第六章 第十四話 挫折
side:イース
僕はハンター試験の戦闘試験で……ミズキさんと相対する事になり……負けて不合格になった。
……僕はもう少しやれたんじゃないか……
……だけど……怖かった…………
……何回挑んでも……僕はまた負ける……
何より、あの時の様なミズキさんと、まともに戦うなんて……出来ない。
イース「…………」
欠かさなかった精神修行も……行う気になれなかった……何の為に修行をしていたんだっけ……
そんな無気力な状態で、試験から2日経った夜……
守さんが初依頼を受けると、僕に言ってきた。
守さんは……どんどん遠くに行ってしまう……
イース「(守さんは……前向きで強い人だ。この世界の方達を救う為に……どんどん進んでいく……。
……後ろ向きで弱い僕なんかとは……全然違う…………)」
そして、守さんが初依頼の為、宿屋を出発する時……
守「じゃあ、行ってくるよ。」
イース「はい……お気を付けて…………無事に……帰ってきて下さい……」
僕は……守さんが僕を置いて、このまま遠くに行ってしまう様で……気付いたら涙を流して、守さんに抱き付いていた。
守「うん。……イース……初任務は俺だけで受ける事になったが…………これは、お前がハンターになったら……お前と一緒に見ようと決めているんだ。」
イース「……!これは…………」
それは……師匠直筆の書物だった。
守さんは、僕と一緒に師匠直筆の書物を見たいと言ってくれた。
守さんは……僕がハンターになれるのを……信じてくれている。初依頼を受けるのは……戦っている自らの背中を……僕に見せる為なんだと……。
そして守さんは宿屋を後にした。
イース「(守さんは僕の事も考えてくれていた……一方僕の方は、自分が置いていかれるのが嫌で……自分の事ばかり…………)
…………うぅっ……うぅっ…………。」
情けなかった。自分が本当に情けなかった。
この時、僕は記憶を一部であるが……取り戻していた。
イース「ヒース兄さん……」
それは僕が、プチアイスドラゴンが住む集落にまだいた頃……僕が住んでいた家の隣に、ヒースさんという、僕より年上の白い竜の男性がいた。
ヒースさんは僕と直接血は繋がっていなかったが、本当のお兄さんの様に、世話を焼いてくれた。
そんな僕も「ヒース兄さん」と、親しみを込めて呼んでいた。だが、そんなある日……
ヒース「イース!俺は人間の街でハンターになろうと思うんだ!」
イース「……!!」
ヒース兄さんは3年前、人間の女性ハンターに命を助けられた事があった。
ヒース「イースのご両親にも大変お世話になったが……憧れの人に近づきたい……この集落で出来る事はやった。……もっと強くなりたいんだ。」
ヒース兄さんには身寄りがいなかった。プチホワイトドラゴンという種族であったが、3年前、とある道中で……人間達に襲われたと……。
家族もろとも殺され、ヒース兄さんも瀕死の重症になった所……1人の女性ハンターに救われ、治療を終えた後、この集落まで連れて来てくれたと言う……。
ヒース「イース!ハンターになっても……またこの集落に帰ってくるからさ!その時にはもっと立派なドラゴンになっておけよ!」
イース「ヒース兄さん……ひぐっ……うん……」
話し方は少し違っていたけど、今思うと……ヒース兄さんは、守さんに似ていた。強い所も、優しい所も……
そして、ヒース兄さんは集落の人達に盛大に見送られ、旅立っていった……。
ヒース兄さんが帰ってきたのは…………
…………そこから記憶が途切れていた。
イース「……そこからが思い出せない……」
だけど、僕は胸騒ぎがした。
守さんが無事に帰ってくるのか…………
嫌な予感がした。ドラゴンの本能が故の直感なのだろうか。
イース「守さん……。…………!!」
僕は居ても立っても居られず、宿屋を飛び出し、ハンターズギルドへと向かった。
ギルドへ入ると、マリーさんが顔を出してくれた。
マリー「イースさん!……!目が真っ赤!大丈夫ですか!?」
イース「大丈夫です!有難う御座います!……守さんは帰って来てないのでしょうか?」
マリー「……まだ時間が掛かる様ですね……」
丁度その時、シャインさんが助け出した人達を連れ出して来ていた。
シャイン「捕えられていた行商人の方達だ!マリー嬢、頼む!私はすぐに守の所に行く!」
マリー「分かりました!」
イース「!!……あ、……あ……」
シャインさんの物凄く急いでいる雰囲気を感じ、僕は声を掛けられなかった。だが、シャインさんが僕の事に気付いてくれた。
シャイン「イース君か!……守は今戦っている最中だ!時間がなく詳しくは説明出来ないが、必ず守も無事に連れ出すからな!」
イース「はい!……宜しくお願いします……!!」
そしてシャインさんは転送魔法で、現場へと戻った。
ハンス「ただいま戻りました!イース君も来ていたか!」
ミズキ「…………!!イース……ちゃん……!!」
シャインさんがギルドを去って暫くした後、別の依頼を受けていたハンスさんとミズキさんが、ギルドへ帰ってきた。……ミズキさんは僕を見て、驚き困惑していた。
ハンス「マリーさん。守さんの状況は?」
マリー「はい!守さんはサイジョウという者と亜空間に転送され、交戦中です!シャインさんが退路を確保しています!」
そんな時シャインさんから無線貝に連絡が来た。
盗賊団アジトの崩落があったが、シャインさんが魔法で退路を確保したと……だが、守さんはまだ戻って来ないと言う。
そこからは再び連絡があるのを待った……
時間で言うとほんの少しの時間であったが……待っている時間は、僕にとって何時間にも感じた。
イース「(守さん……どうか…………どうか……無事に帰って来て下さい……!!……どうか……神様…………師匠……!!)」
胸騒ぎは止まらなかった。守さんが帰って来なかったら……もう僕は何をして生きていけば良いのか、分からなかった。
イース「(お願いします…………お願いします…………!!)」
その時、シャインさんからの連絡が来た。
……守さんは……無事だと……
これから2人でギルドに帰還すると、連絡があった。
ハンス「良かった。これで一安心だね。イース君も心配してたんだな。」
イース「はい……!……良かった……良かったです……」
ハンスさんは僕の肩に手を置き、心配を労ってくれた。
ミズキ「…………(私は……イースちゃんに…………話しかける資格なんて……ない……)」
ミズキさんは僕に話しかけようとしたが、遠慮している様だった。
イース「ミズキさん……守さんを心配して頂いてたんですね。……有難う御座います……。」
ミズキ「…………!!…………ごめんなさい……」
ミズキさんは後ろを向いてしまった。
…………試験の時は怖かったけど……やっぱりミズキさんは今でも優しいミズキさんだった。
そしてシャインさんと…………守さんが帰ってきた。
守さんの方は数々の打撲や、おそらく骨折もしていて、大怪我を負っていた。
事前に連絡は受けていたが……守さんが無事なのを直接確認したら……気付いた時には、涙を流して抱き付いていた。
守「イース。心配を掛けてすまない。」
イース「守さん!良いんです!……無事で……本当に……良かったです…………!!うぅ……うぅっ………………」
胸騒ぎは奇遇だったのか……だが、あの時何故胸騒ぎがしたのか……僕が思い出せないでいる、ハンターになった後のヒース兄さんと関係してるのか……答えは出なかった。
またそれと同時に、ミズキさんに再び会えた事……そして、守さんが今日命懸けで戦っていた事を思い、僕が一度失っていた決意は甦っていくのであった…………
…… 第六章 第十五話へ続く




