確証はない。正規の騎士団は、人間に危害がある確証があれば動くが、魔物に危害が及んでも動かない。そこで、今回はギルドの方へ白羽の矢が立った訳だ。
無論私達は依頼を承諾した。
盗賊団のアジトは既に割れていた。
ドラゴさんと私、そしてヒースちゃんは3名でアジト内に潜入しようと試みる。
しかしその直前で、黒い渦が巻き起こり、その中から1人の男が現れた。その男は漆黒のフード付きロングコートを羽織っており、異質な雰囲気を纏っていた。
「ハンターか……困るんだよなぁ。ここは上納してる品や金が良くて、今失うのは痛手なんだよねぇ。
……オーイ!!入口に不届者が居るぞおぉっ!!」
男はアジト内に向かって大声で叫んだ。直後、団員達が次々に現れる。その時、ドラゴさんの表情が険しくなる。
ドラゴ「(この男……ヤバい!!)
……ミズキ!ヒース!ロングコートの男は俺が引き受ける!お前らは団員を相手にしながら、内部に潜入して、首領を捕えるんだ!」
ミズキ「……!……了解しました!」
ヒース「分かったッスぅぅっ!」
「おっと。させないよ。」
男は左手から漆黒のオーラを、私とヒースちゃんに向かって放つ。
ドラゴ「させるかぁっ!!」
ドラゴさんは漆黒のオーラを、手にしていた大斧で防ごうとする。しかしオーラは大斧ごと、ドラゴさんに纏わりついた。
ドラゴ「……!!(……なんだ……これは……?力が抜けていく……)」
「その攻撃は避けないとぉ。……ほらぁっ!!」
今度は男の右手から直線状の闇魔法が、放たれる。
ドラゴ「……おらぁぁっ!!」
ドラゴさんは闘気を開放し、何とか立ち上がり、闇魔法を大斧で防いだ。
「おぉ、凄い凄い!頑張るねぇ!……さぁて、どこまで持つかなぁ?」
ドラゴ「(この機を逃す訳にはいかない……!)
ミズキ!ヒース!今の内に行けぇぇっ!!」
ミズキ「はい!!」
ヒース「パイセン!ご無事を祈ってるッス!」
ドラゴ「パイセンゆうな!早く行けぇっっ!!」
団員「ギャァァッ!!」
私とヒースちゃんは団員を蹴散らしながら、アジト内に潜入した。
「侵入者だ!!女と竜だ!女は……良い女だなぁ!女は生捕りで、俺達の奴隷にするぞおぉっ!!ギャハハハハハー!!」
「竜もなるべく生捕りだ!……だが、抵抗するなら殺せえぇぇっ!!」
ヒース「ゲス野郎おおぉっっ!!」
ミズキ「はぁぁっっ!!」
団員「ぎょえぇぇっ!!」
私は輝水刀の峰打ちで、ヒースちゃんは光輝く息で、団員達を次々と戦闘不能にしていった。
そして私達は奥の部屋へと辿り着く。
そこには盗賊団の首領と、取り囲む様に数名の団員が立ち塞がっていた。
ミズキ「貴方達を捕らえます!観念しなさい!」
ヒース「……アンタらの罪を……清算しにきたぞ!!……同族の恨み……思いしれぇぇっ!!」
ヒースちゃんは怒りを露わにする。
首領「てめぇら……人の敷地跨いで、何をほざいてやがる。……この落とし前は……つけて貰うぞ。
……そこに居るのは白い竜か。……他の魔物より高く売れそうだなぁ。ハハハハハハハハハハハ!!!」
ミズキ「……!!下衆が………」
ヒース「ゲス野郎おおぉぉっっ!!!」
ヒースちゃんは、今まで見た事がない程に怒り狂い、首領の元へ踏み込んだ。
ミズキ「ヒースちゃん!ダメええぇっ!!」
その踏み込みは直線的過ぎで、格好の的にされる。
私も急いで後を追うが、案の定団員達の集中砲火を浴びる。
団員「隙だらけだぜぇぇっ!!」
ヒース「ぐぅっ!!」
団員達が手にしたナイフは、ヒースちゃんの身体に次々と刺し込まれていく。
ミズキ「ヒースちゃんから離れろおぉぉっっ!!!」
私は輝水刀の峰打ちで、首領以外の団員達を戦闘不能にしていく。
ミズキ「ヒースちゃん!!……ヒースちゃん!!」
ヒース「ぐっ……くそぉっ……クソオォッ……」
団員達が持っていたナイフは特殊仕様の物で、ヒースちゃんの分厚く硬い皮膚を、貫いていた。ヒースちゃんから大量の血が流れる。
ミズキ「ヒースちゃん!!」
その時、魔法の鎖が私を縛り付けた。
首領「暫くじっとしていろ女。テメェは奴隷として高く売れそうだ。生かしといてやろう。……竜は傷が付き過ぎたな……まったく、団員は馬鹿な奴ばかりだ……。
仕方ない。せめてこの場で、生きたまま素材を剥ぎ取るか。」
ミズキ「…………!!!」
首領は大剣を手にしながら、ヒースちゃんの元へ歩を進めていく。
ヒース「……俺の事は好きにしろ。……だがミズキさんは見逃してやって欲しい。」
ミズキ「ヒースちゃん!!そんなの……ダメ……ダメェェェェ!!!」
首領「そうか!これで……俺の株も更に上がるなぁ!
……思い出した。3年前馬鹿な団員達が、白竜を絶滅させたんだったな……テメェはその生き残りか!……この白竜の素材は高い値が付くぞ!!……ハハハハハハハハハ!!!」
首領は笑いながらその様に言った直後……
首領「オラァッッ!!」
ヒース「ぐうおぉぉっっ!!!」
ミズキ「いやあああぁぁぁっっ!!!!」
首領は……ヒースちゃんの右腕を大剣で切断した……
首領「生きたまま剥ぎ取る事に意味がある!!素材の質が上がり、より高値がつくからなぁ!!……どうだぁ!?白竜よ!生きたまま肉体を取られる感覚は!!素晴らしいだろぉっ!!」
ヒース「はぁ……はぁ……。……俺は……屈しない!!どんな事をされようと!!同族の仇を取る為に……罪の無い魔物を守る為に……そして、愛する人を守る為に!!
……極悪非道のお前なんかに……俺は……屈しない!!!」
ミズキ「ヒース……ちゃん…………」
ヒース「ずっと……憧れていた……人なんだ……!俺はもう……死ぬ覚悟は……出来て……」
ヒースちゃんは……血を流し過ぎていた。とうに限界を超えていた。
首領「素晴らしい心意気だぁっ!!テメェの様な部下が欲しかったが……あいにくテメェは魔物だ。世の中の魔物共はみぃんな、俺の金と地位の為に存在するんだよおぉっっ!!ハハハハハハハハハハ!!!
……この腕は高く売れるだろうなぁっ!!それじゃ、反対側もだぁっ!!!」
ミズキ「やめて……やめてええぇぇぇっっ!!!!」
私の制止は虚しく、首領は大剣を振り翳した。
首領「オラァァッッ!!」
ヒース「ぐわあぁぁぁっっ!!!」
ミズキ「いやあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
首領は……ヒースちゃんの左腕も大剣で切断した……
ミズキ「あっ……あぁ…………あ…………………………」
ヒースちゃんの叫び声と共に、私は涙で前が殆ど見えなくなった。直後、目の前が真っ暗となった…………
気付いた時には……ドラゴさんと、応援に駆け付けてくれたシャインさん……そして……目を一向に開かず倒れているヒースちゃんがいた……
ヒースちゃんは両腕を切断され…………更には左眼を抉り取られ……胸も抉られていた…………
ドラゴ「ミズキ…………すまない………………」
シャイン「…………。」
ミズキ「ヒースちゃん…………ヒース……ちゃん…………」
私はヒースちゃんに近づき、頬を触るが……ヒースちゃんは冷たくなっており、既に生き絶えていた……
ミズキ「あっ……あ……あぁぁっっ!!!……ヒースちゃん…………ごめんね…………ごめんね…………ごめんなさい……………………」
ドラゴさんの話では、シャインさんと駆け付けた時には、ヒースちゃんが左眼を抉り取られた最中だった。
首領に向かっていったが、首領はヒースちゃんの胸を大剣で抉り……心臓を奪い取って、転送魔法で逃げたとの事だった…………
哀しみの中、私とドラゴさん、今回の依頼人の3人で、ヒースちゃんをプチアイスドラゴンの集落まで運んだ。
ミズキ「本当に……本当に……申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!!」
長「ヒース……。……人間は…………ムゴイ…………。」
ドラゴ「………………」
長「じゃが…………其方達は別じゃ。ヒースをここまで運んで下さったのじゃな…………礼を言う。……ヒースが望んで人間の世界に飛び込んだのじゃ。ワシらは何も言えん。」
ミズキ「そんな…………滅相もありません…………」
その時ヒースちゃんより少し年下であろう竜が、走ってきた。
「ヒース兄さん!!……あっ…………そんな…………ヒース兄さん!!!…………うぅ……うわあぁぁぁぁぁ!!!」
ミズキ「…………!!……ごめんね…………ごめんなさい………………」
その泣いていた竜は…………今なら分かる……イースちゃんだった……
私は涙を流しながら、泣いているイースちゃんを抱き締めた…………
私とヒースちゃんはかけがえの無い時間を一緒に過ごした。一時は幸せであった筈だった。
だけど……ヒースちゃんはドラゴンだった故に……あんなに酷い事をされた上で、命を落とした。
ヒースちゃんをハンターにはさせず、大人しく集落へ帰してあげれば、あんなに酷い事をされずに済んだのかもしれない……
幸せだった頃を思い出しながらも、ヒースちゃんが受けた苦痛を思うと……後悔や遺恨の念が込み上げてくる……
……私はヒースちゃんの事を想いながら、泣き崩れるのであった…………
…… 第六章 第十六話へ続く
ここまで読んで頂き、有難う御座います。
次回から本編に戻ります。




