第三章 第十話 「ただいま」
臨時村の防衛戦は、俺達の勝利で終わった。
しかし俺は生死の境を彷徨う、超重症を負い、応急処置を受ける手前で意識を失った……
防衛戦の時に感じた、シシオウの強烈な殺気と咆哮、取巻きが目の前で息絶えた事、シシオウの苛烈な攻撃を受けての痛みや恐怖に苛まれていた。
そんな時、高校の2年生でボクシングの試合に負けた時、俺を励ます為に、父親が言ってくれた言葉が聞こえてきた。
「……守!その悔しさを糧にしろ!これはもっと強くなるチャンスなんだ!負けたままじゃ終われないだろ!!もっともっと強くなって……その強敵に挑んでいけ!!その強敵を超えていけ!!
その強敵に、Revengeだ!!!」
その言葉を胸に練習を必死に頑張ってた事を思い出した。最終的にリベンジはなされなかったが、俺はその経験から立ち向かう心と、負けても挫けない心を手にした筈だったんだ。
……なのにあの時怖気付いて、恐怖して……身体が震えて動かなくなって……挙げ句の果て殺されそうになった所を助けてもらった……
あの戦いは、自分の為だけじゃなく、皆の為の戦いだったのに…………皆に申し訳ない…………自分が情けない……!!
………………悔しい!!!もっと強くなりたい!!!
そう強く思った時…………光が見えた。
ゆっくり目を開けると、そこにはゲンジ、ハンス、ミズキ、そしてイースがいた。
ゲンジ「おぉ……おぉ!!目を開けたぞい!!!」
ミズキ「守さん!!気が付きましたか!良かったぁ……良かったです…………」
ハンス「本当に深刻な状態だった……本当に良く無事だった……。」
イース「守さん……守さん!!良かった……良かったです!!本当に守さんがいなくなっちゃったらって考えて……………………うわぁぁぁぁぁん!!!!」
そう言うとイースは泣きながら、俺に抱きついてきた。
ゲンジ「これ!イース!嬉しいからって大怪我人じゃぞ!強く抱き締めたらいかんじゃろぉ!」
と言うゲンジも、泣きながら俺を強く抱き締めていた。
ミズキ「老師!言ってる事とやってる事矛盾してますよ!……私が入れないじゃないですか……でも本当に良かったです……」
ミズキは俺の右手を強く握り、寄りかかる様に泣いていた。
ハンス「本当に良く無事だった……本当に…………。」
ハンスは涙ぐみながら、俺の左肩に腕を添えた。
4人の姿を見て、俺も涙を流した。本当に生きる事が出来て良かったと……。そして、俺は自分の胸中を語った。
守「…………あの時……あの防衛戦で、私はシシオウの咆哮と殺意に恐怖を抱き、身体が震え、足がすくみ、戦う事が出来なくなりました。目の前にいた仲間も……助ける事が出来ませんでした……。本当に……本当に……情けないです!」
ゲンジ・ハンス「(……おそらくシシオウの咆哮の効果か……)」
ミズキ「守さん程の気持ちが強い人が!?そんなにシシオウが凄かったんですね……」
イース「守さん…………」
守「シシオウは確かに凄かったです。……ですが、何よりも自分自身が情けなく、惨めだったんです。皆の為の戦いだったのに……あんな醜態を……。助けてくれたゲンジさんを始め、皆さんには大変申し訳ないと思っています。
……本当に悔しいし、情けないです!!!
だから…………今度戦う時には最後まで立ち向かって……必ず勝ちます!!!!」
ハンス「!!(おそらく恐慌状態だった……特別な治療が必要であったり、生涯続く事もあると言われる異常状態を……短期間で、しかも自力で克服した!?)」
ゲンジ「(流石じゃ。恐慌状態を克服しよった。) うむ。オヌシの心意気……しかと聞いたぞ。」
続けてゲンジは俺を抱きしめて、涙を流しながら優しく話した。
ゲンジ「……オヌシがシシオウと戦っていたお陰で、沢山の命が救われたんじゃ……有難う。……そして本当に良く無事じゃった…………。本当に良かった…………。
守よ。おかえり。」
ハンス「守さん。おかえりなさい!」
ミズキ「守さん!おかえりなさい!!!」
イース「守さん…………おかえりなさい!!!」
守「……ゲンジさん、ハンスさん、ミズキさん、
イース…………」
ハンスは涙を流し、ミズキとイースは更に大粒の涙を流しながらも、笑顔でそう言ってくれた。
俺も更に大粒の涙が、次々とこぼれ落ちていった。
こんな俺を……こんな俺なんかの為に「おかえり」と言ってくれるなんて…………
守「(父さん……母さん……今俺は素晴らしい師匠と仲間に巡り会えたよ…………俺はもっと強くなって生き抜いて、皆を守れる様になりたい…………。
世界は違うけど、俺はこの世界で強く生きるね……。)
その時一瞬だけだったが、2つの光が、俺を見守る様に浮いていた様に見えた。世界は違えど、両親が俺を見守ってくれているのかもしれない……。
そして、俺は涙を流しながらも笑顔で、4人にこう答えた。
守「……………………ただいま!!!」
…… 第三章 完
…… 第四章 第一話へ続く
第三章は完結となります。
ここまで読んで頂き、有難う御座います。
次回から、第四章に入ります。




