第五章 第十四話 永遠の別れ
俺達は、親玉ワイドネス率いる魔物軍を全滅させ、ガーサル領奪還を果たした。
しかし、総勢100名で挑んだ奪還作戦は、師匠を含めて35名の死者が出た。
俺達は戦いに勝利したものの、二度と取り戻す事の出来ない、とてつもなく大きな代償を払ったのであった。
悲壮感漂うガーサル領内では、重軽傷者の治療を進められていた。治療を終えた者は、物資の整理や、重傷者の治療の手伝い等を行っていた。
また皆の顔は曇り、疲弊しており、勝利した喜びは微塵も感じられなかった。
イース「守さん……大丈夫ですか……?」
最後の最後に、渾身の攻撃を放ったが、元々重傷者であったが故に、俺は殆ど動けずにいた。
守「あぁ。有難うイース。俺は大丈夫だよ。」
俺は落ち着かせる為に、イースの頭を撫でた。
ハンス「今回亡くなられた方以外では、守さんが今回も最も重傷だ。本当に今回も……貴方ばかりに負担をかけさせてしまい……申し訳ない。」
ハンスが深々と頭を下げる。
ミズキ「……私はハンターなのに……守さんやイースちゃんに負担を掛けてばかり……本当に、申し訳ありません……。」
続いてミズキも深々と頭を下げる。
守「二人とも!頭を上げて下さい!ワイドネスを討ち取る事が出来たのも、お二人の活躍あってこそです!俺だけだったら、絶対に勝てませんでした!」
俺は急いで、二人の頭を上げさせた。
ハンス「ワイドネスの呪いは……守さんの激と同時に、どうやら消えたみたいだ。恐慌状態にあった方達も、解除されたみたいだ。有難う。」
ミズキ「有難う御座いました。守さんは……やっぱり凄いです。」
二人は俺に感謝を述べてくれた。しかし、師匠が亡くなった事があり、眼は赤く、表情も悲壮感が漂っていた。
俺は、ワイドネスが最期に言っていた、他の者が襲撃に来る可能性がある事、守りをより強固にした方が良い事を伝えた。
ハンス「既に無線貝で、勝利した事を、サウスマンド移住者の代表者と、ハンターズギルドに報告した。ワイドネスが言っていた事も、改めて代表者やハンターズギルドに報告しておこう。
一先ず、私達の中で動ける人達は協力しながら、亡くなった人達を集めよう……」
俺は治療の為動く事が出来なかったが、動ける者達で協力しながら、死亡者を移送する。移送される死亡者の中には、目を閉じたまま動かない師匠もいた。
イース「ひぐっ…………師匠……!」
ミズキ「………………うぅっ……!」
ハンス「……………………。」
先程大量の涙を流したにも関わらず、師匠の顔を見るたびに涙が出てくる。……それだけ師匠の存在は、皆の中で大きかった。
やがて、死亡者全員を並び終えた。俺も近くで師匠の顔を見る。
守「………………。」
俺の目にもまた涙が流れる。止めようと思っても、止められなかった。
死亡者が入る棺桶は、サウスマンドの都から、明日の朝にこちらへ届く。それまでは、死亡者には簡易的な布を被せ、覆った。
一通りの作業を終えた後、ハンス達はマジックアイテムである拡張袋から、テントを取り出した。
その日は非常食を皆で食し、その後は各自テントに入り、夜を過ごした。ハンスとミズキ、イースと俺は4人で同じテントに入った。
「…………。」
その時は皆無言だった。疲弊していたのもあったが、大きなものを失った悲しみが付き纏う。
そして夜が明けた……
次の日の朝……サウスマンドから緊急で来た移住者が、棺桶を運んできた。俺も少しずつ動ける様になり、死亡者を棺桶に入れる作業を手伝った。
守「…………。」
葬儀は3日後に行われるという。葬儀の終わりに、直接墓へと埋め、土葬を行う。俺が前にいた世界とは文化が違う様だ。師匠の顔を見るのは、葬儀の時が最後になる。
そこからは、復旧作業が進められた。各地に魔物が住んでいた影響が出ていたが、移住者や救援者が続々と到着した。その中に、俺達が移住を手伝った、酒場の店主の姿もあった。
店主「ゲンジ殿の事は……聞いております。お悔やみを申し上げます。またここで酒場を開く時に、お越し頂きたかった……せめてもの花向けに、復興と葬儀の手伝いをさせて頂きます。」
守「有難う御座います……御協力感謝致します。」
俺達は協力して、徐々に元のガーサル領への姿を戻していった。
葬儀に備え、死亡者の顔や身体、棺桶の中を、専門家が整えて保存作業も行っていた。また、俺達は墓の建設を急いで進めた。
そして、奪還作戦から3日後……復興作業はまだまだ途中である中、葬儀が行われた。
ハンス、ミズキ、イース、俺が師匠の顔を間近で見る。……棺桶の中にいた師匠は、専門家が丁寧な保存法を施していたお陰で、綺麗な顔をしていた。周りには弔い様の花が沢山添えられていた。
守「…………。師匠、今まで有難う御座いました。…………ゆっくり……休んで……下さい……。」
そして葬式の終わり……棺桶を墓に入れる手前で、再び最後の面会をした。
イース「…………ひぐっ…………ひぐっ……師匠…………師匠おおおぉぉぉっ!!!」
イースは余程我慢していたのだろう。堪らず大声で泣き叫ぶ。
ミズキ「イースちゃん……!」
ミズキはイースを抱き締める。俺やハンスも続いて、イースに駆け寄った。
守「イース……辛いよな……。だが俺達は師匠に、大変お世話になった。きちんと、師匠に最後の挨拶をしよう。」
ミズキ「守さん……」
イース「すみません……分かりました……。」
そして俺達は改めて、師匠の顔を見て、最後の挨拶をした。
ハンス「老師……貴方の残してくれた物、託された物……この身に、そして心に刻んでいます。どうか安らかに……ゆっくり休んで下さい。」
ミズキ「老師……不甲斐ない私を、いつも厳しく、そして優しく指導して頂きました……老師と出会えて本当に良かったです……。今まで大変だった分……ゆっくり休んで下さい……。」
イース「……師匠……ひぐっ……こんな僕を……愛弟子と呼んでくれて……有難う御座いました……。厳しかったけど、優しい……師匠……僕……師匠のこと、忘れないです…………皆さんの為に……精進します……。ゆっくり休んで下さい……。」
守「師匠。貴方と出会えて本当に良かったです。俺を最高の弟子と呼んで頂き、有難う御座いました。修行は厳しかったけど、貴方はどこまでも優しい人でした。
このご恩、一生忘れません。貴方が下さった恩……今度はこの世界の方々へと返していきます。……ゆっくり休んで下さい。」
……そして、棺桶は墓へと入れられた。
……大事な人を失うのは……いつまでも慣れないものだ。
そこにいた全員、それぞれの想い人を慈しみ、悔やみ、そして号泣した……
葬儀が終わった後、俺はポーを呼び出した。
守「ポー。身体の具合はどうだ。シシオウから受けた咆哮の影響はあるか?」
ポー「あぁ。ハンスから貰った薬のお陰で、だいぶ楽だ。身体も具合が良い。お前は大怪我してたが、どうだ?」
守「俺もだいぶ戻ってきた。こんな時だからこそ……3日後に殴り合うのはどうだ。その頃にはお互い、本調子になるんじゃないか?お互い武器や能力は使わない……純粋な殴り合いで、どうだ?」
ポー「こんな時だからこそ……だな。いいぜ。純粋な殴り合いだな!了解した!良い戦いにしようぜ!」
ポーは承諾してくれ、俺達はガッチリ握手を交わした。
そして葬儀が落ち着き、再び復旧作業に入った。
だが、心なしか皆の表情は暗く、重い雰囲気が漂っていた。そんな中、「俺とポーが武器や能力を使わず、素手のみの決闘を行う」という話が、各箇所で広まった。
「前衛のリーダーと後衛のリーダーの戦いかぁ。特に後衛のリーダーは、大車輪の活躍だったからなぁ。でも殴り合いに関しては、前衛のリーダーも力があるしなぁ。
……こりゃぁ面白くなりそうだ!」
「確か前に……守さんは、ポーさんに酷くやられてたなぁ。……その雪辱戦ってわけか!」
「(兄貴……信じてますぜ!)」
話を聞いていた者は、それぞれ予想しながら、楽しみにしながら復旧作業に入っていった。
そして、決闘の前日を迎えた。俺はハンスに立会人を御願いし、承諾を得ていた。ハンスやミズキ、イースは俺の事を激励したり、心配してくれた。
ハンス「いよいよ明日だね。楽しみにしてるよ。」
ミズキ「守さん……無事でいて下さいね……決して無理なさらないで下さい……」
イース「僕も……守さんには、無事でいて欲しいです。無理しないで下さいね……」
守「有難う御座います。……無理しないのは……出来るだけ努力します。ただ、ハンスさんに立ち会いを御願いしてるので、危ない場合は止めて貰いますから。」
そんな会話をした後、俺達は床に着いた。
守「ここに来たばかりの戦いで負けた……そのリベンジだな……。……リベンジか……小学生の時にも……あったな。そんな事が……。」
眠りにつく前、俺はふと小学生時代の頃の記憶が蘇り、思い出していた……
…… エピソード守⑤「リベンジ」へ続く
次回は守のエピソード編となります。




