エピソード 守⑥ 「絆」
父親の対応については、否定意見もあるかと思います。
この物語はフィクションです。その点を、御理解頂けたらと思います。
堂田に凄惨な暴力を振るわれてから、1週間が経った。
俺は再び登校する。登下校は翔がついていく事になった。
母親「本当に……有難う。宜しく御願いします。」
翔「とんでもないです。守君があんな事になったのは……離れてしまった僕の責任です。この位の事は、やらせて下さい。」
登校して教室に入り、暫くすると堂田達も入ってきた。
特に堂田は物凄い形相で、俺達を睨んでいた。その異様な雰囲気に、周りの同級生も落ち着かない、という感じであった。
翔「守。放っておこう。」
守「うん……。」
俺達は堂田を見ない様にしてくると、堂田は俺達の方に近づいてきた。
堂田「おい、テメェら。また何か企んでるんじゃねえだろうな!?」
翔「……。」
堂田「おい!無視か!?俺を侮辱する気だなぁ!?」
堂田は俺の胸ぐらを掴んできた。
守「……!」
翔「……!……守。わりぃ。俺の方が限界だわ。」
守「えっ……?」
翔は堂田の腕を、思いっきり強く掴んだ。
堂田「いてぇ!何しやがる!」
翔「おい……何で一言も謝罪がねぇんだ?何か企んでる?それはコッチのセリフだ。テメェこそ、また守に暴力を振るおうとしてるんじゃねぇのか?今度おかしなマネしてみろ?容赦しねぇぞ。」
翔は強烈な圧を、堂田にぶつけた。
堂田「ぐっ……!(こいつ……ヒョロイのに……力がつえぇ!……しかもなんだ?この気迫は……)」
堂田は気圧されていた。
教員「おい!お前ら!何してるんだ!」
教員が教室に入り、叫んだ。
直後互いに手を離し、各々が席へと着いた。
堂田「(クソ…………だが、キザ野郎をボコすのは計画が必要だ……焦る事はない……)」
登下校は翔が一緒にいてくれたお陰で、俺は堂田達から暴力を受けずに済んだ。
そして土曜日となった。俺は翔と一緒に、合気道の道場へと赴いた。
守「……本日から……お世話になりましゅ!北条守でしゅ!!……よ、宜しく御願いしまふ!
(うわぁ……噛んじゃったぁ……)」
「はい!宜しくね!守ちゃん!(…………可愛い!!!)
私は師範の、流川水葉です!」
師範は女性であった。今思うと……風貌や雰囲気がミズキに似ていた感じがする。
翔「師範。守は運動が苦手です。優しく指導して頂けたら幸いです。」
水葉「うん!分かったよ!翔ちゃん!……守ちゃんは素直で優しい子なんだね!直ぐに分かっちゃった!翔ちゃんは一見クールなんだけど……優しくて熱い心の持ち主なんだよ!」
守「はい!存じております!」
翔「…………(恥ずかしいな。)……師範、そろそろ稽古を……」
そんなやり取りの後、稽古に入った。
先ずは柔軟から始まり、その後は水葉師範に、手取り足取り、合気道の動きを教えてもらった。
受け方、掴み方、力の逃し方、相手を倒した後の対応等、説明や指導が凄く分かりやすかった。
水葉「相手が拳を振るってきた時……横に躱して、同時に相手の手首と腕をこの様に掴みます。」
一つ一つの動きを丁寧に教えてくれた。
そしてあっという間に初日の稽古が終わった。
守「水葉師範!有難うございましたぁ!」
水葉「はい!お疲れ様でした!また水曜日に宜しくね!」
守「はい!宜しく御願いします!!」
水葉「(……やっぱり……可愛い!!)」
翔「師範……目が……怖いです。」
そして俺は帰路に着いた。
父親と母親は心配していたが、師範が優しい人だと聞いて、安堵していた。
そこから俺は水曜と土曜は合気道の稽古、それ以外は父親が考えたメニューをもとに、体力と筋力作りに励んだ。時折擦り傷が出来たりした時は、母親が優しく手当てをしてくれた。
父親が考えたメニューの中には、「感謝の正拳突き一日100回+α」というものもあったが……俺は真面目に取り組んでいた。
そして、3ヶ月が過ぎた頃だった。俺は短期間の間に、日々の鍛錬のお陰から、少しずつ強くなっている感覚があった。自信も少しずつ着いてきた。
「守くん、何か雰囲気変わったね……」
周りも変化を感じ取っていた。
堂田「ちっ……弱虫野郎のクセによ……おい、テメェら。今日……手筈通りやるぞ。」
その放課後であった。俺は翔と一緒に学校から出ようという所だった。そこに堂田達が待ち構えていた。
堂田「おい。てめぇら。待てよ。俺は今からウサギを痛めつけようと思う。止めたければ来い。」
守・翔「……!!」
学校で飼育されていたウサギは、俺達が常に気にしていた。堂田達は先のウサギ小屋の一件以来、教員に目を付けられていた為、手出ししないと思っていたが……
翔「……守!いくぞ!」
守「うん!分かった!」
俺達は急いで小屋へと向かった。
小屋の近くに着くと、堂田はウサギ小屋を強く叩いていた。ウサギは怯えていたのが、直ぐに分かった。
堂田「テメェらが大人しくしてりゃぁ、クソ獣は手出ししねぇよ!テメェら!2人を引き離せ!」
俺達は抵抗出来ず、堂田グループの奴に引き離される。
そして堂田の指示と同時に、俺達は羽交い締めの状態で、複数人に殴られる。
ボコッ!ボコッ!
翔「(守は、大丈夫か!?……ふっ。目は……生きてるな。)」
守「……。(耐えるんだ……堂田君は必ず直接近付いてくる!)」
……合気道の稽古の際に、想定出来る場面での対応を、練習していた。その中に自分達は羽交い締めにされ、大事な人を人質に取られた場面も含まれていた。
堂田「耐えるな……まぁ弱虫野郎は直に根を上げるだろう。大人数でキザ野郎を抑えとけ!俺は直接、弱虫野郎を痛めつける!」
翔の方へ更に、取り押さえる人数が多くなった。
翔「(この程度の力ならすぐ抜け出せるが……今回は守に委ねよう。チャンスは…………)」
守「(…………一度きり!)」
俺を取り押さえる人数は2人になった。堂田は両手指の骨を鳴らしながら、俺に近付いてくる。
守「……まだ……引き付けて…………………………。
……!今だ!」
俺は隣の2人の両腕をすり抜け、交互に肘打ちを鳩尾へと見舞った。
「ぐううぅぅっ!?」
隣の2人は悶えて倒れた。
堂田「……!!このヤロウ!!ぶっころおぉぉす!!」
堂田は怒りに任せて、右拳を振るってきた。
守「(道場で何度も反復した…………ここだ!)」
俺は横へと躱し、同時に堂田の右手首と腕を掴み、堂田の力を利用しながら、後ろ下へと地面に叩きつけた。
堂田「ぐべえぇぇっ!!?…………この……このヤロウおおおぉぉぉ!!!」
堂田は怒り狂い、俺の手を振り払い、後ろを向いて立ち上がった。
しかし、俺は日頃行っていた正拳突きの構えに入っていた。そのまま堂田の鳩尾へと、右拳を叩き込んだ。
堂田「ぐぼおおおぉっ!!?」
堂田が悶えながら、後ろへ倒れ込む。
そして俺は無言・無表情で、堂田の顔面目掛け、追撃の正拳突きを、全力で繰り出そうとした。
堂田「(苦しい……はっ!まずいぃぃ!?)……ひぃ!!……話せば……ごほっ……わかるううぅ!!」
ブウウウウウウゥゥゥンンッ!!!!
俺は堂田の顔面の直前で……拳を止めた。強烈な風音が辺りに響いた。
堂田「(あんなの喰らったら……)……ひぃ……ひいいぃぃっ!!!」
堂田は立ち上がり、後ろへ回り込むと、一目散に逃げていった。
「堂田君!!……まってえぇっ!?」
周りの奴ら達も、ついていく様に逃げていった。
翔「うん!練習通りだな!やったな!守!」
守「有難う!翔!上手くいったよ!」
俺達は拳を突き合い、勝利を分かち合った。
その後、事の顛末を教員や、両親に報告した。
母親「守……!その傷……!痛かったでしょう……無理して……でも……無事で……本当に良かった……!」
母親は俺を抱き締めて、優しく声を掛けてくれた。
父親「……頃合いだな。教育委員会へ報告する。守……悔いはないか。」
守「うん!リベンジ出来たから!」
父親「おう!良くやったな!リベンジ……達成だ!後は俺達、大人に任せておけ!」
父親は俺の頭を撫でてくれた。
その後教育委員会の監査が入り、暴力を振るっていた堂田達や、今まで見過ごしていた教員は、厳戒処分を受けた。俺達は中学校以降も、堂田達と鉢合わせない様に、遠い地域に引越し、転校する事になった。
それでも行こうと思えば、土曜は可能であったが……時期が重なり、水葉師範は道場を休業する事になった。
最後の稽古には、翔と俺の両親も見学に来ていた。俺達は噛み締める様に、最後の稽古に取り組んだ。
そして、別れの時がやって来た。
父親「本当に有難うございました。師範にも何とお礼を言っていいか……」
水葉「いえいえ!息子さんが無事で良かったです……無事でいてくれて……今の清々しい顔を見る事が出来て……本当に良かったです……」
水葉師範は涙を流しながら、翔と俺を抱き締めた。
水葉「翔ちゃん……守ちゃん……本当に良く頑張りました……。でも今後は、無理はしないでね……。2人が元気でいてくれて、幸せになってくれる事が……私からの御願いです。……元気でね。……ありがとう。」
翔「はい……師範もお元気で。有難うございました。」
守「有難う御座いました!!……師範もお元気でぇっ!」
翔は必死に堪えながら、俺はボロボロ泣きながら、別れの挨拶をした。
その後、翔と翔の両親にも今までのお詫びと、これからに向けて改めて挨拶をし、別れた。
父親「……良い師範だったな。守。お前の誇りだな。」
母親「そうね。翔くんや御両親も立派な方達ね……。守の誇りね。」
守「うん!僕の自慢の人達!それに……」
両親「……それに……?」
守「お父さんと、お母さんも、僕の自慢だよ!励ましてくれるお父さんと、優しいお母さん!」
両親「……!……守ぅ!!」
両親はうっすら涙を流し、俺を撫で抱き締めた。
守「ははっ!くすぐったいよぉっ!」
こうして、小学生時代の俺のリベンジは幕を閉じた。
強くなる道を示してくれて、一緒に戦ってくれた翔。
丁寧な稽古を、優しくつけてくれた水葉師範。
そして励まして協力して、助けてくれた父親。どんな時も心配してくれて、優しくしてくれた母親。
様々な人達との絆を噛み締めながら、俺は新しい土地へと旅立っていくのであった……
…… 第五章 第十四話へ続く
次回は本編に戻ります。




