第一章 第四話 立ちはだかる親友
2023/1/3 一部修正しました。
「久しぶりだな。守。」
依頼達成があと寸前の所で立ちはだかった男は、俺の良く知る人物であった。
男の名前は南原 翔。俺とは小学校からの親友だ。小学校の時に別の学校から転校して、一見冷たい様な雰囲気や、素っ気ない態度が災いになり、周りに馴染めていなかった。
そういう俺も小学校の時はイジメられており、1人っきりだった。力が弱くて運動も駄目で、自信がいつもなかったのがあって、周りの人間の癪に触ったのだろうか。
しかし翔は違った。翔とは徐々に親しくなり、中学に上がる頃には親友となっていた。だが、高校は別々となり殆ど会えなくなった。確か高校卒業後は警察隊に入隊しているはずであったが……
翔「警察隊に入ってから色々な事があったんだ。適合者ってのに選ばれて、色々な実験の被検体にさせられたり、特殊な訓練をさせられたりで、ひでぇ目にはあったが……まぁそのお陰で物凄い強くなったけどな。」
おそらく昔の俺だったら、翔に負けていただろう。
しかし俺は血が滲む様な、人外の存在になり得る様な暗殺者になる為の訓練を受けている。いかに特殊な訓練を受けていたり、実験体になったからといって、警察隊如きに俺が遅れを取るなんて絶対に有り得ない。
守「そこをどけ。翔。俺は復讐の為に今こんな所で立ち止まる訳にはいかないんだよ。どの道ターゲットの奴も死んで当然のクソ野郎だ。守る道理なんてないだろ。」
翔「守…出来れば戦いたくはなかったが…。今からでも暗殺者を辞めるつもりはないのか…。」
守「俺は立ち止まる訳にはいかない。俺だって酷い目に沢山あった……けれど目的があったから、ここまで来たんだ。もう少しなんだ。本当にあともう少しなんだよ。邪魔をするなら、殺しはしないが実力行使で道を開けてもらうぞ。」
翔「知っているよ。お前は本当に辛い目にあってきたんだよな。目的の事も……だからこそ俺はお前を止めなきゃいけないんだ。小学校の時お前が、1人っきりだった俺と根気良く接してくれたお陰で、俺は孤独にならずに済んだんだ。優しくて、人殺しなんて出来ない様な、思いやりがある人間が本当のお前なんだよ!」
そんな事もあったか。俺は小さい時から運動が苦手で力が弱くて、勉強も出来る方ではなかった。反面、頭が良くて運動神経も抜群で、1人で何でも出来る様な翔が羨ましかったんだ。
翔は俺をいじめていた奴らや、傍観している奴らとは違った。人の外見や建前じゃなくて、心を見てくれる奴だった。徐々に接していく内に、仲良くなれたのが嬉しかったんだ。こんな良い奴と仲良くなれたっていう、俺にとっての自信にもなったんだ……
……ただそれも昔話だ。今は今の問題がある。
翔は何故か俺の目的や今までの経緯を知っているらしい。ただそんな事はどうでもいい。この任務を遂行したら、遂にあの殺人者に復讐する機会が訪れるのだから。
守「出来ればお前とは、こんな形で会いたくなかった。」
翔「俺もだよ。俺はお前を止める……いくぞ!」
その会話が合図となり、両者が前方に走り込んだ。暗殺者訓練のお陰で速度には自信があったが、速さは何故か翔の方に分があった。
守「速い……!生身の人間が何故こんな速さで動ける?」
翔が持っていた刀……というよりも長剣を俺の胸に目掛けて袈裟に振りかざしてきた。俺は持っていた刀で何とか防ぐ。剣は速いだけでなく力強い。ただその力も利用しながら俺はバックステップで一旦距離を取った。止めると言っていたが、これは命を断つ意図があっての攻撃だとすぐに理解した。翔は俺を殺す気だ。
守「殺してでも止める気か……そうなると加減は出来なくなるぞ。」
翔「構わない。俺は死んでもお前を止める。」
そう言うと翔はまた俺の方に踏み込んで来た。先程はかなりの速度が出ていて見切れなかったが、強力な風が奴の足元に出ていたのを確認出来た。特殊な実験の被験体になった効果か?それとも靴が特殊な構造をしているのか?いずれにしろ、あの速度はやはり生身の人間が出している物ではなかった。
今度は翔が剣による連撃を繰り出してきた。速度に分がある奴の攻撃を、俺は何とか刀で防ぎながら対応する。剣や腕の周りにも風が覆われており、移動速度だけでなく剣による斬撃の速度や、威力も底上げされている様に見て取れた。
守「これがお前の力か……(ただ風で強化されているという事は……)」
正体不明であり非科学的な能力に驚愕するも、何とか冷静さを取り戻しつつ、その能力の弱点や対応策について思考を巡らせていった……
……第一章 第五話へ続く