第六章 第五話 第一部実技試験 イース編
side:イース
第一部実技試験……僕はサウスマウンテンの麓で、守さんと一旦別れ、東側の頂上を目指して、駆け登っていた。
イース「(走るのは苦手だけど……今日までに沢山走ってきた!)」
マリーさんに渡された紙には、制限時間内に、「心の花」を東側の頂上まで持ち運べ、と書かれていた。制限時間は2時間である。
イース「(心の花……下見の初日で、偶然見つけた白いお花だ……)」
「心の花」は、下見の初日で僕が偶然見つけた、白いお花だ。ハンスさんが持っていた、気付け薬の材料になる物だ。あの時は偶然見つけたけど……図鑑で調べたら、かなり貴重な物だと知り、凄く驚いた。
イース「(確か、川が流れている橋の下……川の近くで、影になっていた場所にあった筈……よし!時間との勝負です!急ぎましょう!)」
「心の花」は日陰の場所、且つ水場の近くが自生場所であった。標高200m程の地点にある、橋の下が自生場所だ。
足が遅い僕は、四苦八苦しながらも、目的の橋の手前まで辿り着いた。僕が橋の下に行こうとした、その時であった。
ドゴオオオッ!!
イース「ひゃぁぁっ!!」
僕の手前で、いきなり落石に見舞われた。あまりの衝撃に、僕は後ろに尻餅を着いてしまった。
「……やはり腰抜けは、腰抜けだな。……また会ってしまったな。俺は今回の試験官の一人、ハンターのドラゴだ。貴様を妨害しに来た。」
イース「……!!」
ハンターのドラゴさん……。守さんと一緒にハンターズギルドに入った時……僕に……「ハンターになったら死ぬ」「そもそもハンターになれない」と言っていた人だ……。
イース「…………。」
あの時はただ泣きそうになって、何も言えなかった……守さんが割って入って下さり、マリーさんが声を掛けて下さった……。
イース「……。(だけど……今は僕一人……何とか……何とかしないと!)」
ドラゴ「……うん?」
イース「邪魔を……しないで下さい!僕は……ハンターに……なるんです!」
僕は今にも恐怖で押し潰されそうになるが、懸命に立ち上がり叫んだ。
ドラゴ「ふん。声が震えてるじゃねぇか。……俺は、実力が伴わねえのに、無茶をして……挙げ句の果てに戦意喪失して……動けなくなって、死んだ奴らを沢山見てきた。」
イース「…………。」
ドラゴ「貴様も死んだ奴らに、よく似てる……。無茶をして、背伸びしてると……本当に死ぬぞ。」
イース「死ぬのは怖いです……ただ……僕にも、ハンターになりたい理由があります!ここで終われません!」
僕は再び、ドラゴさんへ向けて叫んだ。
ドラゴ「ほぉ。それじゃぁ、お前1人で何とかしてみせるんだな!」
ドラゴさんはそう言った直後、地面を叩きつけ、石の塊の様な柱を次々と生成してきた。
イース「(姿が見えない……早急に手を打たないと!)」
ハンターの心得に……見えない敵の脅威について、記されていた。今は、その脅威に晒されている最中の状況であった。
イース「(僕に出来るのは……)……はあぁぁぁっ!!」
ドゴオオオォォォッッ!!
ドラゴ「ほぉ。」
僕はドラゴさんが生成した、石の柱を、拳で砕き崩していった。直後、ドラゴさんの姿が顕になる。
ドラゴ「判断は……良さそうだな。力もあるか……。……ならば、これならどうだ!」
イース「……!!」
ドラゴさんは、今度は半球状の土の壁を、僕の後方に生成してきた。丁度、僕は退路を断たれた状況となる。
退路の確保……これもハンターの心得に記されていた、重要事項だ。
退路を断たれた僕に向かって、ドラゴさんは襲い掛かってくる。
ドラゴ「さぁ、この状況……どう打破する!?」
イース「……(ここは……)……はああぁぁっ!!」
僕はドラゴさんに向かって、白銀の氷の息を吐き出した。
ドラゴ「……!(こんな攻撃も持ってるのか……やむを得ない。ここは躱す!)」
ドラゴさんは、僕が吐いた氷の息を横へ躱した。
イース「(今の内に!)」
僕は後方の半球状になっている土の壁を、拳で崩していった。
ドラゴ「……。(判断を誤ったな。)」
イース「えい!えい!」
ドガララララララララ!!
イース「…………うわぁっ!!」
突如土の壁が一気に崩れ、僕を押し潰す様に落下してきた。辺りに土煙が舞っていく。
ドラゴ「……。(土の壁は重量を調整してある……腰抜けを回収して、治療を受けさせるか……まぁそうなると不合格だがな。)」
次の瞬間、ドラゴさんに向かって、土の塊が次々と襲いかかる様に飛んできた。
ドラゴ「……!!(まさか……!?)」
イース「えいっ!えぇぇいっ!!」
僕は剛体術で身体を固めており、殆ど無傷であった。
僕は隙を作らない様に、崩れていった土の塊達を、ドラゴさんの気配がする方へ、投げ付けていった。
ドラゴ「(こいつ、俺の姿が見えない筈……気配を察知してるのか!?)」
ドラゴさんは土の塊全てを、避けるか防いでいたが、土の塊は散開し、ドラゴさんの姿が顕になる。
ドラゴ「成程な……お前の強みは、その硬い身体と怪力……奇想天外な戦法という訳か……。」
ドラゴさんは渋い顔で、話を続ける。
ドラゴ「(一つ判断ミスはあったが……試験規則に反する事は出来ない……仕方ない。)……一先ず、ここでは見逃してやる。……仮に頂上へ辿り着けたとしても、お前はハンターにはなれんがな。」
イース「僕は……必ずハンターになります!」
ドラゴ「……ふん。精々頑張るんだな。」
ドオオオオォォォンッ!!
土煙を浴びて小爆発が起きたと思うと、ドラゴさんは姿を消した。気配も消えていた。
イース「今の内に……心の花を探しましょう!」
僕は橋の下を探し、川の近くで橋の影に隠れていた、白く大きなお花を見つけた。
その花は紛れもなく、「心の花」であった。
イース「やった!(探し物は早く終わりました!……あとは頂上まで、急ぎましょう!)」
あとは、時間との勝負だった。足が遅い僕は、ただひたすらに、懸命に山道を駆け登っていった。
イース「はぁ……はぁ……あと……もう少し!!」
僕は、東側の山頂目前の所まで来ていた。
最後に崖を登り切れば、山頂へ着く事が出来る。残り時間は約15分程となっていた。
イース「(時間がありません!頑張って登らないと!)」
僕はひたすらに崖を登っていった。崖を登っている途中、いくつかの落石に見舞われた。
イース「……!!(避けられません!……身体を固めて、耐え切ります!)」
僕は落石に何度もぶつかりながら、着実に崖を登っていった。
そして、崖を登り切り、サウスマウンテン東側の頂上に無事辿り着く事が出来た。
そこには先程会った、ハンターのドラゴさんが立っていた。
ドラゴ「辿り着いたか…………所要時間は1時間58分!
……持っている花は……心の花で間違いない!
…………色々と苦言は呈したいが……ギリギリの合格だ!」
イース「はぁ……はぁ……やったぁ!有難う御座います!」
僕は何とか、第一部実技試験を突破する事が出来た。
ドラゴ「退路を塞がれた時、強引に土の壁を崩したのは悪手だ!下手をしたら、大怪我か死ぬぞ!
身体は頑丈みたいだが……それに頼り過ぎたら死ぬからな!肝に銘じておけ!」
イース「はい!」
ドラゴ「あと……最初腰を抜かしただろ!ハンターになろうとする者にとって有るまじき、失態だ!気持ちを強く持て!!貴様はその弱い心が最大の弱点だぁ!!」
イース「はい……」
ドラゴさんは凄い剣幕で叫び、僕はたじろんだ。
ドラゴ「……ふん。次は戦闘試験に入る。本来なら俺が貴様に引導を渡してやりたいが……貴様の戦闘試験を担当したいと、希望していた奴がいてな。」
イース「僕の担当を希望していた、ハンターさん……?」
ドラゴ「俺の後輩にあたるハンター……コイツだ。」
「……久し振りね。」
イース「……!!」
そこに現れたハンターさんは……ミズキさんだった。
ミズキ「……やはり、ハンター試験を……受けてしまったのね。…………せめて私の手で、貴方をハンターにさせない様にと……私が、貴方の戦闘試験を担当したいと、ハンターズギルドに志願したんです。」
イース「ミズキさん……」
その時、丁度晴天だった筈の空が、黒い雲で徐々に隠されていった。試験の行先にも、暗雲が立ち込める。
僕は、第一部実技試験を何とか突破したが、最終試験である戦闘試験の相手は、ミズキさんとなった。
この戦闘試験は、過酷で非情なものとなるのであった…………
…… 第六章 第六話へ続く




