第五章 第五話 命を懸けて
俺達はシシオウとドグマを倒し、残りの魔物達の討伐を図っていた。
「シシオウ様ガァ!」
「ドグマ様もやられたァッ!チキショウ!!」
「オレ達だけでも、残りのニンゲンどもをコロスゾォ!!」
魔物達は躍起になって、俺達に襲い掛かってきた。
「ぎゃぁっ!!」
「ぐわぁっ!!」
魔物達の怒涛の攻撃によって、更にこちらの被害は大きくなっていった。
ゲンジ「皆の者!幹部達は3体とも倒した!!後は親玉だけじゃぁっ!!我らの勝利は目の前じゃぁっ!!皆の想いを背負い、我らの未来を勝ち取るぞおぉっっ!!!」
一同「おおおぉぉっっっ!!!」
師匠の喝により、再び士気を取り戻した俺達は、息を吹き返した様に、魔物達に反撃した。
ポー「絶対に勝つ!!俺達は負けられないんだぁ!!オラァァァッッ!!」
「ギャァッッ!!」
ポーは自慢の鉄球を振り翳し、魔物達を次々と潰していく。残りの前衛達も、剣を振り、槍を突きながら反撃していった。
ミズキ・イース「はぁっ!!」
ミズキは輝水刀による斬撃を、イースは腕の重撃を魔物達に見舞う。
ゲンジ「破ぁぁっっ!!」
守「はぁっ!!」
そして師匠は掌底、俺は拳の連打を魔物達に叩き込んでいく。
皆の奮闘があり、躍起になっていた魔物達は次々に倒れ、消滅していく。
俺達は既に、砦前の橋の手前まで来ていた。そして、作戦開始時の時点では200体以上いた魔物達は、残り数体となった所まできていた。
「もう……もうダメだぁぁっっ!!」
残りの魔物達は後退りを始めたかと思うと、全速力で砦の方に逃げ込んだ。
ゲンジ「皆の者!勝利は目前じゃぁっ!!砦の方に急ぐぞぉ!!」
俺達は急いで砦の方に向かった。
ゲンジ「……!?(この邪悪な気配は……!?) 皆の者!一旦止まれぇ!!」
砦前の橋の上に、大きな黒い霧の様な渦が発生していた。逃げ込んだ魔物達は皆、渦の一部に捕えられた。
「あっ……ワイドネス様……」
「貴様ら……戦闘放棄か……?」
聞こえてくる声は落ち着きがありながら、激しい憎悪と怒りに満ちた、凄まじい迫力を感じた。
「ちげぇんです!オレらもう残り少なくて、シシオウ様もドグマ様もやられちゃったんで、ワイドネス様に助けを求めようと……」
「貴様ら如きが、助けを求める?私が何故、貴様らの指図を受けなければならないのだ!その暇があったら人間の1人や2人を、あの世に送れたのではないか!?」
「ヒイィィィッッッ!?」
「貴様らはもう居なくて良い。目障りだ。死ね。」
「ギャァァァァァッッッッッ!!!」
声の主がそう言った直後、捕えられた魔物に黒炎が吹き出し、魔物達はあっという間に消滅した……
ゲンジ「…………(マズイ。コイツは情報が殆どない。しかもこの魔力……想像以上じゃ……。)」
黒い渦が晴れたかと思うと、3mに迫ろうか程の大きさで、上品な黒い衣を着た悪魔が現れた。その風貌や服装は、西洋の話で出てくる「ドラキュラ」を思わせる様な物であった。更に両手にはハンター2名の姿があった。
「良くぞここまで辿り着いた!人間ども!敬意を表して、特別に名乗ろう!私はこの領地を奪った、ワイドネスという名の大悪魔だ!!この2名は貴様らの仲間だな!」
ゲンジ「あれは……スコット!ケニー!」
防衛戦でも、裏の活躍をしていたハンターであった。しかし、今回はワイドネスに捕えられてしまった。
ワイドネス「私の力を見せてやろう!」
ワイドネスはそう言った直後、2人の身体に球体を纏わせ、一気に圧力をかけ、押し潰してしまった。奴の両手にはバラバラになった2人の亡骸と、大量の鮮血が流れ落ちた……
一同「!!!!」
ゲンジ「スコット!!ケニー!!何という事をおおぉっっ!!!」
ワイドネス「見せしめだ。この位はまだ序の口ではあるがな。この2つの魂を使わせて貰う。」
今度は、ワイドネスが魔法を念じたかと思うと、両隣には完全復活したシシオウとドグマが現れた。
シシオウ「ワイドネス様!人間如きに遅れを取ってしまい、大変申し訳ありません!」
ドグマ「おおおぉぉぉんっ!!復活させてくれて、ありがとうございますゥッッっ!!」
ワイドネス「良い。後で貴様らには、更なる力を与える。」
守「……!!」
俺は後ろを振り向くが、シシオウとドグマが倒れていた筈の場所は、既に2体ともいなかった。
ワイドネス「幸い、お前達は仮死状態であった為、復活させる事が出来た。ダラスは既に捨て身の呪いを発動し、復活はさせられなかったが……。お前達の働き、期待しておるぞ。」
ワイドネスは話を続ける。
ワイドネス「……だがその前に。更なる私の力を、人間共に体感して貰おう。体感どころか、全滅するかもしれないがな。」
ゲンジ「……まずい!!!守ぅっ!!イースぅっ!!ワシに続けぇっ!!!」
ワイドネス「……冥土の土産だ。受け取れぇ!人間共よぉっ!!」
ワイドネスは両手から黒く禍々しい、強烈な直線上の広大な闇魔法を放出してきた。
ゴオオオオオオオォォォッッッ!!!
俺とイースは、師匠の後に急いで続いた。
ゲンジ「皆の者は、すぐに下がれえぇぇぇっっっ!!!」
すぐさま、師匠は両手で、広大で強力な守護壁を展開した。俺とイースはその守護壁に両手を当てがい、持っている限りの気力を注入した。
ゴオオオオオオォォォッッッ!!!
俺達は守護壁で、ワイドネスが放つ闇魔法を防いだが、魔法の威力は絶大で、立っているのがやっとの状態だった。
ゲンジ「(加えて相性の悪い闇魔法……これは…………)」
守「ぐっ!!(なんて威力だ……もっていかれそうだ!!)」
イース「くぅっっ!!(立っているのが、やっとです……)」
ミズキ「師匠!守さん!イースちゃん!」
ゴオオオオオォォォッッッ!!!
闇魔法は未だに止む気配はない。俺達は全力で気力を注いでいたが、守護壁に次々とヒビが入っている様に見受けられた。
ゲンジ「(このままでは、弟子達まで巻き込んでしまう!!
…………………………………覚悟を決める時じゃな…………師匠……父上……母上…………スイジュ……。あの世から見ていてくれ…………貴方達が未来を担う若者達を守って、死んでいった様に、ワシも責務を全うする。
…………力を貸して下さい!!!)」
守「……!!師匠!?」
師匠の体から、絶大な気力のオーラが立ち込めた。今までとは違う、異質な雰囲気が感じ取れた。
ゲンジ「最高の弟子よ…………愛弟子よ…………自分勝手な師匠で本当に申し訳ない。お主達と最後に出会えて良かった……。……未来は……お主達に任せるぞ!!」
守・イース「……!!師匠!?」
その瞬間、師匠の身体から強烈な衝撃波が放たれ、俺とイースは後方に大きく吹っ飛ばされた。
ゲンジ「(我が生命の分も掛けた守護壁……必ず弟子達を守り通す!!) …………ハアアアアアアアッッッ!!!!」
守護壁は更に光り輝き、闇魔法を相殺させていく。
ワイドネス「……!!(何と!私の全力の闇魔法を防ぐというのか…………しかし、あの老人は……終わったな。)」
ドゴオオオオオオオオォォォンンンッッッ!!!!!
守「師匠おおぉぉぉっっっ!!!!」
強烈な爆発音と大量の煙が立ち込めた。
その煙が晴れ、爆発場所を確認すると…………師匠がボロボロの状態になって倒れ込んでいた。
守・イース「師匠ぉぉぉぅっっ!!!!」
ミズキ「老師ぃぃぃっっ!!!!」
俺達3人は急いで、師匠の元へ走っていった。
…………師匠は既に瀕死の状態であり、鮮血や肉片が飛び散り、原型も留めていない位に、損傷していた状態だった。
ミズキ「…………!!……師匠!今、手当します!!」
ミズキは特殊な傷薬を、師匠に使った。しかし、師匠の身体の損傷が激しく、傷は一向に回復しない。
ミズキ「傷が塞がらない!そんな……そんなぁっ!!!」
ゲンジ「もう良い。ミズキ。薬は……もう効かん。」
師匠はミズキの手を握り、傷薬を止めた。
ゲンジ「すまないな…………ワシの勝手な判断で……。ただワシは……ゴフッ!!…………この戦いが終わるまで、待っているからな。今は、目の前の敵に集中するのじゃぞ……。お前達なら必ずやり遂げられる。本当に申し訳ないが……頼んだぞ……!」
ミズキ・守・イース「………………はい……!!」
俺達は涙を流しながらも、師匠の言葉に応えた。
ワイドネス「シシオウ、ドグマ。私は一旦魔力を補充する。更なる力を分け与えよう。光の者2名と、女侍1名を確実に葬るのだ。」
シシオウ「承知致しました。私は光の者である男を、確実に殺します!(ジジイはもう終わりだ。この戦いは我らの勝利だ!)」
ドグマ「分かりましたぁ!オレはクソ女とクソチビデブドラゴンを確実に殺しまぁす!やったるぞおぉっっ!!」
ワイドネスが出現させた黒い魔力を、シシオウとドグマは取り込んだ。
直後、シシオウが大きく息を吸い込んだ後、強烈な狂咆哮を上げた。ドグマもそれに呼応する様に、激しい雄叫びを上げた。
シシオウ「ガアアアアアアアァァァッッッ!!!!」
ドグマ「ウオオオオオォォォッッッ!!!!」
狂咆哮と雄叫びは俺達を襲う。俺は咄嗟に守護壁で防いだ。近くにいたミズキやイース達は守れたが、残りの後方にいる味方達は全員、狂咆哮と雄叫びを受けてしまった。
ポー「(クソ…………何だ………………身体が震える……身体が動かねぇ!!何だってこんなに恐怖してるんだ…………チキショウ……チキショウ!!!)」
俺達を除く味方全員が、恐慌状態に陥ってしまった。
またシシオウもドグマも、更に筋肉が隆々となり、爪や牙は鋭く長くなり、両眼は真っ赤になっていた。
ワイドネスに与えられた力を取り入れている事に加え、強狂化の状態となったのである。
シシオウ「先程は良くもやってくれたなぁ!!後はテメェらだけだぁっ!!やるぞぉっ!!ドグマァァッッ!!!」
ドグマ「ウオオオォォン!!やるぞぉっ!!シシオウゥゥッッ!!もう負ける気がしねぇっっ!!」
師匠の命懸けの守護壁術で、全滅は免れた。しかし師匠は瀕死の状態となり、一時は優勢であった奪還作戦であったが、俺達は最大の窮地に追い込まれていた…………
…… 第五章 第六話へ続く




