エピソード 西城②「転落」
西城エピソード回の続きです。
side:西城
俺は高校で2度全国制覇した逸材と言われ……鳴り物入りでプロボクサーとなった。
俺はデビュー戦で初勝利を飾ると、新人戦で優勝し、新人王に輝き、日本ランク10位に漕ぎ着けた。
そこからも連勝を飾っていき……日本王者タイトル戦も、KO勝利を飾り、日本王者となった。
西城「次は……父さんが持っていた東洋太平洋王者のベルトだ!父さんに追いついてみせる!」
俺は、近隣の外国人ボクサー相手にも勝利を重ねていき、東洋太平洋現王者に挑戦する事になった。
高校時代以降、更にプロで磨かれた速度とディフェンス、カウンターの技術を武器に、東洋太平洋王者を寄せ付けず……6R KO勝利を飾った。
西城「遂に……父さんに追い着いた……!」
そこから外国人ボクサーと2戦、どちらも KO勝利で飾り、俺の戦績は14戦14勝0敗12KOとなった。
そんな中、現世界王者が俺に目を付け、俺を挑戦者として指名してきたのだ。
いよいよだ……俺は父さんを超え、長年の夢……世界王者になる夢を叶える時が、遂に来たのだ。
相手となる世界王者はサウザー・ウィリアムズ。世界戦は彼の本拠地であるアメリカで行われる事になった。
俺達のチームや、母親は現地のホテルで宿泊していた。
そして試合当日。試合会場へ出発する時となった。
俺と母親は別々に出発する形となり、出発前に最後の抱擁を交わした。
西城「母さん。行ってきます。」
西城の母「蓮生……本当に今まで良く頑張ったわね……私は今日も見守る事しか出来ないけど……無事に帰ってきてね……」
西城「無事に帰るよ!……世界王者になって!行ってきます!」
西城の母「行ってらっしゃい……(神様……!どうかこの子が無事に……そして願いを……叶えて下さい!!)」
対戦相手のサウザーは非の打ち所がない、完成されたボクサーだ。戦績は31戦29勝1敗1分け、27KO。世界王者になってから、9度防衛を果たしている。もし今日勝てば、10度目の防衛、30勝目の記念試合となる訳だ。
西城「(だが、安易と記念試合にするつもりはない……王座は、俺が奪還してみせる!)」
入場前……関係者に囲まれながら、会場の歓声も聞こえてくる。世界戦の異様な雰囲気を、俺は感じ取っていた。
西城「…………いくぞ!!」
俺は決死の覚悟を胸に、入場した。
……異様な光景……そして雰囲気であった。観客の熱気、歓声……世界戦、そして本場の雰囲気は独特であった。
西城「(だが……俺は飲み込まれない。俺の人生……全てこの時の為に費やしてきたんだ!)」
リングへ上がり、サウザーと相対する。纏っているオーラや目力は相当なものだ。相手は物凄く強い。下馬評ではサウザー勝利が90%の予想だ。だが、俺自身は100%自分が勝って王者になる事しか考えていない。
西城「(必ず勝利し……世界王者になる!!)」
そして試合開始のゴングが鳴らされた。
西城「(必ず、世界王者になるんだぁぁっっ!!!)
……うおおぉっっ!!!」
セコンド「あぁ!初回は様子見と言ったのに!!」
サウザー「……。」
気負っていたつもりはなかった……だが意気込み過ぎだったのかもしれない。俺はいつものアウトボクシングではなく、激情の余りインファイトを臨んでしまった。
サウザー「……(そう来るか……いやこれは相手チームのプランにはないだろう。……彼のメンタルは王者の器ではない。早々にケリをつけるか。)」
俺は左右の連打をサウザーに繰り出していく。ハンドスピードに定評があった俺は、速い連打でサウザーをコーナーへと追い込んでいく。
西城「うおおぉっ!!」
サウザー「(もっと駆け引きが上手いボクサーだと思ったが……期待外れだ。)」
サウザーは素早く左腕を回し、俺との位置を入れ替え、今度は俺がコーナーに詰まってしまった。
西城「……!!」
サウザー「さぁ、早すぎるが、終幕だ。」
そこからサウザーの強力な連打が襲ってきた。俺はなす術もなくガードを固めたが、そのガードも直ぐに剥がされていった。
サウザー「さようなら。」
西城「…………!!」
ガードの隙間から、右フックが捩じ込まれ、俺の顎を直撃した…………………………
………………気が付けば病院だった。
俺は……初の世界戦で、1R KO負けを喫してしまったのだ……。
顎は……完全に砕かれていた。ボクサー生命はもう終わりだと、医者から宣告された。
そして日本に帰ってからは……「西城は終わりだ」「とんでもない醜態を晒しやがって」「日本の恥だ」と罵られる日々が待っていた。
母親は精神的に追い込まれ……寝たきりとなってしまった……。
西城の母親「ごめんね……辛いのは蓮生の方なのに……こんな弱い母親で……ごめんね…………」
西城「そんな事ないよ……俺はボクサー生命を絶たれちゃったけど……ちゃんと生きてる!早く母さんを楽に出来る様に、頑張るからさ!」
だが現実は残酷だった。誹謗中傷は後に絶たず、俺は悪い意味で有名人となってしまい、就職するにしてもバッシングの嵐……世の中は俺達の敵となってしまった。
そんな中……母親は内臓状態の異常が原因で……
帰らぬ人となった。
運命はどこまで俺を痛めつければ、気が済むのだろうか。そんな悲しみに暮れる中……1人の男が現れた。
西城「……誰だ……」
「この世の中が憎いだろう。一つの失敗で掌を返しやがる。お前の理解者は既にいない。……だが、お前に力を与える存在はここにいる……」
西城「力……?」
「そうだ。先ずはお前の人生を奪った……サウザーに復讐をしてみないか……?」
サウザー……俺の顎を砕き、ボクサー生命を終わらせた男……奴のせいで、母親は帰らぬ人となった……
西城「サウザーに……復讐する……力を貸せ……」
俺は悪魔に魂を売った。
俺はジムに復帰し、再び試合を行い勝利を重ね……
再びサウザーへの挑戦をするまでに漕ぎ着けた。
直近の試合が全て秒殺KOだった為、徹底したドーピング検査も受けさせられたが……結果は陰性だった。
西城「(当たり前だ……これは薬の力じゃないからな……)」
俺が与えられた力は……全身、特に拳へ闘気と気力を張り巡らせ強化するものだった。だが復讐心や嫉妬、殺意など、悪感情で力が増幅する……血塗られた代物だった。
そして、サウザーとの試合……俺は顎にワザと攻撃を受けるが、全く効かなかった。
サウザー「……!!(手応えはあった……だが、全く効いていない!?)」
西城「(やはり、この力は……素晴らしい!)」
俺は右フックをサウザーの顎に打ち込んだ。
力を弱めた筈だが、サウザーの顎が砕ける感触が拳に伝わった。サウザーは糸が切れたかの様に、倒れ込んだ。
その瞬間、俺は世界王者となったのだ。
西城「……(長年の夢だった筈が……何故こんなに虚しいんだ……)」
2度目の世界タイトル戦後、日本だけでなく、世界中から誹謗中傷が止まなかった。
「顎が砕かれていた筈なのに、何故平気なんだ」
「復帰してすぐ、あんなに強くなれる訳がない、おかしい」
「検査で引っかからないドーピングをしてるに決まっている」
「偽りの世界王者、やはり日本の恥」
日本に帰国した後、俺は力を与えてくれた男といた。
「どうだ?これがこの世界の……現実だよ。ぶっ壊したくなってきただろう?」
西城「……壊したい……誹謗中傷した奴ら……母親を死に至らしめた奴らに復讐したい……だが……」
「だが……?」
……1つだけ心残りがあった。北条守……彼はどうしているのか。2回目の試合は本来なら、俺が負けていた……決着はまだ着いていなかった。彼の嫌悪する程の清々しさ、強い心が……俺を縛り付けていた。
復讐心の中に、彼と戦えなかった未練が残っていた。
西城「その前に一つ心残りがある。……北条守……彼と戦いたいんだ。」
「!!……彼の事は知っている。そうか……彼と戦いたいのか……こちらとしても好都合だ。しかし、彼はこの世界にはもういない……」
西城「……!!そうだとしたら、もう戦えないのか……」
俺は落胆した。だが男は、「この世界」でなく、「別の世界」に北条守がいると教えてくれた。
「(転生の輝石と生贄は揃っている……)
……今なら北条守がいる世界に転生する事が出来る。この世界に再び帰って来るのには、暫く時間が掛かるが……覚悟はあるか?」
西城「当たり前だ。俺の未練は北条守……奴と戦い倒す事だ。それが出来たら、この世の中の奴らに片っ端から復讐してやる。」
「ハハハッ!良いねぇ!……別世界に着いたら、盗賊団の首領バーグという男に会う。俺も着いていき案内してやる。……そして、お前は盗賊団として活動するんだ。北条守とは近い未来に会える……」
西城「分かった……俺は奴と戦えるのであれば、何でもする……」
俺は既に悪魔に魂を売った。もう引き返せない……いや引き返すつもりはない。
そして、俺は野望を胸に、別世界へと旅立つのであった…………
…… 第六章 第十三話へ続く
次回から本編に戻ります。
 




