第ニ章 第一話 理不尽な暴虐
ここから第二章となります。
この章から、物語の舞台が変わります。
引き続き、暖かい目で見て頂けたら幸いです。
2023/1/3 一部修正しました。
初夏のある日、両親が何者かに殺された。俺は必死になって情報を探り、とある裏社会の情報屋に巡り会った。情報屋から、犯人が所属している暗殺者組織の存在を聞かされた。その組織に所属して暗殺者となり、遂にはそこで犯人を特定するまでに至った。
その犯人に復讐する絶好の機会を前に、かつての親友、翔が立ちはだかった。戦いに挑むが、俺は翔に全く歯が立たず、敗れてしまい命を落とした……
……暗い……奈落の底に落ちる感覚だ。確か翔と戦ってる内に物凄い憎悪に支配されて…………。
翔、強かったな。傷一つ付けられなかった……暗殺者になったのにまだ敵わないのかよ……
自分の身体の形がなくなっていくのが分かった……そうだよな……俺は死んだんだ……何もかも終わってしまった……
俺はどこまでも続く暗い闇の中で、先の戦闘で起こった事やその結末、自分が死んで復讐を果たす事が不可能になってしまった事を嘆いた。
そんな中どこからとなく女性の、落ち着いた気品のある声が聞こえてきた。
「貴方の魂はまだ天に召されていません。貴方のいた世界に留める事は出来ませんが、魂が無事なら別世界に肉体を再生して送り込めます。混沌と化している世界を救って下さい。貴方はそれが出来る素質と心を持っている筈です……」
守「……?」
俺は復讐の為にあそこまで頑張れた。そして鬼になれたんだ。目的を失った今、もう全てがどうでも良い。頼むからもう死なせてくれよ。そうでなければ、生き返らせてチャンスをくれよ……
そんな事を思っている内に女性の声は聞こえなくなった。
その直後、辺り一面暗闇だった所に小さい光が現れた。その光はやがて大きくなり、俺を包み込んだ。
守「……ここは?……」
……そうして気付いた時には、俺は寂れた廃墟の様な所に倒れていた。そこは石造りの簡易的な建物が所々に立ち並んでおり、どこか古代文明を思わせる造りをしていた。
守「あれは……」
俺の視線の先には、200㎝あるであろう巨漢の男が、1匹の小さいトカゲの様な生き物を痛めつけていた。その生き物はおよそ140cm程度で、前脚である筈の箇所で頭を抱えて怯えながらうずくまっており、無抵抗であった。
見せしめの為なんだろうか、周囲にはそれを怯えている様に、はたまた何か特異な物を見ている様な……そして恐怖の余り全く動けない様な人達が、観衆となって立ち尽くしていた。
守「これは……?」
傷は完全に塞がっている様に見えるが、先で受けた数々の斬撃の強烈な痛みを感じる。身体が軋んでいて、意識もハッキリとしない。
巨漢男「皮膚が硬くて殴打じゃ中々通らないか……冥土の土産にキツいのを貰っておけ。おい!」
取巻き「はい!親分!」
巨漢男は先程までは素手でドラゴンを痛めつけていた様だが、今度は近くにいた取巻きが、持ち手部分の木の棒と鎖がついた鉄球を巨漢男に渡し、巨漢男は右手で持ち手部分の木の棒を持ち、鉄球と鎖を振ん回す様に勢いをつけていた。
守「!!」
自分でも何故だろうと思った。だが身体が思った様に動かせない中、俺は無意識のうちに必死にドラゴンと巨漢男に向かって走っていた。
巨漢男「おらよ、トカゲ野郎!鱗は硬いが……これで死ねるだろうよ!!」
巨漢男が勢いそのままに鉄球をドラゴンに向けてぶつけようとした。しかし俺は何とか間一髪、ドラゴンと鉄球の間に割って入り、ドラゴンの身代わりになる事が出来た。
ミシッ!……ミシッミシッ!!
守「ぐっ!!」
両腕でガードはしたが勢いを殺せず、そのまま胸の方まで強打する形となってしまった。両腕だけでなく肋骨や胸骨、鎖骨のヒビが入る音が聞こえ、更に強い痛みに襲われる。
巨漢男「(あれを喰らって立っている……!?)なんだぁキサマはぁ?今見せしめにトカゲ野郎を粛清してた所なのによぉ!あぁっ!?」
巨漢男の怒号が周囲に大きく地鳴りの様に響く。
周囲はその地鳴りの様な声に、またその圧力や気迫に怯んでいた。だが俺は怯まずに平然としていた。
守「無抵抗な者をそんなに痛めつけてどうする?この子が何をしたと言うんだ?」
巨漢男「魔物は皆悪だ!これは粛清なんだ!こいつは今領地を占領している魔物の仲間に決まっている!」
……用はこの子は何もしておらず、粛清だか何だか知らないが、理不尽な暴虐の限りを振るわれているという事か……
周囲が心配そうに、騒めきを上げながらも、俺は巨漢男と対峙した。
……第ニ章 第二話へ続く