第五章 第十五話 Revenge(リベンジ)
俺が眠りに着いた直後、覚えがある女性の声が聞こえてきた。
ディーナ「お久し振りです。ようやくお話する事が出来ました……。ワイドネスを無事に倒したのですね……。ですが、その代償は……とてつもなく大きなものでしたね……。」
守「お久し振りです。ディーナ様。……はい。私の師匠が皆を守る為、犠牲となり、亡くなられました……。」
女神ディーナは、哀れみを込めた声で話す。
ディーナ「ゲンジ殿は……様々な方達を救った、強く優しい心の持ち主……正に光の者でした。大変惜しい人を亡くしました……。守さん。今度は貴方がその意思を引き継ぎ、混沌と化したこの世界を、皆を救って頂きたいのです。」
守「はい。師匠の意思は……私の心に深く刻まれています。師匠の意思を引き継ぎ、この世界を……私の出来る限り救っていきます。」
女神ディーナは、安堵した様な声で話す。
ディーナ「守さん。やはり貴方をこの世界に呼び込んだのは、正しかった様です。その強く優しい心と力を、これからも皆の為に使って頂けたら、私も嬉しく思います。
……それと、貴方に縁のある方達の魂は、今もその場所に………………」
守「縁のある者の魂……?」
聞き返すも、女神ディーナの声は、途中で聞き取れなくなってしまった……
そして、ポーとの決闘当日となった。場所はガーサル領内にある、広場となる。
予定時間が近づくにつれ、決闘の事を聞きつけた人達が、続々と広場に集まって来た。周りは、期待に胸を躍らせている人達、不安な趣で見守ろうとする人達、様々な表情の人達で溢れかえっていた。
ミズキ「…………(守さん……無事でいて下さい……)」
イース「…………(いよいよですね……守さん……)」
俺とポーは相対する。その間には、今回の立会人であるハンスが立っており、俺達に声を掛ける。
ハンス「二人とも準備は良いかい?」
守「(師匠……今だけ、貴方から受け継いだ力を……封印します。私の我儘をお許し下さい……)
はい。俺は剛体術も、守護壁術も使いません。ポー、お前に手酷くやられた時の状況で……今度は俺が勝つ!あの時のリベンジを果たさせて貰う!」
ポー「俺はお前に大きな借りがある……しかし俺にも、俺が勝つと信じてくれる奴がいる。無様な真似は晒せねぇ。俺の力を示す必要があるんだ。俺も武器は使わねぇ。素手でお前に打ち勝ってやるよ!」
ハンス「どちらかが戦闘不能になる、降参する、あるいは危険と判断した場合は、俺が止めさせて貰う。お互いそれで良いかな?」
守「はい!」
ポー「おう!」
ハンス「よし……。……それでは…………始め!」
「わあああぁぁぁっ!!!」
ハンスが始まりの合図を行うと、周りから歓声が挙げられた。
守「いくぞ!」
先手は俺が取った。強く踏み込み、ポーの懐に飛び込むと、即座に左ジャブを連射して放つ。
ポー「甘い!」
ポーは両腕でガードを固め、全て防ぐ。即座に合間を狙って、ポーが右ストレートを放つ。
守「……!」
俺は咄嗟にガードしたが、ポーの拳の威力は凄まじかった。ガードした俺は大きく後退させられる。
ポー「今度は俺の番だ!」
今度はポーが速い踏み込みで、左ジャブの連射を放つ。
前の戦いで体験した様に、踏み込みや拳の速さも尋常ではなかった。
守「はぁっ!」
だが俺も、ポーのジャブを全てガードする。
ポー「ここからは、右も使わせて貰う!」
ポーは左に加え、右拳も繰り出してきた。
手数が更に多くなったが、俺は何とか防ぎながら、反撃の機を伺っていた。
「わあああぁぁぁっ!!」
「いいぞぉっ!」
ミズキ・イース「守さん……!」
観衆が盛り上がる中、ミズキとイースは不安な趣で、祈る様に俺を見ていた。
守「…………ここだ!」
ポーの右拳を、俺は左サイドステップで躱し、左フックをポーの右頬に、カウンターで当て込んでいった。
ポー「ぐっ……!(あの時と違って……良い拳だ!)」
前の戦いでも拳は当てられたが、力が出せない状況であり、全く効き目はなかった。だが今は拳に威力があり、確実にポーに効いていた。
ポー「(俺も元拳闘士だったが、拳闘技術は守が上だ……だが!)」
ポーはカウンターを貰いながら、強引に左フックを繰り出した。俺はガードして防いだが、左へ大きくのけ反る。
そこからポーは力任せに、先程よりも強い連撃を放っていく。俺のガードはたちまち崩され、ガードの隙間から右打ち降ろしを喰らってしまった。
守「……!(強烈な一撃だ……だが、勝負はこれからだ!)」
俺はノーガードで、両方の拳をポーへと連撃で繰り出していく。ポーもそれに応じて、ノーガードで両方の拳を振るっていった。お互いの拳が交錯し、お互いの顔や身体に次々と、拳が叩き込まれていく。
「わあああぁぁぁっ!!」
「いいぞぉ!!もっとやれえぇぇっ!!」
ミズキ「はわわわ……ムゴイ……」
イース「……お二人とも……頑張って下さぁい!!」
大きな歓声の中、イースが一際大きな声で、お互いを応援した。
ミズキ「……!イースちゃん!?」
「……!……いいぞおぉっ!!お互い頑張れぇ!!」
「お互い負けるなぁぁ!!」
歓声の掛け声も変化していった。イースの一声がきっかけで、戦いに対しての歓声から、今戦っている俺とポー、二人への声援に変わっていった。
ミズキ「……!……二人とも頑張ってえぇっ!!」
ポー「周りの声が声援変わった……守。お前が望んでいたのは、こういう事だったのか……。」
守「俺に出来る事をやろうと……周りの人達を元気付けられて、より団結してくれたら良いなとは、思っていたが……良かった。
あとは……全力で納得がいくまで、殴り合おう!!」
ポー「おう!!」
俺とポーは殴り合いながら、その様に会話した。
そこからは更に凄まじい打撃戦となった。
ポー「(だが、力で勝るであろう俺の方が、ノーガードの殴り合いでは有利……このまま押し切らせて貰う!!)」
ポーは更に力を込めて、連撃を繰り出す。
守「……。(拳の威力が更に強くなった……!……だが、負けられない!!)」
お互いの顔や身体は、激しく損傷していく。
ミズキ「…………!……頑張ってぇっ!二人ともぉ!!」
イース「お二人とも……頑張ってくださあぁぁい!!」
連撃の中、一際強烈な右打ち降ろしが、俺の顔に叩き込まれた。
守「……!(これは……効いた……身体が動かない……)」
ポー「……!(チャンスだ!)」
ポーは追撃の拳を振るった。その右拳は、またしても俺の顔に叩き込まれた。
ドゴオオオォォォッッ!!!
ミズキ・イース「!!」
守「(……だが……負ける訳にはいかない!!)」
俺は体幹と両脚に力を込め、倒れずに踏ん張っていた。
ポー「……!」
守「ポー……そろそろ決着をつけるか。」
ポー「……あぁ!勝つのは俺だぁ!!」
そしてポーは右の打ち降ろし、俺は右のオーバーハンドを繰り出していく。お互いの拳は交錯し、それぞれの拳がお互いの顔に叩き込まれた。
ドゴオオオオオォォォッッッ!!!
……………………。
強烈な打撃音が響いた。同時に歓声は止まり、辺りに静寂が立ち込める。
ポー「………………くっ……。」
ポーが崩れ落ちる。俺の方は何とか立っていた。
守「…………。」
俺は無言・無表情で正拳突きの構えをとる。
直後、全力の正拳突きを、崩れ落ちているポーの顔面へと繰り出していく。
ポー「…………(……くっ……身体が……)」
手下「兄貴ぃぃっ!!」
ミズキ・イース「守さん……!」
ハンス「…………。」
ブウウウウウウウゥゥゥンッッッ!!!!
強烈な風打音がこだまする。
俺は右拳を……ポーの顔面の直前で、寸止めした。
ポー「…………。(手下達の前で、示しがつかないが……これを喰らったら、俺は気絶して負けていただろう。大怪我も負っていただろう…………負けを認めなきゃ、もっと示しがつかないな……)
…………俺の負けだ……参った…………。」
ハンス「……ポー氏が降参した為…………勝者……守氏!!」
「わああああぁぁぁっっ!!!」
ハンスが決闘終了の合図をした直後、大歓声が湧き上がった。
ミズキ「守さん……!!」
イース「守さぁぁん!!良かったぁ……!!」
ミズキとイースが、俺の所に駆け寄り、二人とも俺に抱きついてきた。
ミズキ「心配しました……けど、無事で良かったです……!」
イース「凄い戦いでした……僕も勇気を頂きました!……お疲れ様です……!無事で良かったです……!」
守「有難う二人とも。何とか勝てて、良かったよ……。」
ハンスも俺の元へ歩み寄り、労いの言葉を掛けてくれた。
ハンス「守さん。お疲れ様。素晴らしい戦いだったよ。」
守「ハンスさん、有難う御座います。何とか勝てました……。」
ポー「…………。」
ポーを見ると、崩れ落ちたまま、下を向いてた。
声を掛けようかと、迷っていた時……手下達がポーの元へと駆け込んでいった。
ポー「お前ら……俺は……負けた。お前達に示しがつかねぇな……親分はもう他の奴らに……」
手下「親分!!すげぇ戦いでした!!……負けを認めた潔さも……格好良いですよ!!負けたって、親分はいつでも俺達の親分です!強い所も格好良い所も、みんな含めて、オイラ達の憧れなんですから!!」
ポー「……お前ら……!」
便乗して、俺達もポーの元へと赴く。
守「やっぱり……ポー、お前は強いよ。紙一重の勝負だった。今回の決闘……承諾してくれて、有難う。」
ポー「守……最後寸止めしてなけりゃ……俺は大怪我だったな。あの寸止めの一撃は……一番効いたぜ。
お前はやっぱり強かった。良い戦いを、有難うな。」
守「こちらこそ!良い戦いを……有難うな!これからも……お互い頑張ろうな!!」
ポー「あぁ!お互い頑張ろうな!!」
最後はお互いに、ガッシリと握手を交わした。
「お互い良く頑張ったあぁ!!!」
「熱い戦いを、ありがとよおおぉ!!!」
「俺達も復興、頑張るぞおぉっ!!!」
今日一番の歓声が湧き上がった。
そこには3日前の暗い雰囲気は払拭され、これからの未来を作っていこうという活気に満ち溢れていた。
守「(あれは……?)」
歓声が湧き上がっている中、光の玉の様な物が、いくつか辺りに浮いていた。それは俺達を見守っているかの様に、見受けられた。
ポーとのリベンジ戦は、紙一重で俺が勝利し、幕を閉じた。
……はじめは、個人的なリベンジ戦のつもりが、いつしか、周りを巻き込む所までに発展していった。今日の歓声や、周りの人達の表情を見て、俺はこの戦いの意味を、改めて感じ取っていたのであった……。
…… 第五章 第十六話へ続く




