第五章 第十三話 代償
守「………………。…………親玉ワイドネスを討ち取ったぞおぉぉっ!!俺達の……勝利だああぁぁっっ!!!!」
遂に親玉ワイドネスを討ち取った。
ガーサル領を占領した魔物は全て倒され、俺達はガーサル領奪還を果たしのだ。
一同「うおおおおぉぉぉっっっ!!!!」
俺は、皆と共に勝ち鬨を上げる。
直ぐに俺は、ハンス、ミズキ、イースと一緒に、師匠の元へと駆け込んだ。
守「師匠!!………………俺達……やりましたよ!!
……勝ちましたよ!!」
ゲンジ「うむ……しかと……見届けたぞ。待っていると……約束したからな……。」
師匠は自身の生命力を使い果たし、精魂尽き果てた状態だった。顔面は蒼白で、辺りには夥しい出血や肉片が散らばっており、身体は原型を留めていなかった。
ミズキ「老師…………老師ぃっ!!」
イース「師匠………………」
ハンス「私が……不甲斐ないばかりに……!!」
ミズキやイース、そしてハンスも涙を浮かべ、師匠に声を掛けた。その声はどれも震えていた。
その震えた声の主達に、師匠は優しく微笑みかけながら、声を掛けていく。
ゲンジ「ハンス……自分を責めるな……。お前は本当に、良くやってくれた。いつも大変な役回りばかりさせて……本当に申し訳なかった……。お前は本当に優秀じゃ……。頼んでばかりで、本当に申し訳ないが……玄龍国の事も、守やイース、ミズキの事も……頼む……。」
ハンス「優秀だなんて……勿体無いお言葉です!!
……ですが、その頼み…………しかと承りました……!」
ハンスは涙ながらに頷いた。
ゲンジ「ミズキ……いつも美味いご飯を……ありがとな。お前は直ぐに熱くなる癖がある…………じゃが、お前のそういう所は……情が深いという事にも繋がるんじゃ……。これからもその情を……皆の為に……使っていくのじゃぞ……。ハンスや守、イースの事も……宜しく頼むの……。」
ミズキ「うぅ…………はい……………………はいっ……!!」
ミズキは大粒の涙を大量に流しながらも、懸命に応えた。
ゲンジ「愛弟子……イースや……。お前は大変優しい心を持っておる……時にはその優しさに付け込まれ……大変辛い目にあったのぉ……じゃが、厳しい修行と戦いを経て……お主は強い心も手に入れた。これからもその優しさと強さで……皆の為に……守と一緒に精進してほしい。ミズキの事も……宜しく頼むな……。」
イース「えぐっ…………うっ………………はいっ……!!」
イースも大粒の涙を大量に流しながら、絞り出す様に応えた。
ゲンジ「最高の弟子……守や……。お主は強い心と優しい心を併せ持つ、立派な闘士じゃ……。お主は……ワシの憧れた……師匠に……大変似ておる。……ワシやスイゲン以上の傑物になると言ったのは……本心じゃ。玄龍国にも……そのうち立ち寄ってほしい……お主は救世主になる筈じゃ……。
この先、どんなに辛い事があっても、優しい心を忘れず……皆の為に……イースと共に精進してほしい……。
ハンスやミズキの事も……宜しく頼むな……。」
守「……はいっ!!……精進します!!……まだまだ及びませんが……いつか…………きっといつか……!師匠を……超えてみせます!!!」
俺は涙を流しながらも、笑いながら懸命に応えた。
ゲンジ「待っているという約束は……何とか果たせたが…………一緒に生き残り……共に未来を作っていく……という約束は……守れない……。本当に……本当に、申し訳ない…………。」
皆が首を横に振る。
ゲンジ「ワシの最期は…………最高に…………幸せ……じゃ……。皆と出会えて……本当……に……良かった………………ほんと……う……に……あり……が……と……う……………………………………」
守「………………!!………………師匠…………こちらこそ…………本当に……ありがとう……ございましたあああぁぁぁっっ!!!!」
ハンス・ミズキ・イース「……本当に……ありがとう……ございましたあああぁぁっっ!!!!」
俺達は腹の底から、師匠に最期のお礼を告げた。
師匠は俺達の礼を聞き取ると、笑顔を見せ、直後両目を静かに閉じた。安らかな顔であった。
もう師匠は言葉を発する事はない。目を開ける事もない。…………師匠は………安らかな顔をしたのを最期に………………亡くなった。
イース「うっ……うっ……………………うわあぁぁぁぁ!!!師匠…………ししょおおぉっっ!!!」
ミズキ「ううっ……うぅっ……!!老師……老師ぃっ!!」
ハンス「ぐっ…………老師…………」
皆、涙を流しながらも、師匠の前で我慢していたのだろう。込み上げてきた感情が、一気に吹き出していた。
守「…………師匠……貴方の事は忘れません……絶対に忘れません………………!!」
俺も笑顔でいられなくなり、大量の涙を流した。
ポー「………………。お前達の分まで……生きるからな…………見守ってくれ……………………ぐっ……うっ……うううっ!!!」
俺達の周りも、今回の作戦で亡くなった人達を、悔やむ味方達で溢れていた。
総勢100名で挑んだ奪還作戦は、師匠を含めて35名の死者が出た。他は全て重傷者と軽傷者であった。
ただ師匠が、命を掛けて行動していなかったら…………俺達は全滅していただろう。今回の戦いは……それだけ過酷で、紙一重の戦いであった。
戦いという悲惨なものを……改めて認識させられた……そんな長い、長い一日となった………
俺達は戦いに勝利したものの、大切なものを失い、それはもう二度と取り戻す事は出来ないという現実を……突き付けられたのであった………………
…… 第五章 第十四話へ続く




