第六章 第八話 初任務
サウスマウンテンの東側山頂で、イースを発見した。
イースは何度も、「ごめんなさい……」と……俺に謝っていた。俺はイースを抱きしめていた。
冷たい雨の中、どの位が経ったのだろうか。
東側山頂に、ハンスが駆け付けてくれた。
ハンス「守さん!……イース君……。…………守さんとイース君は、ハンターズギルドでまだ手続きが残っている。辛いかもしれないが、一緒に行こう……」
守「はい……ハンスさん。出過ぎた真似をしてしまい、大変申し訳ありませんでした……イース、行こう。」
イース「はい……」
そして俺達は、ハンスと共に下山し、ハンターズギルドへと再び赴いた。
そこにはドラゴとミズキの姿は既になく、シャインと受付嬢マリーが残っていた。
俺の方は、ハンターにおける説明と注意事項を受け、手続きを済ませた。イースの方は、今回不合格となった証明と、再試験を受ける際の説明を受けた。
マリー「イースさんは第一部実技試験に合格しています。再試験は第二部の戦闘試験から、開始する事が出来ます。ただ戦闘試験の担当試験官は例外を除き、次回以降も統一する規則となっています……。」
イース「…………はい……。」
イースは上の空でありながら、声を絞る様に答えた。
シャイン「守君。……イース君には辛い思いをさせてしまうが、私達はドラゴに試験時の詳細を聴取した。その結果を報告しよう。」
守「はい……分かりました……。」
シャインとハンス、俺とイースがギルドの応接室に入り、皆が椅子に座った。
シャイン「イース君の試験は……途中まで順調だった。特に力、防御力は高水準の評価だった。……しかし気負いしやすい……精神面に関して不安があった。その精神面をテストする為に、ミズキに圧力を掛けさせて、判断したとの事だ。」
守「…………。」
イース「……その圧力に負けてしまい、僕は戦意を喪失してしまったんです……。……落ちて当然です……」
守「イース……」
俺は納得した部分と、まだ受け入れられない部分があったが……イースは不合格という結果を受け入れていた。
その為、これ以上の抗議を行う事は辞めた。
俺はシャイン、ハンス、受付嬢マリーに謝罪をし、ハンターズギルドを後にした。そしてイースと共に、宿屋へと向かい、雨でずぶ濡れになっていたイースの身体を拭いてあげた。
守「(イース……。)」
イース「………………。」
イースは沢山泣いたのだろう……両目は腫れて、顔はもう泣き疲れたかの様に、疲弊していた……。
イースは殆ど口を開かないまま……2日が経った。
俺は、初任務をイースと一緒に受けようと決めていた為、悩んでいた。
守「イース……ギルドに行ってくるからな……。」
イース「…………はい…………。お気を付けて……」
俺はまだ依頼を受けていなかったが、ハンターズギルドで依頼書の確認や、犯罪者の手配書を確認していた。
手配書に関しては、犯罪者の戦闘力を考慮して、ハンターランク相当毎に区分けされていた。
守「(……イース……)」
イースは意気消沈している様子であった。
筆記試験勉強の時にも、精神修行は怠らなかった。そんなイースが、2日間全く修行をしていない。
療養期間や戦闘時以外で、今まで1日も修行をしない日はなかった為、異常な事態であった。
守「(ハンターになったからには……初任務を受けなければ……)」
幸い金銭面にはまだ余裕があった。しかし、こうしている今も、助けを求めてる人達がいる。危険に晒されている事もあるかもしれない。意気消沈しているイースを、言葉だけで再試験を受けさせるのは、困難であった。
守「(……言葉だけじゃ、伝わらない。……行動で示すんだ……)」
俺は初任務を単独で受けようと、決心した。
その帰り、イースに初任務を受ける事を伝えた。
守「ハンターになったからには、この世界の人達を助けたい。……イース。俺は明日、任務を受ける事にするよ。」
イース「……。……分かりました……」
そして夜が明け、初任務を受ける日となった。
守「じゃあ、行ってくるよ。」
イース「はい……お気を付けて…………無事に……帰ってきて下さい……」
イースは泣きながら、俺を抱きしめた。
守「うん。……イース……初任務は俺だけで受ける事になったが…………これは、お前がハンターになったら……お前と一緒に見ようと決めているんだ。」
イース「……!これは…………」
イースがハンターになったら、一緒に見ようと決めていた物……それは師匠直筆の書物だった。俺の分はあるが、イースの分は今、手元にはない。
守「イース……強制はしない……俺は先に任務を受けるが、師匠が遺してくれた書物を……俺はイースと一緒に見たい。自分勝手な俺の我儘だが……お前とハンター同士として、これからは頑張っていきたいんだ。
……イースが、ハンターになれる事を……俺は信じている。」
イース「…………守さん……」
俺はイースの頭を撫でた。
守「それじゃあ、行ってきます。」
イース「行ってらっしゃい……帰りを待ってますね……」
俺が無事に帰ってくるのを、待ってくれる仲間がいる……
以前にも同じ事があった。前の世界で俺は約束を果たせず……もうその人とは会えなくなってしまった。
今度こそ、必ず約束を果たしてみせる。
そして俺は宿屋を後にした。
宿屋を後にした俺は、ハンターズギルドへ赴いた。
マリー「守さん。おはようございます!」
守「マリーさん。おはようございます。今回は、初めて任務を請けさせて頂こうと思いまして。」
マリー「分かりました!……実は今、緊急依頼が届いてまして……相当ランクは不明です……今は全てのハンターさんが出払っていて……直に、シャインさんが戻ってくると思いますが……」
俺はハンターズギルド本部の判断で、Dランクハンターとして、始動する事になった。
シャインはその判断に抗議したが、ガーサル領奪還作戦はハンターとしての参戦ではなく、且つ依頼をこなした訳ではない。依頼を遂行して、その結果を基に、Cランクが適切かを見極めると……その様に本部が判断したのだ。
守「分かりました。緊急依頼なんですよね?私が単独で受けます。もし私1人では困難と判断した場合は、無線貝で応援を要請します。」
マリー「分かりました……初任務でしかも単独任務は危険を伴います……気を付けて下さい……」
今回の任務は、盗賊団に攫われた人達の救出だった。
サウスマンドの近くで行商人が、盗賊団に襲われて数人が攫われた。攫われた人達は、盗賊団のアジトに連れ去られている。今回依頼したのは、逃げ延びた行商人だった。
盗賊団は野党が運んでいた宝石……別名「転生の輝石」と呼ばれる物を狙っていたと思われる。「転生の輝石」とは呼ばれているが、世間一般では高値で取引されている、赤く輝く綺麗な宝石……というだけの物だ。
商人「いきなり襲われて……なす術がありませんでした……幸い死者は出ていませんが、攫われた者達がどうなっているか分かりません……少しでも早く助けて下さい……」
守「分かりました。尽力します。」
今回襲撃した盗賊団の情報は全くない。
俺は念の為、手配書の最終確認を行った。
時間がなかった為、急いで手配書を確認し、俺はサウスマンドを後にし、現場へ直行した。
そして、商人が襲われた現場に到着した。
守「(着いたぞ。奴等のアジトを探さなければ……)」
ここでは暗殺者時代の経験が生かされた。
痕跡を探していくと、周りの足跡と違う、盗賊団のものと思われる足跡があった。裸足やサンダルの様な簡易的な履物であり、商人が履いていた靴とは違った、足跡の形であった。
守「(更に走っていったのか、足跡の感覚が広い。これを辿っていこう!)」
俺はその足跡を追う様にして、走っていった。
守「(……どうやら、ここがアジトだな。)」
足跡を辿っていき、走る事約20分……盗賊団のアジトと思われる洞窟を発見した。
入口には4名の団員がおり……偶然にもその中に、盗賊団の首領と思われる人物がいた。入口の門番に状況を確認している様だ。
守「(トップの奴は……手配書に載っていた……Bランク相当のバーグか!……俺が単独で挑むのはマズイか……)」
野党団の首領は……Bランク相当の手配書に載っていた、バーグという者だった。団員を使い、恐喝や窃盗、更に自身では殺人も犯している。俺は現在Dランクであり、サシで挑んでも……勝てるか分からない。
増してや周りに複数の団員がいる状況……単独で戦うには、あまりにも無謀だった。更に暗殺術が使えない今、潜入するのも危険であった。
守「(バーグの隣にいる奴……どこかで見た事がある………………!アイツは…………!)」
そしてバーグの隣にいる男は……俺が知る人物であった。
守「(西城……蓮生…………)」
それは前の世界で、高校時代……俺がボクシングの試合で2度敗北し、リベンジが叶わなかった……ボクシングエリートの西城蓮生だった。
守「(なぜ……こんな所に……)」
前の世界にいた人間の姿に、俺は驚愕する。
俺の初任務は、予想し得ない方向へと、進んでいくのであった…………
…… 第六章 第九話へ続く
 




