第四章 第七話 模擬戦 対ゲンジ
慰労会の翌日、俺とイースは師匠との模擬戦に挑む事となった。その模擬戦には、ハンスとミズキが立ち会う事になった。
ハンス「立会人は、私とミズキがやらせて頂きます。戦闘不能、危険だと判断した場合、2人の時はその1人を救出させて頂き、残り1人の場合は、模擬戦を止めさせて頂きます。」
ミズキ「宜しくお願い致します!」
ゲンジ「いよいよじゃな。2人が防衛戦で生き残ってから、どれだけ成長しとるか……楽しみだわい。ハンスの時と同じく、2人いっぺんにかかって来い。」
守・イース「はい!師匠、宜しくお願いします!」
ハンス「それでは……始め!」
ハンスが開始の合図をしたと同時に、俺とイースはそれぞれ別角度から、師匠に近付いていった。
ここまではハンス戦と同じであったが、イースは白銀の息を師匠へ向けて吐き出していった。
ゲンジ「ほう。(そう来るか。)」
師匠は左手で気の壁を作り出し、白銀の息を防ぐ。
同時に俺は、左ジャブ中心の隙がない連撃を、師匠に見舞う。しかし師匠は右手で、俺の連撃を全て捌いていく。
ゲンジ「速さや威力はまずまずとなったが……ワシの防御は崩せんよ!」
守「イース!」
イース「はい!守さん!」
イースが白銀の息を止めると同時に、師匠の元へ突撃し、右腕の重撃を繰り出す。俺はタイミングを合わせ、渾身の右ストレートを、イースの重激と同時に合わせた。
ドゴォッ!!
ゲンジ「ぐっ!(……流石は兄弟弟子じゃ!息がピッタリじゃな!)」
師匠は両手で攻撃を防いだが、後ろに大きく吹っ飛ぶ形となる。そこから俺達は追撃に入る。
イース「はぁっっ!!」
ゲンジ「!(片手だと受け止めきれん……)」
イースの重撃は想像以上に威力があり、師匠は片手では受け止められない程だった。師匠の手が弾かれると同時に、防御が空いている箇所へ、俺が連撃を見舞う。
ドゴッ!ガツッ!
剛体術も発動しており、ゲンジの身体は鋼鉄の様に硬かったが、俺の拳も闘気で威力が増している。
俺の攻撃は片手でも捌けるが、イースの重撃に対しては片手だと弾かれてしまう為、師匠は両手でイースの攻撃を防ぎ、剛体術で俺の攻撃を耐える形を取っていた。
ゲンジ「2人とも!良い連携じゃぁ!(このままでは、ワシの方はジリ貧じゃな。もう少し力を出させて貰おう。)
はぁぁぁっ!!」
師匠は更に大きく強力な壁を出現させた。イースの攻撃だけでなく、俺の攻撃も防がれてしまう。
俺は体勢を維持したが、イースは自らの攻撃の威力がある分、更に衝撃が跳ね返ってしまい、体勢を崩してしまった。すかさず師匠はイースの元に直進する。
守「(まずい!一対一の状況となる!)」
二対一の状況だからこそ渡り合えるのであり、一対一になったら確実に負けてしまう。
守「うおぉぉぉ!!」
俺は全速力で2人の元へ直進した。
師匠は掌底をイースに打ち込もうとした。だが、間一髪俺は間に合い、右手の守護壁で師匠の攻撃を受け止めた。
イース「守さん!」
守「……!(凄い威力だ……!)」
受け止めた右手に強烈な痺れが生じる。しかし師匠は攻撃の手を緩めない。
ゲンジ「素晴らしいぞ!最高の弟子よ!じゃが、これはどうじゃ!玄武連撃衝!!」
物凄い威力の掌底と衝撃波が、連撃として見舞われる。俺は何とか両手の壁で防いでいたが、長く持ちそうにない。
すかさず、イースが右腕の重撃を師匠に繰り出す。
ゲンジ「はっ!」
だが今度は師匠は身を屈めて、イースの重撃を避けた。イースは勢いの余り、転げ落ちてしまう。
ゲンジ「玄武重撃脚!!」
師匠が珍しく脚技を使ってきた。俺は両手で防いだが、後方に大きく吹っ飛ばされる。
ゲンジ「玄武連撃衝!!」
そして残されたイースは、師匠の連撃を喰らってしまう。しかし、イースは身体を固めて、何とか耐え切っていた。
イース「くぅ……!!(凄い威力です!負けそうです……でも耐え切ってみせる!)」
ゲンジ「(鉄壁じゃ。剛体術に加え、種族の力もあるか……じゃが。) 玄武大衝波!!」
イース「……!!」
あのシシオウを圧倒した技だ。手加減しており、同じ技でも威力は少ないといえど……直撃したらイースは戦闘不能になるだろう。
守「はぁぁっっ!!」
俺は急いでイースの前に立ち、両手の壁を使い、師匠の攻撃をまた間一髪で防いだ。しかし威力が凄まじく、俺はまたしても後方に大きく吹っ飛ばされる形となった。
イース「はぁっ!」
イースはすかさず、白銀の息を吐いた。しかし師匠は既にそこにはいなかった。
ゲンジ「愛弟子よ……その息攻撃は隙が大きい。使うタイミングは、後でワシが教える。」
師匠はイースの背後に回り、強烈な……拳骨をイースの頭頂に見舞った。
イース「あう…………」
イースは目を回し、前のめりに倒れた。
ミズキ「イースちゃん!」
ミズキは倒れているイースをすぐさま回収した。
イース「すみません……ミズキさん……」
ハンス「イース君は戦闘不能!あとは守さんだけです!」
守「……!(どんだけ強い拳骨なんだ……)」
ハンス戦と同じく、あとは俺が残されてしまった。
ゲンジ「最高の弟子よ……覚悟!!」
師匠は俺に直行し、掌底の連撃を放つ。合間に蹴り技も交えられ、両手では防ぎ切れず、何発も掌底や蹴りを入れられてしまう。俺の身体はみるみる内にボロボロになり、倒れるのは時間の問題だった。
守「ぐっ……!(反撃が出来ない……!だが……やるしかない!)」
俺は決死の覚悟で、大振りの右ストレートを見舞おうとした。
ゲンジ「最高の弟子よ!それじゃ隙だらけじゃぁ!」
師匠は、俺の顔面に向けて掌底を繰り出した。
守「(今だぁ!)」
俺は顔面に気を集中させ、師匠の攻撃を耐え抜いた。
そして師匠の空いた顔面に、全力の右ストレートを叩き込んだ……と思いきや、師匠は左手で攻撃を防いだ。
守「(ならば、このまま振り抜き、防御を打ち破る!)」
俺は全体重を乗せて、右腕の力を更に込めた。だが、急に右腕の手応えがなくなり、俺はそのまま崩れ落ちてしまった。師匠は俺の攻撃を受け流していたのだ。
ゲンジ「(受け流しを使うつもりはなかったのじゃがな……)成長したな……一瞬ヒヤッとしたぞ。じゃが、まだまだじゃ。」
力を左回転方向に受け流され、そのまま師匠と向き合う形となってしまった……師匠は硬く強い正拳突きを、俺の顔目掛けて繰り出した。その強烈な攻撃は直撃した。
守「ぐっ……!まだだ!」
俺はギリギリの所で踏み留まった。視線を目の前の師匠に、照準を合わせる。
……しかし師匠は既に、そこにはいなかった。
ゲンジ「最高の弟子よ……落ち着いた後に、反省会じゃな。」
守「……!!」
師匠はいつの間にか、俺の背後に立っていた。俺は攻撃箇所を予測した。
守「(あの拳骨が来る!頭頂部に気を集める!)」
……だが、師匠の攻撃は頭頂部への拳骨でなく、延髄部の強力な手刀だった。不意を突かれた一撃を喰らい、俺はその場に崩れ落ちた……
ハンス「……そこまで!勝者、ゲンジ老師!」
俺とイースで望んだ、二対一での師匠との模擬戦は……師匠の勝利で幕を閉じたのだった……。
ミズキ「大丈夫ですか!守さん!」
守「はい……大丈夫です。はは……やっぱり師匠は強いです。」
ハンス「そうだね。ただ、何発か老師に攻撃を入れてたし、かなり粘れたんじゃないかな。凄い成長だよ。」
ミズキとハンスが、心配と労いの声を掛けてくれた。
守「師匠は技を出してはいましたが……いずれも手加減していた物でした……。」
ゲンジ「(ぬっ!バレておる!?負けても自信を失わない様にするつもりが……)
そんな事はないぞ!2人とも大した成長じゃよ!ご苦労じゃった!それでは反省会をするかの!」
まず、イースについてだったが、息攻撃を接近戦の時に使うのは、悪手との事だ。隙が大きくなり、避けられれば反撃を喰らう可能性が高い。また改善はされてきたが、特に息攻撃の時は、頭頂部の防御がまだ甘いとの事であった。
ゲンジ「ただ愛弟子は、身体の頑強さ、重撃の威力は凄まじい物がある!息攻撃は敵が遠距離の時に使う、または牽制時に使用して、相手の行動範囲を狭める時に有効じゃ。
あと、防御と反撃の切り替えがもう少し速いと良いな。後で練習じゃ!」
イース「はい!手合わせと御指導、有難う御座います!」
ゲンジ「うむ。して、最高の弟子は……」
一方俺の方は、拳闘と空道の技術の融合……攻撃は主に拳闘、防御は主に空道の物で、しっかり使い分けられていたとの事だ。
ただ、防御時に攻撃を無理に先読みして、一箇所に気を集中させてしまう傾向にある。それがハマれば良いが、裏を掻かれた場合、防御が手薄になる諸刃の剣となってしまう。
ゲンジ「シシオウの連撃も速いじゃろう。更に両手を駆使した、空道と守護壁術の防御を磨くのじゃ。そして、反撃する際は焦らぬ様にな。ワシは拳闘の方は専門外じゃが、空道と拳闘を融合した独自の戦闘法……より磨いていってほしい。」
守「はい!手合わせと御指導、有難う御座います!」
ゲンジ「うむ。少し休んだら、反省点を基に修行を再開するぞ!」
守・イース「はい!」
その後、イースは剛体術で身を固めてから、攻撃に素早く移る練習や、攻撃時には特に頭頂部や腹部への気を張り巡らせる様に意識しながら、修行に励んだ。
俺は師匠の連撃をひたすら両手で、且つ空道と守護壁術を駆使して防ぐ修行に励んだ。また、合間に反撃を可能なら入れていく、という事も意識しながら修行に励んでいた。
最後の追い込みをする中で、いよいよ非戦闘者の移転が行われる日が来た。決戦の日は、もうすぐの所まで来ていた。
…… 第四章 第八話へ続く
 




