第五章 第九話 親玉
シシオウとの死闘を制した俺であったが、多数の裂傷や大火傷を負い、シシオウが消えた直後、糸が切れたかの様に崩れ落ちた。
守「…………くっ……(……動けない……!)」
辛うじて意識はあったが、身体が全く言う事を効かない。
ワイドネス「シシオウ……討ち取られはしたが、良くやったぞ。完全ではないが、私の魔力も戻ってきた。これで厄介な光の者を、亡き者に出来る……。」
ワイドネスが右腕を上げ、そこから下に降ろすと、上空から黒い球体状の闇魔法が、俺の方に向かって降り注いだ。
ゲンジ・守「…………!!」
ミズキ・イース「守さああぁぁんっ!!!」
ワイドネス「逝くが良い!!」
闇魔法が地面とぶつかり、衝撃音と広大な土煙が立ち込めた。……だが土煙が晴れた先には、俺はもう既にそこにはいなかった。
「大変遅くなりました。皆さん……。」
ミズキ・イース「あぁっ……あぁっ……!!!」
俺を助けてくれたのは、呪いを受けて戦闘不能になっていた……ハンスだった。
ハンス「(殆どの者は……恐慌状態か……!……老師と守さんは何て状態なんだ……特に老師は…………)
……ミズキ!イース君!今、結界を解除させる!」
ハンスは俺を置いていくと、ミズキとイースの元へ向かい、結界前で強く念じた。直後ハンスが結界に触れると、2人を覆っていた結界は消えたのだった。
ハンスは結界術を解除させる術を、会得していたのだ。
ワイドネス「……!(あの者……ダラスを討ち取った……確か呪いを受けていた筈…………おそらく万全ではない。)」
ハンス「よし!目の前の敵が……ワイドネスだね。2人ともすまないが、少し踏ん張ってくれないか。ただ無茶はしない様にね。俺もすぐに加勢する!」
ミズキ・イース「分かりました!!」
ハンスはミズキとイースに頼み込むと、また師匠と俺の元に駆け込んだ。
ゲンジ「スコットと……ケニーは……やられた……。ハンス……ミズキも手当て……してくれたが……ワシにはもう……薬は効かん……生命力を……使い過ぎた……代わりに……守を……」
ハンス「………………!…………分かりました……。スコットとケニーの事は、無線貝で最期の連絡を取ったので、存じております……。……守さん、これを。」
ハンスから傷薬を手渡された。俺は生きるか死ぬかの超重傷であったが、少しずつ傷が塞がっていった。
守「……ありがとう……ございます……。」
ハンス「守さんの方も超重傷だから、動ける様になるだけでも、相当時間がかかると思う。ワイドネスはミズキとイース君、そして私で戦う。師匠……私は恐慌状態に効果がある気付け薬を、皆に渡してから参戦します。」
ゲンジ「うむ……ハンス……武運を……いの……る……」
ハンス「はい……!」
ハンスはマジックアイテムである拡張袋から、気付け薬を取り出した。そして周りにいる、恐慌状態に陥っていた味方達に、気付け薬を使用していった。気付け薬は防衛戦後、ハンスが用意していた物だった。
ポー「……すまない。……自分が情けない……」
ハンス「いや。恐慌状態はそれだけ恐ろしいものだ。薬を使っても、後遺症が残る者だっている。」
ポー「お陰でだいぶ……楽になった。……守があんなになって……ゲンジも…………ただ見てるしか出来ない自分にイラついてるんだ!…………俺も親玉と戦うぞ!!」
ポーの眼は光を取り戻していた。
ハンス「……!(薬を飲んだだけなのに、もう動ける程に……気迫と自分に対しての怒りが……気付け薬との相乗効果で、恐慌状態をこんなに早く克服したのか……)
……分かった。先にミズキ達に加勢してくれ。だが無理はするなよ。」
ポー「おうよ!!」
ポーは勢いよく、駆け込んで行った。
ハンスは急いで残りの味方に、気付け薬を手配した。
side:ミズキ
満身創痍の守さんが、ワイドネスの闇魔法を受けてしまう直前……ハンスさんが助け出してくれた。
ハンスさんは私達を覆っていた、憎き結界を解除してくれて、一旦私達にワイドネスの相手を託すと、老師と守さんの元へと掛けて行った。
ミズキ「イースちゃん……無理は駄目だけど、ハンスさんが加勢に来るまで、何とか私達だけで踏ん張りましょう!」
イース「……はい!」
私達はワイドネスと相対する。
ワイドネス「ふむ……楽しませてくれるのだろうか。少し遊んでやろう。」
私達はまず、遠距離攻撃からの様子見を行う。
ミズキ「水月刃!!」
イース「はぁぁっっ!!」
私は水色の数々の刃を連続で、イースちゃんは白銀の息を、ワイドネスに見舞っていく。
ワイドネス「ふん。造作もない。」
私の水月刃は黒い球体で、イースちゃんの白銀の息は黒い霧で、それぞれ掻き消された。
ミズキ「(……ならば!!)」
私は速い踏み込みで、ワイドネスとの距離を詰める。
ミズキ「水月斬!!」
先程よりも、強力な水色の斬撃を放つ。
しかし今度は、ワイドネスは結界を出現させ、斬撃は塞がれてしまった。
ミズキ「(師匠や守さんが使っていた、守護壁と似ている……いや、守護壁と、こんな結界は似ていない!この結界は忌々しく邪悪な気配がする!!こんな結界打ち破ってみせる!!) ……はぁっ!!」
私は数々の斬撃を、ワイドネスに見舞う。
ワイドネス「速いな……だが力不足だ。さしずめ貴様は、脆い人間や下級魔物にとっては、かなりの強者になるんだろうが……今この場で戦える者の中では……最弱だ。」
ワイドネスは結界を解き、黒い球体魔法を私へと放つ。
ミズキ「……!!」
イース「ミズキさんは……弱くなんかありません!!」
私とイースちゃんが闇魔法の間に入り、右腕で闇魔法を……殴打した。
キイイイィィィィンッ!!
激しい金切り音の様な音が、大きくこだまする。
そしてイースちゃんは、闇魔法を跳ね返した。跳ね返った闇魔法は、ワイドネスの結界に激突し、消滅した。
ワイドネス「(光の力か……ドラゴンの方は少し厄介そうだが……恐るるには足らん。)」
今度は、ワイドネスは直線状の闇魔法を放ってきた。
イース「くぅっっ!!」
ミズキ「イースちゃんっ!!」
イースちゃんが両腕で闇魔法を受け止めていたが、今度は耐え切れず、その場で爆発が起き、私達は後方へと大きく飛ばされてしまう。
ワイドネス「さて、同時に死んでもらうか。」
ワイドネスは私達の前に、黒く禍々しい巨大な鎌を出現させた。直後、鎌は私達を切り裂く様に襲い掛かった。
ミズキ「くっ!(……防ぎ切れるか!?)」
ガキィィィン!!
私は防御の構えを取っていたが……刃が迫る直前、私達の前に立っていたのは、ポーだった。ポーは鉄球で鎌を防ぐと、今度は鎌を破壊しようと、鉄球を振り翳した。
ポー「おらぁぁっっ!!」
鎌は破壊されるには至らないものの、大きく後ろへと飛ばされ、回転しながらワイドネスの元に向かった。
ワイドネスは何食わぬ顔で、向かってきた鎌を掴んだ。
ワイドネス「私の元へ返却、ご苦労。(恐慌状態から動けるのか……ふむ。こいつは力が多少あるだけで、恐れる事はないがな。だが、ダラスを討ち取った者が直に来る……少しでも数は減らしたいか……。)」
ワイドネスは凄まじい踏み込みで、直進してきた。直後、自身が持っていた鎌を振り翳してくる。
ポー「直接狩ろうって魂胆だな!甘い!」
ポーが割って入り、鎌を鉄球で受け止めた。凄まじい金属音が鳴り響く。
ワイドネス「人間にしては力があるな。だが、」
ワイドネスは切り返しを行い、今度は逆方向から鎌を振り翳してきた。
ポー「……!!(クソ!速い!)
斬撃の速さにポーは反応し切れず、鎌の斬撃を受けてしまう。辺りに鮮血が舞う。
直後、私とイースちゃんが斬撃と重撃を繰り出す。だがその攻撃は、忌々しい結界術で防がれる。防がれたと同時に、ポーを切り裂いた鎌が襲いかかる。
私達は咄嗟に防御したものの、後方に大きく飛ばされてしまう。
ワイドネス「では、逝くが良い。」
ワイドネスは直線状の闇魔法を、私達に向けて放出する。
ミズキ・イース「……!!」
ハンス「2人ともよく踏ん張った!俺も参戦する!
……風遁・風刃波!!」
闇魔法が私達に襲い掛かろうかという所で、ハンスさんが加勢に来てくれた。ハンスさんは、風の波を直線状に放出し、闇魔法を相殺した。
ワイドネス「ふむ。骨のある人間が加わったか。しかし貴様は万全ではない。既に光の者2名は戦闘不能、残りの1名は欠陥品。
少し力があるだけの男、弱い女侍、欠陥品の光の者、万全ではない忍者……1対4ではあるが、恐るるには足らんな。」
ワイドネスからは、確固たる自信が満ち溢れていた。嘘を述べているわけではなかった。イースちゃんは欠陥品なんかじゃないとして……認めたくはないが、他の事はワイドネスにとって、事実を述べているに過ぎなかった。
……しかし私達にも意地がある。ここで負ける訳にはいかない。
人数はこちらに分がある状況ではあったが、ワイドネスは余裕の笑みを浮かべていた。この後、私達はワイドネスの強さを、思い知らされる事になるのであった……
…… 第五章 第十話へ続く




