エピソード 西城①「栄光」
今話と次話は、西城エピソード回となります。
side:西城
俺の名前は西城蓮生。
父親が東洋太平洋チャンピオンで、小さい時からボクシングの英才教育を受けていた……ボクシングエリートだった。
西城の父親「蓮生……お前は俺が成し遂げられなかった事を……俺の代わりに成し遂げるんだ。」
西城「分かりました。父さん。」
俺の夢も「世界王者になる」それだけだった。父親の指導は厳しかったが、全く苦ではなかった。
俺には友人は居なかった。そんな暇があったら練習をしていた。友情……遊び……そんな物は、世界王者になる為には全く必要はない。
そして俺は猛練習を続け……高校1年の時、俺は全国優勝を果たした。
しかし、高校2年生の時……俺の父親は病に侵された。
父親「蓮生……3年連続で全国優勝し……プロになるんだ……」
西城「はい!父さんの夢は……俺が叶えます!」
予選の1回戦で、北条守に出会った。
奴のボクシング技術や力、速度どれを取っても予選止まりの並の選手だった。顔面とボディーのコンビネーションには少し面を喰らったが、俺は奴のボディー打ち、そして大振りのフックに合わせてカウンターを取り、ダウンを取った。
……奴のスタミナと根性は見上げた物があった。しかしその後も俺は怒涛のラッシュを仕掛け、KO勝利を納めた。
その後も俺は連勝を重ね、遂に全国大会の決勝まで登り詰めた。
西城「……あと、一勝だ……!」
決勝の相手は目黒金男。俺が昨年の全国大会決勝で、KO勝利した相手だ。
俺は一度勝っている相手という事があり……油断していた。
試合は最終ラウンドまでもつれ込んだ。俺はこれまで全試合KOで勝利していた為、粘る目黒にラッシュを掛けていた。
西城「(こんな所で……苦戦していられない……俺は世界王者になる男だ!!)」
慢心だった……目黒はずっとカウンターの機会を伺っていた。俺の大振りの右拳は躱され……カウンターの右拳が、俺のこめかみに当たってしまった。
西城「……!(しまった……!)」
俺はダウンを喫した。すぐさま立ち上がるが、無情にも試合終了のゴングが鳴り響いた。ダウンが響き、俺は判定負けを喫してしまった…………
試合が終わり、俺は父親の見舞いに行った。
父親「……。全国大会はあくまで通過点だ。切り替えろ。」
西城「はい……」
そう言う父親であったが、言葉とは裏腹に、期待を裏切られたの様に、表情は険しかった。
その半年後……父親は亡くなった。
俺は悲しみに暮れたが……俺の夢は世界王者になる事、それは変わらなかった。俺が負けた決勝……俺は己の力を過信していた。相手も懸命に立ち向かってくる。全国の決勝で戦った目黒の様に……地区予選1回戦で戦った北条の様に。
そこからは更に猛練習を重ねた。
母親もサポートをしてくれた。以前は父親の影に隠れていたが……「蓮生の夢ならば、サポートしたい」と。
有り難かった。感謝しかなかった。
そして……高校3年、最後の大会となった。
1回戦の相手は……運命の巡り合わせか……北条守だった。
西城「奴は……昨年より強くなっているだろうか……?」
試合直前……北条と対峙したが、目を見ると別人の様になっていた。
西城「……(先ずは様子を見るか……)」
そして試合開始のゴングが鳴った。俺は前回同様にガードを固めながら、相手を観察した。
奴は昨年の顔面とボディーへのコンビネーションじゃなく、ボディーへの集中攻撃を繰り出してきた。
西城「……!(昨年と違う戦術か!だが、顔面がガラ空きだ!)」
俺は空いている顔面にカウンターを合わせようとする。
しかし北条はダッキングで躱していき、逆に俺にアッパーのカウンターを合わせてきた。
西城「……!!(ガードを下げていたのはワザと……!?
前回とは別人だ!1年前と同じだと判断するのは危険だ!本気でいく!)」
俺は左ジャブを連射しながら、ステップを使っていくアウトボクシングに切り替えた。しかし北条の技術は著しく向上しており、ガードやパーリングを駆使しながら、左ジャブで応戦していた。その攻防の中、1R目が終了した。
続く2R目、俺は左ジャブに加え、右も使いながら、攻撃の角度を変える。徐々に俺の拳は北条を捉える。
西城「(ここで罠を張らせて貰おう。)」
俺は拳の速度を急激に落とす。
守「!!(チャンスだ!)」
北条は俺の左ストレートに右クロスカウンターを合わせようとした。しかし俺は左拳を途中で止め、顔面を横へとズラし躱す。そして、俺は右ストレートのカウンターを繰り出し、北条の顔面を捉えた。
守「……!(ならば!)」
北条は1R目の様にボディーの集中攻撃を繰り出す。
西城「……。(ダッキングしてアッパーのカウンターを狙っているな……)」
俺は左フックの初動を見せる。北条がこれに反応した瞬間……斜め下から突き上げる「スマッシュ」パンチを繰り出した。
守「!!」
スマッシュは直撃し、北条はマットに沈み込んでしまった。しかし、北条はすぐさま立ち上がり、試合は続行となる。
西城「……(目が全く死んでいない……)」
その後も俺のペースのまま、2R目が終了となった。
そして3R目。最終ラウンドが始まった。
北条は左ジャブにフック、右ストレートにフックやアッパー、ボディブロー等、あらゆる攻撃を繰り出してきた。
西城「(やはりこの選手、気持ちが強い!だが、見切れない速さではない!)」
俺は北条の攻撃を防ぎ、見切り、遂にはカウンターを取っていった。昨年の決勝を反省材料とし……最後まで油断する事はない。
西城「(目は全く死んでいない……最後まで集中する。)」
守「(全く隙がない…………ならば、隙を作る!)」
残りあと10秒を切った時だった。北条は大振りの右フックを振っていった。
西城「(右!しかも大振りだ!右ストレートのカウンターを取る!)」
守「(……昨年と同じ……予想通り!ここだぁ!!)」
西城「……!!」
俺が右ストレートを繰り出したと同時に、北条は前進した。俺の右拳は北条の顔面に直撃したが、インパクトポイントがずれ、威力を半減させられた。
北条は同時に右腕を畳んで、ストレートの軌道に変化させた。その右ストレートは、北条の気力、魂の気配が感じられた。
西城「(あれをまともに喰らったら……だが俺は……負けるわけにはいかないんだぁぁ!!)」
俺は額の所で拳を受けて、威力を軽減させた。
西城「(……!視界が……歪む……!?……まずい!!)」
俺は額で拳を受けたが、立つのが精一杯の状況だった。
守「(今だぁぁ!!)」
北条は追撃の左フックを見舞おうとした……
しかし次の瞬間、試合終了のゴングが鳴り響いた。
北条は左拳を、俺の顔面手前で止めた。直後にレフェリーが割って止めに入った。
……判定はダウンを取り、ヒット数で上回った俺の勝利となった。周りに歓声が湧き上がった。
直後、北条選手は俺の元へ駆け寄ってきた。
俺は最後の拳を止めてくれなかったら、負けていたと伝えたが……北条選手はゴングが鳴った時点で試合は終了だと……。
彼の器の大きさや、心の強さを感じた。
そんな時歓声の中、一際大きな声がした。
北条選手の両親の声だ。直後、俺へだけでなく、北条選手への歓声も上がっていった。
俺がプロになれたら……そのリングで北条選手とまた戦いたかったが、彼はボクシングを辞めるらしい。彼ならプロボクサーになる事も叶うと思ったが……両親を早く楽にさせたいと……そういう事なら仕方ない。
守「西城さん……。僕は1年前に負けたからこそ強くなれました!本当に有難う御座いました!」
西城「……あぁ!必ず全国優勝して、一番強かったのは県予選一回戦で当たった、北条守選手だったと言わせて貰うよ!こちらこそ今日は本当に有難う!」
守「はい!応援してます!有難う御座いました!」
俺は北条選手に約束をし、握手を交わした。
俺の試合を……母親が観てくれていた。
西城の母親「おかえり……蓮生。」
西城「母さん。観ていたんだ。俺はまだまだ勝つよ。1試合ずつ観てたら、何回観なきゃいけないか……」
西城の母親「うぅん。毎試合を観に行くよ。……私は、父さんの夢を……蓮生に押し付けてしまってるんじゃないかって、気掛かりだった。でも今の蓮生……凄く楽しい顔をしてる。
世界王者になる夢が……貴方の夢ならば、私は全力で応援するね。でも……辛くなったら、いつでも辞めて良いからね。」
西城「母さん……俺は世界王者になるまでは……ボクシングを辞めないよ!身体や力だけじゃない……魂や心も強い選手に出会えるから、今は楽しいんだ!……これからも宜しくね!」
母親「蓮生……うん!……こちらこそ……これからも宜しくね!」
その後俺は順当に勝ち上がり、全国大会の決勝……昨年敗れた目黒選手にも、KO勝ちを納めた。……KO勝ちが出来なかったのは、予選一回戦で戦った、北条守選手との試合だけだった。
優勝時のインタビューでは……
西城「自分が今大会で対戦した中で、一番強かったのは……県予選一回戦で当たった、北条守選手でした。」
北条選手との約束通り、俺は力強くその様に言葉を発した。
……北条選手が観ているかは分からない……。
でも、約束を守りたかったから、俺は発言した。
最強の選手との試合はもう出来ないという、少し虚しい気持ちはあるが……応援してくれる母親がいる……俺がずっと抱き続けている夢がある。
その夢を抱いて、俺は世界王者に向けて、階段を駆け上がっていくのであった…………
…… エピソード 西城② 「転落」へ続く




