第六章 第十三話 帰還
俺は亜空間に転送され、盗賊団副首領の西城蓮生と戦い、辛くも勝利した。
もうすぐで元の所に戻れるという時に、西城の口から発されたのは、ここまで来た経緯についてだった。
西城「俺は初めての世界戦で顎を砕かれ、敗れ、ボクサー生命を断たれた。そして心無い誹謗中傷を受け……それが元で母親を亡くした。
……絶望の淵にいた時……ある男に今の力を与えられ、世界戦で敗れたボクサーに再戦して勝利した。……俺と同じ……顎を砕く復讐をした上で……。……だが世間は……俺を認めなかった。」
守「…………。」
西城「俺は、母親が死に至った元凶である、誹謗中傷を言った人達に復讐したいと思っていたんだ。
……だが……北条さん。貴方の存在が、気掛かりだったんだ。…………今なら分かる。貴方の存在が、復讐するのを止めてくれていたんだ……」
守「西城さん…………」
西城「北条さん……有難う。……ここまで来るのに、俺は罪を重ねてきました。……償い切れないかもしれませんが……この罪を……一生を掛けて、償います。」
守「西城さん……貴方の想い、聞かせて頂きました。貴方を連れて行きます。…………どうか……強く生きて下さい。
……貴方なら……またいずれ、やり直せる筈です。」
西城「北条さん……有難う……」
直後、辺りが光輝き消えていった…………
そして俺達は元の所に転送された。そこにはシャインが待っていた。辺りは崩落に見舞われていたが、転送場所は崩落石が消えており、安全が確保されていた。
シャイン「守!無事だったか!……勝てたみたいだな。(守も凄い怪我を……サイジョウは、それ程の強者だったか……)」
守「はい!辛くもですが……シャインさん。西城さんも連れて行きましょう。」
西城「これまでの罪を償わせて頂きます。……宜しくお願い致します……」
シャイン「(今の戦いを経て……雰囲気が変わった……)
うむ。承知した。一緒に戻ろう。」
「おっと。そいつは困るなぁ。」
守・シャイン「!!」
西城「…………」
西城を確保する直前で……漆黒のフード付きのロングコートを纏った男が、立ち塞がった。
「お二人とも初めまして。」
シャイン「貴様は何者だ?盗賊団の仲間か?」
「仲間?冗談だろ?奴らは俺の奴隷だ。仲間に値しない。」
シャイン「寧ろ、盗賊団は貴様の傘下という訳か。……貴様を拘束する。」
「Sランクのシャインか……もう1人いるのが、北条守……もとい、朱音だな……」
守「……!!(何故、その名を……!?)」
男は、前世界での……俺の暗殺者時代のコードネームを知っていた。
「面白くなってきたじゃないか!……貴様ら2人とは……また直に会えるだろう。因みに転生の輝石は、俺が回収しておいた。西城も俺が回収させて貰おう。」
シャイン「待て!!」
西城「…………北条さん……すまない……。(俺はもう……悪魔からは逃げられないんだな……)」
守「……西城さん……!」
そして男は西城と共に、黒い渦を巻きながら消えていった。男と西城の気配は、完全にこの場から消えていた。
シャイン「取り逃したか……。……ただ行商人の方達を救い出す事が出来た。胸を張って、ギルドに帰還しよう。
その前に、ギルドに連絡をする。」
守「(西城さん……)……了解しました……」
西城は改心し、罪を償おうとしていた。だが、その機会を与えられず、また闇の道へと進んでしまうのか……
西城を救い出せなかった……やるせ無さが込み上げてくる。悔しさ、哀しみの気持ちを抱きながら、俺はギルドへ帰還するのであった……
サウスマンドのハンターズギルドに到着すると、ハンス、受付嬢マリーと…………
イース、ミズキの姿がそこにあった。
イース「……!!……守さん!…………凄い怪我です……でも……良かったぁ…………良かったです……!!……無事で……本当に良かったです!!」
イースは涙ながらに、抱き付いてきた。
守「……心配を掛けてしまったな。ごめんな。」
イース「いえ……!こうやって無事に帰ってきてくれて……僕は……嬉しいです!!」
今度は、ハンスとマリーが俺の近くに歩み寄ってきた。
ハンス「シャインさんから状況を聞いてね。初任務から高難度の依頼だったのに……流石だよ。とにかく無事で良かった。」
マリー「緊急依頼の承諾、有難う御座いました!……守さんが無事で良かったです……!」
守「有難う御座います!ご心配お掛けしました!」
そしてミズキも俺の近くに歩み寄ってきた。
ミズキ「…………」
ミズキは先日の試験での蟠り(わだかまり)があるのだろう。言葉を発せずにいた。
守「ミズキさんも待っていて下さったんですね。有難う御座います。」
ミズキ「……!!……いえ…………うっ……うぅ……」
ミズキは突如涙を流す。
ミズキ「本当に無事で良かったです……」
守「有難う御座います。ご心配お掛けしました。」
ミズキはその言葉を聞いた後、会釈をして、その場を後にした。
依頼人である行商人も駆け付けて来た。
行商人「本当に……有難う御座います……!貴方は恩人です……!」
守「とんでもないです。助けたのは、もう1人のハンター、シャインさんです。」
行商人「シャイン様のご活躍で、囚われていた商人は助けられましたが……。……守様。貴方のご活躍がなかったら、きっと商人は助からなかったと思います。
本当に……有難う御座います…………」
行商人は手を握り、感謝の意を述べた。
守「とんでもないです……ただ少しでもお力になったのであれば、嬉しいです……!」
イース「うぅ……ううっ……」
守「……イース……」
そしてイースは未だに俺に抱き付いたまま、泣いていた。そんなイースを、俺も、周りの人達も温かい目で、見守っていた。
守「(師匠……貴方の言っていた事が……今日、少し分かった気がします……。)」
師匠は言っていた。「ハンターは危険だが、やり甲斐がある仕事だ」と……。
西城は助けられなかったが……今回の任務を遂行した意味を……俺は感じていた。少しでも俺の力が、役に立っていたのであれば……本望だ。
そして西城も……いずれ助け出し、罪を償わせてあげたいとも思った。
前の世界では果たせなかった「無事に帰ってくる」という約束を……今度は果たす事が出来た。帰りを待ってくれている人達がいる……俺は仲間達との絆を改めて感じるのであった…………
…… 第六章 第十四話へ続く




