第六章 第十二話 光の拳
俺と西城が、亜空間で戦闘していた時……無線貝越しではあったが、シャインの勝利が耳に届いた。あとは目の前の敵……西城を戦闘不能にして、拘束するだけとなった。
西城「邪魔が入ったが……殺し合いを続けよう!」
守「……。……西城さん!貴方を拘束し、罪を償って貰います!」
その時、西城の拳を始め、全身の気が更に練り上げられ、力強くなっていく様に感じた。
西城「拘束する?やってみろぉっ!!」
西城は強烈に踏み込んできた。その踏み込みは先程よりも速度が上がり、更に左ジャブを始め、連撃の速度も上がっていた。
守「…………。」
しかし冷静さを取り戻した俺は、守護壁と空道の円による防御で、連撃を全て防いでいく。
西城「(ボクシングには付き合わんか……だったら俺のペースに引き摺り込んでやる!)」
西城は更に拳の威力を強めていく。西城が拳に込めた闘気の影響もあり、守護壁にヒビが入る様になっていた。
守「(くっ……ハンスさんやミズキさんも気力を乗せた攻撃をしていたが……ここまでの気が込められた攻撃は……師匠以来だ……!)」
西城の攻撃の速度と威力が凄まじく、俺は防御一辺倒になる。そんな時、無線貝が反応した。
守「(!……シャインさんからか……?距離を空けなければ……)……玄武大衝波!!」
西城「その技は見切っている!」
守「……!!」
西城は俺が繰り出した衝撃波をサイドステップで躱し、カウンターの右ボディーストレートを捩じ込んできた。
俺はその拳を鳩尾にモロに喰らってしまい、後方に大きく吹っ飛ばされた。
守「ぐっ……」
西城「無線貝か……不意打ちで勝っても面白くない。出ろ。」
俺は西城を警戒しつつ、無線貝から応答した。
シャイン「交戦中にすまない!バーグが捨て身の魔法を唱え、アジトである洞窟は崩落した!」
守「!!シャインさん達は無事ですか!?」
シャイン「あぁ!緊急脱出の魔法を唱え、行商人の方達も無事だ!」
守「無事で良かったです!」
シャイン「私は行商人の方達をギルドへ送り届けねばならない!元の場所へは使用者の任意か、戦闘不能・死亡した場合に、戻ってくる!10分で何とかする!あと、10分は粘ってくれ!」
守「了解しました!」
元の所は没落で、今戻ってきたら非常に危険という事だ。あと10分で、シャインが退路を確保するとの事だった。
西城「……終わったか?」
守「西城さん!バーグが捨て身の魔法で、アジトが崩落した様です!今元の所に戻っても、危険なんです!」
西城「あのプライドが高い奴が捨て身か……。確かに俺はお前を倒した後にも、別の目的があったが……」
守「(別の目的……?)」
西城「……今はどうでも良い!!!
北条守!!お前は俺の期待を上回ってくれた!もう待ち切れん!!殺し合いの続きをしよう!!!」
守「!!」
西城は待ちに待ったと言わんばかりに、素早く直進してきた。先程と同じく、拳の嵐が飛んでくる。拳の気が一段と増しており、俺は守護壁と剛体術を駆使しながら、何とか耐えた。
守「(何とか凌ぐんだ……俺は生きて帰るんだ!!)」
西城がひたすら拳の連撃を繰り出し、俺が連撃を防ぎながらも、所々で喰らってしまう……そんな攻防が繰り返し行われる。
守「(……耐えるんだ……今は下手に攻撃は出せない……)」
西城「本当はもっと待っても良かったが……お前を目の前にして……もう待ち切れないんだよぉぉっ!!」
俺の粘りの甲斐があり、シャインの連絡があってから、10分が経過した。
だが俺は何度も、激しい闘気を込められた拳を打ち込まれ、打撲だけでなく骨折も数箇所に渡っており、全身を酷く損傷していた。そんな時無線貝に反応があった。
シャイン「守!大丈夫か!?遅くなってすまない!退路は確保した!」
守「大丈夫です!了解しました!」
西城「ふん。どのみちもうすぐ……決着が着く!!」
西城はトドメの攻撃を繰り出すべく、俺に接近する。
身体を酷く損傷していた俺は、速度が鈍っていた。
守「(……集中しろ……相手は勝利を殆ど確信している……隙が生じる筈だ……!)」
西城「もう限界を超えてるだろう!トドメだぁ!」
西城は大振りの右ストレートを繰り出そうとしていた。
俺は左手で防御し、右拳でカウンターを取ろうとした。
守「…………。」
西城「(右に釣られたな……掛かった!)」
西城の右ストレートはフェイントであり、本命の左フックが飛んでくる。
守「…………。」
俺は右手を西城の左拳…………ではなく、左前腕に向かって伸ばしていた。
西城「(右手で塞ごうとしても無駄だ!左フックを起点に、連打でトドメだ!!)」
ドゴォォォォッッ!!
西城の左フックは、俺の右顳顬を捉える。しかし、同時に俺は西城の左前腕を掴んでいた。
守「(どのみち躱す事は出来ないからな……)」
西城「……!!(コイツ……またボクシングにはない動きを……)」
俺はすかさず右側に移動しながら、西城を床へと叩きつけた。
西城「ぐはぁぁっ!!(……くっ……早く脱出しなければ……!)」
西城は腕を擦り抜けようとするが、今度は離れない。
西城「……!!くそぉっ!離れろおぉっ!!(マズイ!!早く脱出をおぉっ!)」
西城は倒れながら、右拳を俺の身体に叩きこむ。
しかし、ボクシングではその体勢からの攻撃をする事はない。闘気は込められているが、威力は半減していた。
守「西城さん!貴方の思惑は……これで終わりです!!
……闘気螺旋拳!!」
ドゴオオオオオオオォォォッッ!!!
西城「ぐはああぁぁっっっ!!!(何て……一撃なんだ……)」
俺は西城の腹部に、左拳で渾身の一撃を叩き込んだ。
無理な体勢からで、更に左拳で繰り出した技であったが、いくら闘気で全身の防御力が上がっていたとしても、生身の人間が耐えられるものではなかった。
俺の渾身の一撃を喰らった西城は、意識はあったが、もう動けず倒れ込んでいた。
西城「……完全に……俺の負けだ。…………本当ならもっと早くに勝負は着いてたんだろうな。途中、貴方は時間稼ぎをして、攻撃してこなかった。俺は良い気になって勝つつもりでいたんだ……」
守「いえ……時間稼ぎを必要としなくても、西城さんは強かったです。ボクシングじゃ全く勝負になりませんでした……」
西城「……。……やはり北条さん……貴方は強いよ。戦闘だけじゃなく、決して諦めない心……拳にも宿っていた。最後の一撃は……本当に効いたよ。……俺の目に狂いはなかった。」
守「西城さん……」
西城「…………人智を超えた力を手にしたと思っていたが……奢っていた。復讐心に駆られ、力に溺れていた。俺の心は……力に追いついていなかった。北条さん……貴方の様にはなれなかった。初めから、敵う訳はなかったんだよ。」
守「西城さん……俺も始めは復讐心に駆られ、本来の心を失っていたんです。けど……この世界で出会った方達のお陰で、俺は本来の心を取り戻す事が出来たんです。
それに前の世界で出会った人達にも……改めて感謝していると思える様になったんです。西城さん。貴方もその中の1人なんです。」
西城「…………!!…………有難う……。……もうすぐ元の位置に転送される筈だ。その前に貴方に……俺の話を聞いて欲しいんだ……」
守「分かりました。お話を……聞かせて下さい。」
俺と西城との戦いは、辛くも俺が勝利し幕を閉じた。
倒れた西城の口から聞いたのは、西城の過去についてであった。彼がここまで来た経緯は……非常に辛く……壮絶なものであった…………
…… エピソード 西城①「栄光」へ続く
次回は西城のエピソード回となります。




